うなぎの棒寿司・握り寿司
出発まで、あと七日。
その数字を胸に刻みながら、六人はそれぞれの持ち場に戻っていた。カイル配下の警備隊はフォレステッジ側の防柵の警戒を厚くし、ダグとヴァルガはボーダーウッズ側の討伐官たちと共に、森の外縁の巡回範囲を少しずつ広げていく。瘴気の濃さを確かめながら、来るべき日に向けて、それぞれのやるべきことをこなす日々だった。すでに向かうと決め、日取りも定まっている。あとは、その日までにできる限りの備えを済ませるだけだ。
その日の夕暮れ、藍色の暖簾をくぐったのは、カイルとルチアだった。
「おやじ、相談したいことがあるんだ」
「なんだ」
おやじが手を止めずに答える。焼き台からは、いつもと変わらない甘辛い匂いが立ちのぼっていた。
「森に入ったら、しばらく街には戻れねえ。道中の飯、どうしたもんかと思ってな」
おやじは手を止め、少し考えるように顎を撫でた。
「棒寿司だな。酢飯と鰻を押し固めるやつだ。日持ちが段違いにいい」
うなぎの棒寿司は、強めの酢で締めた飯に蒲焼を重ね、ぎゅっと押し固めて作る押し寿司だ。酢と塩の殺菌効果はもちろん、時間を置くほどに蒲焼のタレの深みが飯へ馴染み、風味が深まる。旅路の合間でも手汚さず食せる職人の知恵だった。
「あとは握りだ。こっちは日持ちはしねえから、出発の朝に握って持たせてやる」
「そりゃあ助かる。道中で傷みにくいやつを中心に頼めるか」
「あいよ」
その言葉に、ルチアがほっと表情を緩めた。
「ありがとうございます。皆さんのお腹が満たされていれば、それだけできっと、乗り越えられる気がします」
その時だった。カウンターの端から、しわがれた声が割り込んできた。
「生のまま握るのも、悪くねえんだがなあ」
ちょうど湯呑みを傾けていたじいさんだった。ふと思い出したように、ぽつりと漏らす。
「……は?」
カイルが、思わず聞き返した。
「生、って……鰻を、生でか」
「ああ。ここで、昔食わせてもらったことがある」
じいさんは、事もなげにそう続けた。
「この店で……?」
ルチアも、目を丸くしたまま固まっている。火を通さない魚を口にするという発想自体、これまで見聞きしたことがなかった。
「おやじ、そうなのか」
カイルが尋ねると、おやじは手を止めないまま、あっさりと頷いた。
「ああ、あるぞ」
「そんなのもあったのか」
カイルが、感心とも呆れともつかない声を漏らす。
「うなぎに関しちゃ、この店はほんと、何でもあるんだな」
「あの時の味は、今でも忘れられねえよ」
じいさんが、愛おしそうに湯呑みを撫でた。
「じいさんがそこまで言うなら」
カイルが、少し考えるように腕を組んだ。
「おやじ、俺たちにも頼めるか」
「……まあ、いいだろう。ただし、今日じゃねえ。仕込みに時間がかかる。二日待ってくれ」
火を通さない生の鰻は、下ごしらえに途方もない手間と時間を要する。職人としての妥協を許さないおやじの眼光に、カイルは静かに首を縦に振った。
「それに、こいつは皆で食った方がいい」
「なら、また今度な」
カイルがそう言うと、じいさんは満足そうに湯呑みを傾けた。
「……生の鰻、どんなお味なんでしょうか」
ルチアがそっと呟く。未知の料理に対する恐れよりも、この店が紡ぎ出す新たな味覚への期待が、胸の奥で静かに膨らんでいくのだった。
◆◆◆
鰻の血には、微量ながら毒がある。イクチオヘモトキシンと呼ばれる、蛋白質性の毒だ。生のまま体内に取り込めば腹を下すどころでは済まず、目に入れば爛れ、傷口に触れれば腫れ上がる。だが、この毒にも弱点があった。熱に極端に弱く、六十度ほどの湯に五分もくぐらせれば、たやすく分解されてしまう。だからこそ、鰻という魚は長い間、火を通す食べ方でしか広まってこなかった。生のままで味わうには、泥を吐かせて身の泥臭さを消し、毒気を含んだ血を完全に抜き切り、氷水で冷やし固め、熟成させる。火を通さないからこそ、職人の絶対的な技量と、入念な仕込みの刻を求む料理なのだった。
