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第48話 子爵家の末路②

 子爵は不機嫌な表情を抑えることなく書類を掴むとその内容を読み進める。それには彼が予想していた以上の内容が書かれていた。


【この度、貴族間の婚姻に関するルールを無視したルドリアス子爵家に対して賠償金として金貨千枚を求める。また、当方にて預かりし子爵家三男ロナンドの身柄引き渡しは賠償金の支払い後とする】


「金貨千枚だと!? ふざけるにも程がある! こっちは好意で貧乏男爵家を助けてやろうとしただけなのに金を寄こせとは盗人猛々しい!」


 興奮した様子で子爵が書類をテーブルに叩きつけながら叫ぶ。


「ふむ。お気に召さなかったようですね」


「当たり前だ! 愚息の引き受け金としても金貨五十枚程度で十分だろうが」


「なるほど。ルドリアス子爵殿は三男とはいえ、自分の息子の価値が金貨五十枚程度と見積もっておられるのですね。やはり三男ともなると家での価値は低くなる。その程度の価値しかない男を我が最愛の娘婿にするおつもりでしたか。いや、断って正解でしたな」


 ドンスタン男爵は相手が格上の子爵家であっても全く気後れすることなく淡々と言葉を紡ぐ。


「なんだと!? 我が息子を愚弄するか!」


「いいえ? 今、ご自分で息子の価値を金貨五十枚と言われただけです。それに、ロナンド殿は今回の件について子爵家とはいえ子息の立場で貴族家当主である私に対して暴言ともとれる高圧的な態度をされました。本来であるならば不敬罪としてその場で処刑されても致し方ない事案。あなたも貴族家当主であるならば当然理解されていますよね?」


 決して声を荒げることなくドンスタン男爵はルドリアス子爵の目を見据えて話を続ける。


「今回の件、当然ながら我が依り親であるゼオン侯爵の耳にも届いております。これ以上騒ぎ立てるのでしたら双方の依り親にて判断をしていただくほかありません」


「ぐっ、それはマズイ」


 今回の件に関して当然ながら子爵家の依り親である西区の侯爵家にも連絡は行っている。だが、子爵は自らが解決すると申し出て処分を免れている状態だった。ここで交渉が決裂して依り親侯爵家同士の話し合いとなれば相応の処分が下されることは間違いないだろう。


「……ぐぐぐぐっ。わかった。提案を受け入れることにする」


「受け入れていただき、ありがとうございます。なお、賠償金については当方男爵家ではなく依り親であるゼオン侯爵家にお願いします」


「はあっ? 何故だ?」


「ゼオン侯爵家からの指示ですので当方ではわかりかねます」


 これも俺がゼオンと話し合って決めたことで、賠償金の送り先を男爵家にすると不自然に少なかったり途中で紛失したりすることも防げるだろうと考えたからだ。


「賠償金が侯爵家に支払われ次第、ロナンド殿は子爵家へ送り届けさせていただきます。では、お引き取りください」


 賠償金の請求書をぐしゃりと震える手で握りしめながら顔を赤くして、ルドリアス子爵は領主邸を後にしたのだった。


◇◇◇


「くそがぁ! 新興侯爵を盾に男爵風情がいい気になりおって!」


 子爵領に戻る途中、国境を越えて自領の小さな村の宿でルドリアス子爵は怒りを抑えられずにいた。


「ロナンドは戻ってきたらさっさと家から追い出すとして、寄り親の侯爵様への報告があるから金はどうにか準備するしかない。口惜しいが一度は反省したふりをしておいて、向こうが気を緩めた頃にあの娘を殺してくれるわ。わしを怒らせたこと、絶対に後悔させてやる。その時の奴の絶望顔を見るのが楽しみだ。くくくっ」


 ブスリとフォークを肉に突き刺しながら、ルドリアス子爵が黒い笑みを浮かべながら口にする。


「――なるほど。それがお前の本性ってわけだ。やっぱり生かしておくわけにはいかないようだな」


「だ、誰だ!?」


 いきなり聞こえた声に子爵はびくっと身体を震わせ、辺りを見回す。


「――今からお前の持っているもの全てを奪う。自分の領地に戻っても何一つ自由に出来るものはないと思え」


 俺は子爵にだけ聞こえるように呟くと強力な呪魔法を奴にかけた。


「な、何だこの黒い霧は?」


 俺の呪魔法が発動すると黒い霧が子爵の身体を包み込み、周りからの視界を塞ぐ。


「ルドリアス様!? これはいったい!?」


 周りに控えていた護衛たちが慌てて霧を払おうとするが何をしても効果がない。その時、急に突風が店内を走ると黒い霧を吹き飛ばす。


「いったい何だったんだ?」


 護衛たちは首を傾げるがまずは主人の安全を確認するのが先とばかりに子爵のそばに駆け寄った。


「ルドリアス様、大丈夫でしょうか?」


 護衛が椅子に座る子爵に向かって声をかける。


「むっ! 貴様、誰だ! ルドリアス様をどこにやった!?」


 そこに座っていたのはヨボヨボの老人で子爵当人の姿が消えていたのだ。


「なにを騒いでおる。お前たちの主人は目の前におるではないか!」


 いきなりその老人が護衛たちを怒鳴りつけた。


「貴様! ルドリアス様の名を騙るとは不届きな奴だ! お前たちは周辺の探索を! 私はこの怪しい老人を尋問する!」


 護衛隊長は呪魔法により姿を変えた子爵を村にある牢へ押し込むと厳しい取り調べをした。ルドリアス子爵は最初こそ自分が本人だと言い張ったが誰にも信じてもらえず、最後には黙り込んでしまった。


 その後、護衛隊長は子爵の捜索を続けたが当然ながら見つかるはずもなく死を覚悟のうえで寄り親である侯爵家に報告。協議の結果、他にも不正を多くしでかしていた子爵家は爵位を剥奪され、侯爵家に吸収されたそうだ。


 もちろん賠償金はその侯爵家から支払われロナンドは解放されたが、帰る家も没落しておりその後を知るものはいなかったという。


「――どうせ、お前が何かしたんだろ?」


 賠償金がゼオンの元に支払われ、それの受け取りに侯爵家を訪れた際に言われた言葉。


「さあな。きっと天罰でも下ったんだろうよ」


 俺はまるで他人事のように答えると男爵家へと帰る準備をしたのだった。

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