第47話 子爵家の末路①
男爵家に三男を取り戻すために送り込んだ男たちが予定の日を超えても戻ってこないと、ルドリアス子爵は執務室で歯噛みをしていた。そんな時、執務室のドアが乱暴に開かれ、顔面蒼白の執事が飛び込んできた。
「だ、旦那様! これを!!」
執事が手にしていたのは貴族間のみでやり取りされる特別な封書。封蝋を確認すると新侯爵であるゼオン家のものだった。
「ゼ、ゼオン侯爵家だと!?」
ルドリアス子爵は手に汗をかきながら手紙の封を解き、中を確認する。その内容を読み進めるたびに子爵の顔色が悪くなっていく。
「侯爵様はなんと?」
子爵の顔色で大方の予想はつくが、執事は主人に問いかけた。
「終わりだ」
「は?」
「ルドリアス子爵家はもう終わりだと言ったのだ。新興貴族とはいえ、最上級にあたる侯爵家に喧嘩を売ったことになっておるのだ。どういい訳をしても下級貴族である我が家の主張が通るはずがない。やはり、あの馬鹿な三男の尻拭いなどするべきではなかったのだ」
ルドリアス子爵は手紙を読み終わると頭を抱えてその場に崩れ落ちる。その様子を見て執事が意見を述べた。
「旦那様。こうなってしまったからにはドンスタン男爵家に直接謝罪に訪れたほうが良いかと思います。こちらが謝罪の意思を見せれば取り下げていただけるかもしれません」
「我に格下の男爵家へ謝罪に向かえと申すのか?」
「今回は仕方ありません。家を継げない三男様からの案であったとはいえ、金銭的な支援をする許可を出したのは旦那様ですので。最終的な判断は子爵家当主である旦那様の責任と捉えられても仕方ありません」
「ぐぬぬ。こんなことで侯爵家に目を付けられたままでは非常に不味い。すぐに男爵家に伝書鳥を飛ばせ。向こうが話し合いの場を設けると返事があればすぐに出発をするぞ」
「はっ。すぐに手配いたします」
執事はそう答えると男爵家に向けて手紙を飛ばしたのだった。
◇◇◇
「――ルドリアス子爵家から正式に謝罪をしたいそうだ」
襲撃者たちをゼオンのもとへ送ってから十日あまり経った頃、男爵家に呼び出されたと思ったら一枚の手紙を見せられた。
「なるほど。ゼオンから子爵に警告状が届いたのだろう。それで慌てて謝罪を申し出て来たってところか。手紙を送ったゼオンにではなくてこっちに送ってくるとは余程ゼオンが怖いのだろう」
「それはそうでしょう。私よりも格上の爵位とはいえ、子爵家は下級貴族。ゼオン様は上級貴族の侯爵家ですから懐柔しやすいのはどうみても私の方でしょうから」
手紙を読む俺を見ながらドンスタン男爵が苦笑いを見せる。ようやく自領の経営が上向き始めた時に起こった問題に苦慮しているのだろう。
「それで、どうされるのですか?」
「本件はすでにゼオン侯爵様に一任の形としているのだが、子爵家の三男がこちらに軟禁状態のままだからな。少なくともきちんとした謝罪とともに引取りに来てもらわなければ困るのだよ」
「ああ、そうでしたね。軟禁状態とはいえ、ちゃんとした扱いをしているのだからその対価は取るべきですね」
先日、横暴な態度で取り押さえられた三男は未だ男爵家の軟禁部屋に拘束されている。子爵家との話がつかなければ返す義理もないが、交渉の切り札にはなると思って待遇は普通よりも良くしている。その分コストもかかるが、引き渡し時にふっかけてやれば問題ない。
「当然、そうするつもりだよ。せっかくの機会だ、領内の財政に貢献してもらうつもりだよ。それで、子爵を迎えるにあたってグラン殿に相談したいことがあるのだよ」
そう告げた男爵は俺にある依頼をしたのだった。
◇◇◇
――子爵家当主から連絡が入って二週間後。正規の道を通り男爵領まで辿り着いたルドリアス子爵は領主邸の前で冷や汗を流していた。そこにはズラリと立ち並ぶ騎士団兵士の列。その数、優に百人は下らないように見える。
「ば、ばかな。聞いた情報だと男爵家は財政難のために騎士団を解散していたはず。これだけの人数を雇い入れることなど不可能なはずだ」
左右にきちんと整列した騎士団兵士はその手に剣や槍を携えて来訪者の動向を注視している。
「これは、ルドリアス子爵様ですね。私は当男爵家の再建顧問を請け負っていますグランと申します。お見知りおきを」
俺は男爵本人には出迎えをさせずにゼオンに借りた騎士団と一緒に出迎えをした。向こうの方が家柄は上だが、今回は向こうが謝罪に来たのだ。わざわざこちら側がへりくだる必要はない。
「う、うむ。出迎えご苦労。して、男爵と面会したいのだが案内してもらえるか?」
「どうぞ、こちらへ」
俺はわざとらしくお辞儀をすると澄ました表情で方向転換をして子爵当人を連れて屋敷の入口へと歩き出した。
「――こちらの部屋になります」
俺が案内したのは屋敷の応接室。そこにドンスタン男爵と娘のセシリアが待っていた。
「ようこそ、ルドリアス子爵。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」
「そんな挨拶はどうでもいいから、早々に本題へ入れ」
男爵が形式的ではあるが丁寧な挨拶をすると子爵は苛立ちを見せ、吐き捨てるように告げる。
「そうですか。そうおっしゃっていただけるならそうしましょう」
ドンスタンはそう告げると穏やかな表情で子爵家への要望が書かれた書類をルドリアスの前に差し出したのだった。