◆◆◆
二日後の夕暮れ、六人は約束通り、藍色の暖簾の下に集まっていた。
「今日は、約束の日だったな」
ダグが、待ちきれない様子でカウンターに座る。
「聞いた時から、ずっと気になってたんです」
リタも、いつになく落ち着かない様子で帳面を構えていた。
「ああ。仕込みは済んでる」
おやじはそう言うと、氷で冷やされた木箱から、すでに血抜きを終え美しく整えられた生の鰻のサクを取り出した。
すっと研ぎ澄まされた柳刃包丁が滑る。刃の動きに迷いはない。淡い桜色をした薄切りの身が、皿の上に一枚一枚、花びらを散らすように美しく並べられていった。青みがかった清涼な香りが、カウンターにほのかに漂う。
「まずは、刺身で食ってみな。わさび醤油と、ポン酢もみじおろしだ」
差し出された小皿には、鮮やかな緑のわさびを解いた醤油と、赤みを帯びたもみじおろしが浮かぶ琥珀色のポン酢が、それぞれ爽やかな香りを放っていた。
「いただきます」
一切れ目を食べたルチアが、目を見開いた。
「美味しい」
ルチアが箸を止められない様子で、二切れ目へと手を伸ばす。
(――こんな食べ方があったなんて……!しっかりとした歯ごたえがあるのに、決して嫌な硬さじゃない……!噛むたびに清涼なうなぎそのものの味が溢れてきます……!)
「相変わらずだな、聖女様」
カイルが苦笑しながら、わさび醤油に一切れくぐらせて口へ運んだ。
「……すごい弾力だ。噛むほどに身の味わいが滲み出てくる。焼いた身のフワッとした質感とは、まったく違うな」
ダグも追加で一切れ、今度はポン酢の方に浸けて頬張ると、腕組みをしたまま唸った。
「こっちは、さっぱりしてやがるな。もみじおろしの辛みと酸味が、脂をすっと洗い流していく。何切れでもいけそうだ」
外套の下では、二対目の腕が待ちきれない様子で緩やかに伸び始めている。
「あたしにゃ、ちいと物足りねえな」
ヴァルガが、小皿のわさびをこれでもかと刺身に盛り付け、一気に口へ放り込んだ。
「ぐっ……! ……効くねぇっ! だが、この強い歯ごたえと甘い脂には、これくらいガツンと来るわさびが誂え向きだぜ!」
鼻を突き抜ける激痛に涙目になりながらも、強がるヴァルガ。その横で、ダグは両手で刺身と握りを交互に口へ運んでいた。両手が塞がり、口いっぱいに頬張って言葉が出ないダグに代わって、額の口がペラペラと喋り出す。
『生で食おうと思いついた奴の胆力たるや、相当なもんだぜ……!ポン酢もみじおろしも酸味が効いてて何貫でもいけそうだ!』
「まったく、しゃべらずに食べられないのかい?」
ヴァルガが呆れたように言うと、店の中に小さな笑いが広がった。
「私も、味わってみます」
リタが箸を進め、口に運んだ瞬間、珍しく帳面のことを忘れたように黙り込んだ。
「……言葉が、追いつきません。これは、記録するより先に味わうべきものですね」
「そんなことまで言うなんて、珍しいな」
カイルが笑うと、リタは真顔のまま小さく頷いた。
「私も、いただくわ」
シャノンが静かに箸を伸ばし、もみじおろしのポン酢を選んで一切れ味わうと、幸福そうに目を細めた。
「森育ちのあたしには、少し贅沢な味ね」
「こっちが棒寿司だ」
おやじが竹の皮を開き、棒寿司を差し出した。ぎゅっと押し固められた酢飯の上に、飴色に照り輝く蒲焼が隙間なく敷き詰められていた。芳ばしい蒲焼の匂いが立ちのぼり、その奥から酢の爽やかな香りが追いかけてくる。
「こっちは、密度が段違いだな」
