演技
放課後、音楽室には先輩が先にいてキーボードの準備をしていた。
「お疲れさ〜ん。歌は決まった?」
「いくつか候補は決まったんですけど、選べなくて綾城さんの選んだ歌次第で決めようと思います。」
「分かった。ライブまで時間があるとは言え、早めに決めてね」
「分かりました」
ベースのセットをしていると須波先輩も来た。挨拶をして、目が一瞬あったけど逸らされた。そしてすぐにドラムの椅子に座ってスティックをクルクルし始めた。よくわからない人だけど嫌な人には見えないしこう言う不思議な人なんだろう。軽く挨拶を交わした後、黙々と機械の準備をし始めた。
「なあなあ綾城、歌決めた?」
「、、、決めた。でも難しいかもしれない。私ギター以外の知識ないから他の楽器から見てのこの歌の難易度がわからないからみんな聞いてみてほしい。」
「なるほどね。なんて歌?」
「準透明少年って歌。」
聞いたことがなかったのでみんなで僕の歌を含めて聞いてみることになった。僕が選んだ歌は『カルマ』と言う歌。昔から弾いてたのでおそらく僕は完成度の高い演奏が出来ると思ったから。綾城が選んだ『準透明少年』は心の叫びを歌にしたような感じでかっこよかった。初めて聞いたけど僕はこの歌のことをめちゃくちゃ気に入ってしまった。どっちを歌うかいう話になったが僕が準透明少年がいいと言ったので、準透明少年に決定した。先輩方はうんうんと納得した様子だ。
「そういえば誰が歌うんですか?」
「あ、、、そう言えば決めてなかったね。どうしようか僕はめちゃくちゃ音痴だし須波は歌えないし。」
先輩たちは僕らを見る。綾城が選んだ歌は高くて多分僕は歌えない。というか僕は人前で歌うなんて勇気が宿ってないので無理だ。綾城もそれが分かっているのかため息をついた。それは僕に勇気がないということじゃなくてそもそも歌えないということ。そして口を開いた。
「じゃあ、私が歌います、、、。」
渋々、綾城がそう言ってくれたことで、ボーカルは決定した。ギターは一人だし綾城の負担がめちゃくちゃ大きくなってしまうが仕方がない。もう一人ギターが入部してくれたらいいのに。目立つことが嫌いそうな綾城は死んだ顔でギターに向かってブツブツしゃべっている。励まそうかと思ったけどやめて、僕は椅子に座って準透明少年ののタブ譜を調べた。そう言えばまだ顧問に会ってないけどいいんだろうか。そもそもいないのか?
「裕太先輩、顧問の先生に挨拶行かなくていいんですか?」
「ああそっか。まだ会ってないのか。多分校門でタバコ吸ってるから挨拶してきな。うちの学校の教員でタバコ吸うのはあの人だけだからすぐわかるよ。」
「僕たちだけで行くんですか?」
「うん。二人で行ってきな。基本的にあの人は来たい時に来るからこっちから行かなくていいんだよね。最近失恋して荒んでるから気をつけてね。」
「わかりました行ってきます。」
「綾城はなんで軽音部に入ったんだ?」
校門まで移動中に聞いてみた。
「私、中学の頃トラブルを起こしてほとんど学校に行ってないの。トラブルは、まあ私が悪くて。それで家でずっとギターを弾いてたの。アニメとかもみてこんなキラキラした学校生活を送りたいなって憧れもあって軽音部に入部したの。秋鹿くんはどうして軽音部に?」
「秋鹿でいいよ。僕も中学からベースを弾いてたんだけど一人でする音楽ってつまらなくて、いや楽しいんだけど寂しいから、だから軽音部に入ったんだ。」
「そうだったんだ。それにしても軽音部に人がいなさすぎない?もっとたくさんいると思ってた。私からすると緊張しなくていいんだけど。」
「そうだよな〜。もしかしたら今どき楽器自体弾く人が少ないのかもな。」
「悲しいよね〜、そのせいで私の負担がすごいことになってるから、せめてもう一人ギターが入って欲しいわ」
「頑張ってな。練習には付き合うから」
「本当よ、あ、あの人じゃない?」
校門前には塀に座ってタバコを吸っている教師の姿があった。背中から伝わる凄惨さでこっちまで悲しくなる。もう見るからに落ち込んでいる。
「あの〜すいません」
「ん?どうした?」
綾城が話しかけるとこちらを向いた。目にクマがあって髪が長い。背は高くてなんというか大人って感じがする。
「軽音部に入部しました。綾城玲です。よろしくお願いします」
「同じく軽音部に入部しました。秋鹿汐音です。よろしくお願いします」
「おお、新入部員か。顧問の相模彰だ。これからよろしく。二人はなんの楽器を弾くんだ?」
「ギターです」
「ベースです」
「バンドが組めるじゃないか。良かった良かった。もしかしたら今年はバンドが組めないんじゃなかと思ってたんだ。1ヶ月後のライブ頑張れよ。いるものは先輩を通じて俺に言え。なんでも部費で落とすから。俺もそっちに行って練習を見たいんだけど失恋の傷が深くてな、まだまだ行けそうにない。脳みそをドーパミンで上書きするからそれまで戻って練習しててくれ。」
そう言いながら上に向かって大きく煙を吐き出した。目のクマは失恋の痛みか。
僕たちは毒ガスを喰らいたくないので回れ右して音楽室へ向かった。
話しながら向かっている途中に、綾城が突然体育館の横で止まった。
「どうした?」
「いや、演劇部かな?上手だなって」
「ん?ああ、確かに?」
体育館では演劇部が練習をしていた。なんの項目かはわからないし演劇の知識もないので僕からしたらふ〜んって感じだった。正直演劇に興味がなかった。でも綾城には響いたのか5分ほど体育館横のドアからじっとみていた。一言も発さずにただただ見ていた。綾城は何を見ているんだろう。綾城の目には何がどう映っているんだろう。この演劇練習にどんな魅力があるんだろう。自分にはわからないことが気になってしまう。でも聞けない。聞いていい雰囲気じゃない。
演劇部が休憩に入った時に綾城はハッと我に帰り音楽室に一緒に戻った。戻っている時綾城は
「いい演劇だったよね」
とだけ言った。
なぜ綾城がこの演劇に惹かれたのか分かったのはまだまだ先のことだった。
感想待ってま〜す




