第2話 幽霊を探し訪ねて 〝下り坂の先〟 1/4
例のごとく隣の教室からニコニコ笑って栞乃は、一直線にキミの机にやってきた。
「小旅行の計画を立てたのだ!」
キミは前回のキャンプもあるので「またか……」と呆れた。
「喉元過ぎれば熱さを忘れるってことわざは栞乃のことを言うためにあるんだなあ」
「怪談の辞書にそんなことわざは載ってないのだ!」
キミと栞乃が話しているところに、
「どうしたの?」とハルが来て会話に加わった。
「海水浴場に一泊二日で行く小旅行の計画を立てたのだ。ちょうど海開きで賑わっているのだ」
「栞乃ちゃん海に行くの? わあ、いいなあ!」
ハルは羨ましそうな笑みを浮かべた。
「みんなで一緒に行くのだ」
「……えっ? でも栞乃ちゃんの計画はいつも……」
途端にハルの表情が曇った。
前回のキャンプ計画の主が海へ行く計画を立てたその裏側に、ハルは『何かある』と悟ったようだ。
「これが旅のしおりなのだあ!」
ノートを1枚やぶった紙を出した栞乃。
キミとハルに見せた。
紙にはこう書いてある。
一日目 橋の秘密を暴く。
二日目 海水浴場で遊ぶ。そのあと、鳥海山山麓の樹海を探検。
シャーペンで書かれた二行のみ。
「幽霊がでるという噂なのだ! 真相を調べに実際に現場へ行ってみるのだ」
栞乃の計画を要約するとこうだ。
皆瀬村から国道398号線をずっと走ると、雄物川という川を渡る橋があり、渡るとすぐに交差点がある。
実はこの交差点、地元では自動車事故の多発スポットとして知られており、その事故の原因が、幽霊が関係しているとの噂があるらしい。
この噂の真相を暴くべく、栞乃は橋に何かしらの要因があるとみて、一日費やして調べたいとのこと。
次いで二日目は海で遊び、その後、秋田県と山形県に跨がる山、鳥海山の樹海を探検して、なんなら山菜を採ってお土産にしよう、という計画を立てていた。
「事故多発に幽霊の影あり! なのだ!!」
栞乃は高々に紙を掲げて見せびらかした。
「栞乃ちゃん、幽霊に影ってあるの?」
「あるのだ、影も足もちゃんとあるのだ」
キミは、言葉の綾だろ……と嘆息して、
「またカエ姉にお願いして車を出してもらうのか?」
「もうお願いして了承済みなのだ!」
目論みが成功してほくそ笑む栞乃。
「計画通りってわけかよ。カエ姉もよく賛成してくれたな」
「カエ姉は新車を購入したのだ」
「えっ!? 栞乃ちゃんそれ本当?」
「ホンダの新型ハイブリッドらしいのだ。お金がなくて、買えねえ買えねえと言っていたカエ姉が、ついにフィットオーナーになったのだ」
おそらくカエ姉は、新車を手に入れて、早速ドライブにでも行きたかったのだろう。
そこに栞乃が、今回の計画を目敏く持ちかけてカエ姉の了承を得たらしい。
キミは事の経緯を了解した。
「策士だな、栞乃は」
「なんのことなのだ?」
栞乃はキョトンとした顔をした。
「そんなことより今回の小旅行はカエ姉の新車のこけら落としも兼ねているのだ」
「言葉の使いどころ間違ってるぞ、それを言うなら納車式だ」
「あはは、納車式だったのだ。そこでお願いがあるのだ!」
と栞乃はキミに、
「千秋を誘ってほしいのだ。ハルも参加するし、海で水着姿になるって言えば、もれなく付いてくるのだ」
お願いするのだ、と言って、栞乃はさげた頭の上で「この通り!」と両手を合わせた。
「えぇー、水着は着ないよ? 日焼けすると湿疹出来ちゃうから」
ハルは制服のポケットから日焼け止めクリームを取り出して見せた。
異常な肌の白さは紫外線アレルギーも関係していた。
「それでもいいのだ。嘘も方便、水着を持ってくるだけでいいのだ。実際は着ないけどってわけなのだ」
「栞乃、お前えげつないな」
とは言いつつキミは、隣のクラスに赴いて、栞乃が計画した小旅行の話を千秋にした。
「みんな行くの?」
千秋はさほど気にしていない風に、キミに尋ねた。
キミは栞乃のいう通り、噓も方便を実践する。
「カエ姉の運転で栞乃とハルも行くって。二人とも水着を持って行くらしい……」
「水着着るの!? みんながどんな水着着るとか言ってた? Aラインとかタンキニとかワンピースよね?」
えらく食いついてくる千秋。
「まさかモノキニとかビキニじゃないわよね!?」
キミは心を悟られないように頬をポリポリ掻いた。
「さ、さぁ? 水着の種類までは知らないけど……で、小旅行に参加するか?」
「ちょっと待って」
千秋は何かを考えている様子だ。
「病弱な娘に男は弱いっていうし……もし水着で現れたら一瞬でコロッと靡いちゃうかも」
念仏を唱えるように小声でぶつぶつ言う。
「なに意味の分からないことを……行かないのか?」
「みんなが行くなら参加する! 今年の新作水着を早速買いに行かなくっちゃ!」
「そんなに張り切るなよ。なんてたって幽霊探索なんだし……」
「関係ないわ! みんなに負けないように気合い入れて臨むところよ!!」
火がついたように千秋は意気込みを見せた。