カイルが口に運ぶと、ぎゅっと詰まった酢飯と蒲焼が、噛むごとに一体となって解けていった。
「握りも、どうぞ。焼きと生だ」
続けて置かれたのは、握り寿司だった。人肌にほんのりと温められた酢飯の上に、蒲焼の一切れ、刺身の一切れが、丁寧に一貫ずつ乗せられている。タレの照りと生の艶が、カウンターの灯りを受けて美しく光っていた。
ルチアが蒲焼の握りを指先でそっと持ち上げると、温かなシャリの香気と、炙られたタレの深い匂いが一気に鼻腔をくすぐる。
それを一気に口へ運ぶと、ルチアの瞳が大きく見開かれた。
(――ふんわりと解けるシャリの温もりと、香ばしく解ける身の脂が、口に入れた瞬間ひとつに合わさっていく……! 甘辛いタレの濃厚なコクを、シャリの優しい酸味が包み込んで、喉の奥へとしなやかに消えていくようです……!)
「美味しいです」
いつも通りの、澄ました一言。だが、口元がわずかにほころんでいた。
「生もしっかり楽しんでくんない」
「訳すと生はそうそう出さねえから、今のうちに食っときなってことさ」
じいさんの言葉に、六人はもう一度刺身の皿へと箸を伸ばす。淡い桜色の身が、灯りを受けて艶やかに輝いていた。
「じいさん、いい話を持ってきてくれたな」
カイルが礼を言うと、じいさんは照れくさそうに湯呑みを傾けた。
「なに、俺も久しぶりに食えて満足さ。この歳になっても、まだ知らねえ味があるってのは、悪くねえもんだ」
「出発の日は、道中用の握りと棒寿司を頼む。それと、おやじの言ってた別のメシ、そっちも頼むな。試食はいいや。どんなもんなのか、楽しみにとっておこう」
カイルが改めてそう告げると、おやじは短く返事をした。
「あいよ」
生の一切れは、この日だけの特別な一皿として、皆の記憶に刻まれた。
「ごちそうさまでした。本当においしかったです」
ルチアが深々と頭を下げると、六人はそれぞれにおやじに声をかけ、満足感に満ちた顔で席を立った。
藍色の暖簾をくぐって店を出ると、夜風はまだ冷たかったが、どこか湿り気を帯びて、季節の変わり目を思わせた。橙色の灯りに照らされた路地を、六つの影が思い思いの方角へと伸びていく。
「出発まで、あと五日ね」
シャノンがふと夜空を見上げて呟くと、カイルが短く答えた。
「ああ」
「棒寿司に握り、おにぎりまで仕込んでもらうんだ。道中でひもじい思いをすることはなさそうだな」
ダグが満足げに腹を叩くと、カイルも小さく笑った。
「ああ。これだけの飯を持たせてもらうんだ、無事に帰ってきてまたここで美味いもんを食わねえとな」
「当たり前だ。副隊長を突っ走らせて討伐官が遅れをとるわけにゃいかねえ」
特別な言葉を交わすでもなく、ただ並んで歩く夜道。橙色の明かりに照らされた路地を、六つの影が静かに歩んでいった。
◆◆◆
それから二日、六人はそれぞれの持ち場で、忙しい日々を送っていた。
カイルは、警備隊員たちへの訓練の指揮に加え、森の境界線沿いの警戒を一段と厚くしていた。防柵の点検をしながら、部下たちと言葉を交わす時間も増えている。誰かを守る立場というのは、こういうことの積み重ねなのだと、改めて思う。自分の剣が、この街の誰かの安心に繋がっている。それだけで、進む理由としては十分だった。
ダグとヴァルガは、討伐官たちとともに森の外縁を巡回し、瘴気の広がり方を丹念に記録していた。
「なあ、ヴァルガ」
巡回の合間、ダグがふと足を止めて尋ねた。
「行った先で何が待ってようと、お前は変わらなそうだな」
「当たり前だろ。あたしは、暴れて、食って、また暴れる。それだけだ」
ヴァルガが事も無げに答えると、ダグは短く笑った。単純明快なその答えが、今の自分たちには、ちょうどいい支えになっている気がした。
