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さよならを歌え  作者: 須景夜々


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2/7

軽音部

「失礼します」


 ゆっくりと音楽室の扉を開ける。背中に掛けているケースがドアの縁にひっからないようにかがみながら入った。窓が開いていてかなり涼しい。春風が部屋いっぱいに満ちている。誰かを待っているように部屋の真ん中に佇んでいた人が、部屋に入ってきた僕を見るなりバタバタと近づいてきた。


「君、入部希望?!」

「あ、、はい。入部志望の秋鹿汐音(あきしかしおん)です。よろしくお願いします。」


僕はぺこりと頭をさげる。


「僕の名前は泉裕太(いずみゆうた)。よろしくね。」


 手を差し出されたので握手を交わして僕は部屋を見渡す。部屋にいるのは今話しかけてきた裕太先輩と奥にいる女の先輩だけだ。部活動紹介に出てなかったのはシンプルに人数が足りてなくて部活として認められてなかったからか。ここはそこそこ進学校だが、軽音部がないはずがないと思って一応音楽室に出向いたわけだけど、きてみてよかった。


「部員は汐音君で三人目。あと一人来れば部活動として正式に活動できるんだけどね。」

「僕で三人目ですか?」

「そう三人目。でもよかったよ。君が背負ってるのギターでしょ。」

「先輩はギターじゃないんですか?」

「僕はキーボードだよ。あっちにいるのはドラム。あとで色々紹介するから。」

「あの、、、すいません。僕が背負ってるの、ベースです。」

「え?」


 部屋の空気が凍りついた。まさかのギター不在。軽音部はギター弾きたい奴が集まってくるんじゃないのか。ギターどころか部員さえいないし。

そろそろ背中がキツくなってきたのでゆっくりとケースを下ろした。


「まぁ大丈夫でしょ。今日もう一人ケースを背負ってる一年生見かけたから」

「そうなんですか」


 話しているとドアが開いた。身長は僕より少し低いくらいでギターケースを背負っている。さらりとしたその髪は触れると崩れてしまいそうだ。音楽室は窓が開いているせいで風が吹いているから髪もいい具合に靡く。初めて見るが、先輩が見た一年生だろうか。

彼女は僕の隣に立って自己紹介を始めた。


綾城玲(あやしろれい)です。よろしくお願いします。」


氷のような声だった。繊細でかつ鋭い声。ガラスとはまた違うその声で挨拶したあと彼女はぺこりと頭を下げた。


「よろしくね綾城さん。隣にいるのは秋鹿汐音くん。クラスは同じ?」


 綾城は僕の顔を見るなり呟くように「知らない人です」と答えた。まあ確かにそうだけどさ、、そんな言い方しなくても。僕も呟くように「初対面です」とだけ返しておいた。


「そっか。これからよろしくね。改めて自己紹介しようか。僕の名前は泉裕太。2年生でキーボードを演奏しています。

あっちにいるのが須波美桜(すなみみお)。ドラムで僕と同じ学年。人見知りであんまり喋るのが得意じゃないけど優しい奴だよ。」


僕たちの番が回ってきた。綾城がチラチラと見てくる。先に言えと言う意味だろうか。


「秋鹿汐音です。中学からベースを弾いてます。よろしくお願いします。」


綾城も続ける。


「綾城玲です。ギター弾けます。ヨルシカが好きです。よろしくお願いします。」


 自己紹介も終わって新入生の実力的なものを見るために何か一つ演奏しようと言う流れになった。軽音部っぽいイベントで少しドキドキする。中学では音楽をする友人がいなかったので人前で演奏するのは初めてだった。

機械を準備をしながら頭で何を弾こうか考えた。ベースって地味って言われがちだしなんかわかりやすいやつの方がいいよな〜弾いて変な空気になるのも嫌だし。綾城はヨルシカが好きって言ってたよな。ヨルシカでかっこいいやつか、、、。よしあれにしよう。


「準備できました。」

「私も」

「どっちからする?」

「僕からします」


 即答した。期待値上げられたらたまったもんじゃないし。

準備ができて弾き始める。雨を彷彿させるような音で心なしかベースの弦も跳ねているように感じる。跳ねるような音を自分で出すこの快感。たまらない。弾いたのは『雨とカプチーノ』。1番だけ弾き終わると先輩たちはパチパチと拍手してくれた。先輩たちはなんの曲かわかってなさそうだったけど綾城だけ弾き始めた瞬間に少し驚いたような顔をしていたので伝わったと思う。


 僕が弾き終わり、ボーっとしていた綾城は焦って弾き始めた。

聞いたことある曲だ。なんか聞いたことある。でも思い出せない。日常のすぐそばにいて遺伝子に刻まれている曲だ。これがわからないなんておかしいんじゃないか。

考えているうちに演奏が終わってしまった。先輩たちは拍手している。しかも分かってそうな顔をしている。

綾城は弾き終わりこちらを見る。


「今の曲分かった?」

「あと少しで思い出せるのに曲名が出てこない。それなんの曲?」

「コナンのテーマ曲」

「っ〜〜〜!」


悔しそうな俺の顔を見て綾城は満足そうな笑顔を浮かべている。してやったりとでも言いたげな顔だ。あとヨルシカじゃないし。俺なんかしたっけ?


「二人ともありがとう。初心者じゃないっぽいし2ヶ月後にあるライブの曲を決めようか。」

「ライブ?」

「うちの学校では年に数回文化祭とかのイベントを除いて校内ライブができるんだよ。」

「なるほど。去年はどうしたんですか?」

「去年は先輩方が決めて一緒にやってたんだけど、その先輩方が急に勉強に目覚めちゃってなんか東大行くとか言い出して軽音部辞めちゃったんだ。もしかしたらたまに遊びに来るかもね」

「なかなかロックな先輩ですね。曲はなんでもいいんですか?」

「ロックバンドのやつだとありがたいけど、まあ好きなのを決めていいよ。僕たちは選択を君らに託します。やりたい曲を二人で決めて。」


 この日は連絡先だけ交換して解散となった。綾城は凄まじい速度でギターを片付けて帰っていった。たぶん急いでるとかじゃなくてシンプルに人見知りな気がする。僕はゆっくりとベースを片付けて学校を後にした。じんわりと赤くなっている空を見ながらイヤホンの音量上げて僕はバス停でバスを待った。

感想待ってま〜〜〜す

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