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第2話 幽霊を探し訪ねて 〝下り坂の先〟 3/4



 左カーブの上り坂を行くと栞乃の話の通り、噂の橋はあった。

 長さ200メートルほどの橋だ。

 橋を渡れば100メートルほどの緩やかな下り坂。

 その先に、事故が多発する交差点がある。

 橋は二車線で片側に歩道がある。わりと新しく、ここ数年の間に建設されたようだ。

 カエ姉は車を堤防の道に止め、キミたち4人は車を降りた。


「車に気をつけるのよ」


 カエ姉は座席を倒して昼寝を始めてしまった。

 堤防の道を橋へ向かって歩き、その全長を横から見て千秋がキミに、


「どこにでもある普通の橋よね?」

「まあな。ツタやロープの吊り橋だったら驚くけど、いくら田舎文明でも国道でそんな橋はないさ」


 とりあえず橋を往復した。


「予算ケチって外灯の間隔は広いけど、やっぱり普通よね」


 千秋は愚痴をこぼすように言った。

 栞乃はというと、橋の欄干から身を乗りだして川や河川敷にある畑を見下ろすと意味ありげにふむふむと頷いたりしている。

 気分はすっかり現場検証をする心霊探偵のようだ。


「栞乃ちゃん、何か分かったの?」

「この橋は新しいのだ!」

「んなこと見れば誰だって分かるぞ」


 栞乃は、ちっちっちっと指を振った。


「この橋が建っている横に、古い橋が掛かっていた形跡を見つけたのだ。きっと古い方の橋は老朽化で取り壊しになって、新しくこの橋を作ったのだ。それに交差点へ向かう下り坂の道路は、大がかりな道路工事をしているのだ」


 キミは橋の下り坂の方へ目をやった。

 短いけれども確かに古い道路と坂があった。

 取り残されてあるその坂は、おそらく古い橋の名残だろう。


「すごいね栞乃ちゃん、もしかして交通事故の原因も分ったの? やっぱり幽霊の仕業?」


 ハルは栞乃の推理に感心した。

 そんなハルに栞乃は、考えこむように腕組みをしてわざとらしく唸った。


「橋というのは大切な荷物が行き来して、人と人とを、強いて言えば、心をつなぐ架け橋なのだ。壊された古い橋はそれを忘れるなと言っているのだ」


 キミは、ぶぅ! と吹き出して、


「誰が良い話をしろと言った。古い橋の祟りじゃねーか」

「栞乃、そんなこと言ってたら全国の古い橋の周りは交通事故だらけよ」

「そうだよ栞乃ちゃん。交通事故は交差点で起きているんでしょ? 橋は関係ないと思う」

「ななな何なのだ!? みんなで寄ってたかって何なのだ!」


 栞乃は顔を赤くして地団駄を踏む。


「こうなったら徹底的に調べてやるのだ! みんなも巻き添えなのだあ!!」


 馬鹿声を張り上げ、むきになった栞乃は交差点に向かって大股で歩き出した。

 憤慨し過ぎて手と足が左右同じに出ている。


「あーあ、怒っちゃった。ああなると始末に負えないのよね」

 嘆息する千秋。


「栞乃ちゃんに悪いことしたのかな……」

 ハルは言い過ぎたかも、と複雑な心境だった。





 栞乃は鼻息を荒くして歩く。

 キミはその後ろに付き添った。

 と、ぽつりぽつりと雨粒が落ちて来た。

 肩をピクッとさせた栞乃はキミに振り返り、手をグーにすると仁王立ちで、


「雨天決行なのだ!」


 宣言して、堤防に止めてあるカエ姉の車に駆けて行ってビニール傘を持って来た。


「雨でも雪でも槍が降ってきてでも、探索は続行なのだ!」


 栞乃はキミに強引に傘を押し付けて握らせると、千秋とハルにも傘を持たせた。

 栞乃は自分の黄色い傘をちゃんと持参していて、これをさした。


「ちゃっかりしてるわよね。抜け目ないっていうか」

 千秋は黄色い傘を眺めた。


 栞乃がさしている傘は、小学生がさしている子ども用。


「栞乃ちゃん、物持ちいいから大切に使っているんだね」

 ハルは関心して言った。


 急に雨の降りが強くなった。

 それでも傘をさして交差点へと向かう。

 交差点は、県道と町道とが国道に接続する十字路で、信号機が設置されてある。

 見通しは悪くない。むしろ良いほうだ。


 キミは交差点の手前に立ち、


「普通の交差点だよな。本当にここが交通事故多発スポットなのか?」

「ちょっとちょっと、これ見てよ……お花が供えてある……」


 千秋がキミの肩を叩き、指で指し示す。

 信号機の柱の下、縁石との間に花束が供えてあった。

 土埃にまみれた花束もあれば、数日前に供えたような新しい花束がある。

 その花束といっしょに、缶コーヒーやジュースが数本とお菓子が置いてある。

 お菓子はカラスに突っつかれていた。

 雨のせいなのか、肌寒くなってきた。


「……これってつまり……」


 傘を握る千秋の手が妙に白い。


「こっちにすごいのがあるのだ!」


 横断歩道の向こう側で、栞乃が声を上げてきみを呼んだ。

 栞乃と一緒にハルもいて、2人で立て掛けてある縦長の看板を見ている。

 キミは千秋とともに信号を確認し、横断歩道を渡る。

 栞乃はキミに、


「これを注視するのだ」と看板を指さした。


 その看板。上の方に『お願い』とある。

 3月5日午前6時31分頃、この場所で『乗用車』と『乗用車』の『出合頭』の交通事故が発生しました。見た方、知っている方は連絡をお願いします。

 日付、乗用車、出合頭、部分は手書きだった。

 このお願いの看板が2つ、立て掛けられている。

 しかもその横に、


 注意!! 5月11日 死亡事故発生現場!


 という看板があり、これの他に別の日時で3つも看板がある。

 それら事故注意や交通安全の看板が、葬式の花輪のように交差点に立て並んでいる。


「月1で事故のある交差点なのだ! 交通事故の路上販売、ドライブスルーなのだ!」

「嫌なこと言わないでよ栞乃……そんなの誰も買いたがらないから……」


 千秋はやや上擦った声で言った。腕に鳥肌がたっている。

 看板を見ていたキミにハルが、


「看板にはない接触事故とかたくさんありそう。路肩にプラスチックの破片が落ちてたよ」

「マジか……」


 キミは車道と歩道を別ける縁石へ歩き、車道側を確認した。

 車のライトが割れたのか、そこには橙色に赤色、透明なプラスチックやガラスの破片があった。

 看板にある事故もそうだが、軽度な接触事故も頻発する交差点のようだ。

 雨の降りしきる中、黄色い傘が横断歩道を行ったり来たりする。

 町道を数メートル歩いたと思ったら県道側を歩いたり、橋の坂を上ったり下がったりした。

 そして往き交う車を眺め、信号機を見つめてはその柱を叩いたりした。


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