リタは領庁で、これまでの報告を一つにまとめ、辺境伯への説明資料を作り上げていく。夜遅くまで灯りが消えない執務室で、ふと手を止め、窓の外を見上げることがあった。数字と記録だけでは測れないものが、この一月余りの間に、確かに積み重なっている。それを、うまく言葉にする術を、リタはまだ持っていなかった。
シャノンは森番の一族のもとへ通い、道中の地形について、可能な限りの情報を集めている。年老いた長老の一人が、シャノンの顔をじっと見つめて言った。
「お前さん、育ての親のことを、まだ諦めてないんだね」
「諦めるつもりなんて、最初からないわ」
シャノンの答えに、長老は静かに目を細めるだけだった。
誰もが、それぞれのやり方で、来るべき日に備えていた。
◆◆◆
そんな中、街の南側でスタンピードが起きたのは、出発を三日後に控えた昼下がりのことだった。
「スタンピードだ!南側、防柵が保たない……!」
警備隊の一人が、血相を変えて詰所へと駆け込んでくる。森の際から溢れ出した数十体の魔獣の群れが、畑を踏み荒らしながら街の外壁へと押し寄せていた。防柵が軋み、あちこちで鈍い衝突音が響いた。
「くそっ、まただ!南、人手を回せ!」
カイルが剣を抜きながら怒鳴る。だが、駆けつけた隊員たちの誰もが、すぐに異変に気づいた。
「隊長……!こいつら、様子がおかしい!」
牙を剥く獣の体表を、薄汚れた黒い靄が覆っている。以前この街を襲った群れとは、明らかに違う気配だった。
「瘴気にやられた魔獣だ!全員気をつけろ!」
カイルの顔色が変わる。瘴気を纏った魔獣は、通常の個体とは桁違いの生命力と狂暴性を持つ。通常なら、たった一体を討伐するだけでも熟練の騎士十人がかりで挑むような大物だ。それがこれほどの規模で、しかも一斉に押し寄せてくるなど正気の沙汰ではなかった。
ちょうどその時、ルチアは差し入れのおにぎりを配りに、外壁近くまで足を運んでいた。すぐ隣には、報告書の下調べのために現場を視察していたアイリスの姿もある。
「聖女様、危険です。お下がりください」
アイリスが咄嗟にルチアを庇うように前へ出た、その時だった。
「――浄化の光」
ルチアが右手を軽く掲げると、澄んだ光の線が群れ全体へと降り注いでいった。牙を剥いていた獣たちの体表から、黒い靄が次々と剥がれ落ちていく。続けて、もう片方の手をそっと胸の前に添えた。
「――どうか、安らかに」
「聖声の福音」が、瘴気を失ったばかりの群れへと、一息に広がっていく。荒れ狂っていた瞳から、次第に凶暴さが抜けていく。獣たちはおとなしくなり、その場に静かに伏し始めた。
「な……止まった、だと……!?」
防柵に取りついていた警備隊員が、驚愕の声を上げる。
「今のうちだ!大人しくなった奴から、森へ追い返せ!」
カイルが即座に指示を飛ばすと、隊員たちが力の抜けた獣の群れを、慎重に森の方角へと追い立てていく。
「……よかった、間に合いました」
ルチアは小さく息をつくと、掌に残った光の名残を愛おしそうに見つめた。それから、隣に立つアイリスへと、嬉しさを隠せない様子で振り返る。
「アイリスさん、すごいです!一度にこんなにたくさんの子たちを助けられたのは、初めてです!毎日鍛練を続けてきて、本当によかったです!あ、いえ、皆さんにケガがないか見てまいります」
ルチアは自らの成長を実感できたことが心底誇らしいというように、可憐な笑みを咲かせたが、慌てて聖女の顔に戻った。
だが、その言葉を聞くアイリスの顔からは、血の気が完全に引いていた。
(……間に合いました、ですって……? 騎士が十人がかりで当たるような瘴気持ちが数十体……。まともに当たれば騎士二千人分の戦力が必要な大暴走を、たった一人で……?)
