第8話 〝死んだ旅行者〟 1/3
時刻は夜8時をまわっている。
『カエ姉が天体望遠鏡を貰ったんだって』
電話をかけてきた千秋がそう言った。
『文化人を気取ったカエ姉に誘われて、今から行くんだけど』
キミを天体観測に誘う電話である。
「ははっ。天体望遠鏡を持っているだけで文化人か」
キミは、かるく鼻で笑った。
「あれって、隣の家を覗く道具だろ? 都会じゃ向かいのマンションを覗いたり」
『…………………………』
無言の千秋。
キミは咳払いをして、
「でもなあ……カエ姉の車って事故車だし、乗りたくないんだよな」
『カエ姉、神社で御祓したってさ』
千秋は出かける準備をしているのか、電話の向こうでガサゴソ音をたてながら、
『幽霊を撥ねても生きてる人間じゃないから事故証明書が発行されなくて、ほとんど泣き寝入りで神社行って来たらしいよ。三万円も包んだから安心だって』
「お金の問題か……?」
『さぁ……で、どうする? ねぇ、一緒に行かない? 満月の綺麗な夜だよ? 絶好の観察日和なんだよね。ロマンチックな感じでしょ?』
千秋は妙に甘えた声で誘ってくる。
「うーん、どうすっかなぁ……」
天体観測に行くか行かないか決めかねていると、キミの家の前で、
「そこに隠れているのは分かっているのだ! 無駄な抵抗は止めて出てくるのだ!!」
拡声器で言っているかのような大声だ。
さらに車のクラクションが短く鳴った。
「……聞こえたか?」
キミは溜息まじりに言った。
『バッチリ。それじゃ迎えにくるの待ってるから。また後でね』




