恋を覗き見
「僕ちょっと呼ばれてるから、悪いけど個人練習してて。すぐ戻ってくるから」
全体練習中に裕太先輩が時計を見ながらそう言った。
「先生からの呼び出しですか?」
「いや、ちょっとクラスメイトから体育館裏に呼び出されてて、、、」
「え?女子からですか?」
「まあそんなとこ、、、そんな大したことじゃないよ」
「謙遜が過ぎますよ。僕からしたら嫌味ですからね」
「ハハハ、行ってくるよ。」
裕太先輩はそそくさと行ってしまった。体育館裏に呼び出し。女子。されることは決まっている。
「ちょっと見に行きませんか?」
「いやいや、ダメでしょ。」
「綾城は気にならないの?」
「気にはなるけど、やっぱりダメでしょ。須波先輩も言ってください」
須波先輩は俯いて少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「わ、、、私も見に行きたいかな、、、」
「え〜〜〜〜!」
綾城はひっくり返りそうな勢いで叫んだ。それは行きたいこともそうだが喋ったことに驚いているようだった。今まで相槌しかしてなかった須波先輩が喋った。高校に入学してまだ1ヶ月も経ってないがこんなに驚くのはこれが最後かもしれないな。ちょっと大袈裟か。須波先輩の顔が徐々に赤くなっている。これはもしかして、、、あれか?
「じゃいいよ、僕と須波先輩で見に行くから」
「ちょっと待ってよ。二人が行くなら、私も行くわ」
結局三人で行くことになった。間に合うように早足で向かって、体育館裏の曲がり角で聞き耳を立てた。
「嬉しいよ、ありがとう。でもごめん、俺、好きな人いるんだ」
裕太先輩の声が聞こえる。この言葉から推測するにフったんだろう。フラれる現場なんて初めて見た。見たというより聞いたか。裕太先輩はイケメンでピアノも弾けるので告白には驚かないが好きな人がいるのは驚いた。どことなく大人びているから少し意外で、裕太先輩も高校生らしく恋してるんだなぁ、とひっそりと僕は思った。
ここからどうなるんだろう。大人しく引き下がるのか、はたまた駄々をこねるのか。
「、、、正直OKもらえると思ってた。私って魅力ないの?」
なんてセリフを言うんだ!そんなセリフを言う人が存在するなんて、にわかには信じがたい。どれだけ自分に自信があるんだ。こんなこと言う人間にどう返しても修羅場と化すだろ。詰めるような声で空気がひりつく。僕たちは黙って裕太先輩が口を開くのを待った。
「そんなことない。恋浦は素敵な女性だよ。」
「じゃあどうして?その人は私以上に素敵な人なの?私より可愛くて、私よりも関係が深いの?」
「う〜ん。その人は、華があるわけじゃないし、恋浦よりも遅く出会った。でもその人は僕にはないところがあって、僕ができないことができるんだ。僕はそこに惹かれて、好きなんだ。分かってほしい。」
「そう、分かった、もういいよ。じゃあね」
その言葉が聞こえた直後、恋浦さんは僕たちが聞き耳立てている曲がり角を曲がってどこかへ走っていった。目を手で覆っていたので僕たちが壁際にいたことはバレなかった。僕たちは壁から頭を出し、裕太先輩を様子を確認した。かがみ込んでいてなんだか声もかけづらい。思った以上に凄惨な現場を聞いてしまい、僕たちまで気まずくなってしまった。
結局意気地なしたちは音楽室へ一言も話さずに戻った。
「ただいま〜〜ってどうしたの?」
「な、なんでもありませんよ。さ、さあ全体練習をしましょう」
「そう?」
ギリギリバレなかった。その日の帰り、綾城と恋愛について少し議論した。
「なんだか今日とんでもないこと聞いちゃったわね。」
「そうだな、とんでもなかったな。ていうかやっぱり先輩ってモテるんだな。」
「秋鹿と違って清潔感あるしね。恋浦って人は自信あったんだろうね。かわいそっ」
「なんで俺に攻撃してくるんだよ」
「秋鹿は髪切りなさいよ。昔の米津玄師みたいになってるけどそれって前見えてんの?」
「ほぼ見えてない。やっぱ髪長いほうがアーティストっぽいじゃん。」
「言わんとすることはわかるけど、演奏に支障をきたさないようにね。」
「分かってるよ。」
「でもやっぱり、失恋して泣けるくらい悲しかったってことはいい恋をしたんだろうね。」
「そうだな。先輩も罪な男だよ。」
「呼び出しに動揺してなかったことから見るにこうやって何人も泣かしてきたんだろうね。私だったら耐えられないかも好きな人に好きな人がいるの。」
「そうだな〜。俺もそうなったら2週間は寝込む自信がある」
「私も」
告白を聞いた後の全体練習で須波先輩は少し機嫌がよくなって、リズムキープが狂ったりしたそうです。
感想待ってます。