手にした帳面のペンが、紙の上でカタカタと震える。
(これが銅級……? そんな、あり得ない!広域の瘴気浄化と広範囲の安息の重複行使……! こんな芸当ができるのは、本部の白金級か、最上位たる純白級の聖女様だけだわ……! 一体どうなって……!?)
そこへ、異常事態の報告を受けて駆けつけたリタが、息を切らして到着した。
「聖女様、被害の規模を確認したく……」
言いかけたリタの声が、静まり返った畑と、おとなしく森へ戻っていく魔獣の群れを見て絶句する。
「……これを、全て、聖女様が?」
「ええ。みんなが無事で、本当によかった」
喜ぶルチアの答えに、リタは眼鏡の奥の目をきらきらと輝かせた。
(――桁が違う……!これほどの規模を、単独で、一瞬で……!?やっぱり、ルチア様はすごい方です……!こんな規模の瘴気持ちのスタンピードを、こんなに短い時間で……!記録に残さなければ!いえ、記録なんて追いつかない、この目に焼き付けておかなければ……!)
帳面を構える手が、興奮のあまりわずかに震えている。数字ではとても測れないものを、また一つ目撃してしまった。それが誇らしくて、リタは頬を緩めるのを堪えられずにいた。
「聖女様……お体は、本当に平気なのですか……?」
アイリスが絞り出すような声で尋ねると、ルチアはきょとんとした顔で振り返り、温かな布で包まれた籠を差し出した。
「はい、大丈夫です。それよりアイリスさん、おにぎり、まだ温かいうちにどうぞ」
差し出されたおにぎりを受け取りながら、アイリスは、自分が今しがた目撃したものが何だったのか、うまく言葉にできないままだった。隣で頬を緩めているリタとは対照的に、その顔色はまだ戻らない。ただ一つ確かなのは、これまで積み上げてきたどんな記録も、この光景の前では意味を成さないということだった。
◆◆◆
王都、武具庫の奥。伝説の聖剣を探す任務は、まだ何の手がかりも掴めていなかった。
「聖剣の在り処、本当に見つかるのか」
若い兵の問いに、老練な武具番はただ首を振るしかなかった。
「千年近く行方知れずだったものだ。そう簡単には見つかるまい」
兵の編成にも、まだ数週間はかかる見込みだった。事態の深刻さに見合うだけの動きには、王国はまだ程遠い。
◆◆◆
夜、藍色の暖簾をくぐれば、いつもの匂いと温もりが六人を迎えた。大騒動の後とは思えぬほど静かな席で、ただ黙々と飯を食う。
「あと、三日だな」
ダグの言葉に、カイルが短く頷く。
「ああ。備えは十分だ」
「なら、腹を括っていくだけね」
シャノンの呟きに、全員が口元を緩めた。店を出ると冷えた夜風が頬を撫でる。橙色の灯りに背を押され、六つの影はそれぞれの夜へと溶けていった。




