第41話 予想外の展開
俺は男爵との面会を終えたその日のうちに首都アビルボーザへ向けて馬車を走らせていた。今回は少々急ぐために乗合馬車ではなく前にゼオンから貰った馬車を魔法鞄から取り出して自らが操りすぐに出発をした。後ろの座席にはセシリアの姿、そしてハビルが彼女の護衛を務めるように控えていた。
「眠っていてもいいぞ」
途中で入れた小休止に俺はセシリアにそう告げる。だが、その言葉に彼女は左右に首を振る。
「お言葉は嬉しいのですが、このスピードで運行される馬車で眠ってしまえば椅子から投げ出されて怪我をしてしまいますよ」
普通の速度で走る馬車でも眠るのは結構難しいのに揺れの大きい高速馬車で眠るのは自殺行為だ。今でもハビルが魔法でセシリアの負担を軽減しているから持っていると言える。
「心配ならハビルにもっと安定するように指示をすればいい。その程度は問題なく出来るはずだ」
俺はそうセシリアに言うとハビルに指示を出す。するとハビルはすぐに答えを返した。
『馬車の揺れが身体に影響しなければいいんだな? 簡単なことだ』
「――だそうだ。心配せずにゆっくりと休むがいい」
休憩が終わり、馬にも回復魔法を付与した俺は光源魔法で行く先を照らしながら夜通し馬車を走らせたのだった。
「――見えたぞ。首都アビルボーザの外壁だ」
結局、道中は一回だけ野営をしただけで本来ならば五日かかる道程を三日で到着した。少し無理な強行策だったが、時間が惜しかったので仕方がないことだ。
「もう着いたのですか? いくらなんでも早すぎませんか?」
馬車の中でぐっすり眠っていたセシリアが目をこすりながらも街の外壁を見て驚きの声を上げる。
「伝書鳥で先触れはしているから直ぐにゼオンと面会するぞ。これからどうするかを決めないといけないからな」
俺は馬車の速度を落として街の門へと向かう。入街許可をとった俺はそのままゼオンの居る領主邸へと馬車を進めたのだった。
◇◇◇
「――早かったじゃないか。伝書鳥を飛ばしてからドンスタンを出発したんだろ? 普通なら二日後あたりになるはずだがな」
領主邸の応接室に案内された俺とセシリアはゼオンと面会している。その隣ではローザも同席していた。
「急を要する話だからな。内容は伝書鳥で届けさせていたから分かっているだろ?」
「まあな。ドンスタン男爵も面倒なことに巻き込まれたものだ」
ゼオンはそう言ってため息をつく。
「今回のような場合は普通その地方を束ねる者、つまり侯爵家当主であるゼオンに一言連絡があるべきなのだが、水面下で取引を成立させてから後出しで報告するつもりだったようだな」
戦闘時以外は温厚なゼオンが珍しく不機嫌そうな表情を見せる。その隣ではローザが表情を変えずに紅茶を飲んでいた。
「グラン的にはどうしたいんだ?」
「手順を違えてこそこそと裏で動くのも気に入らないが、俺の大切な弟子を泣かせるような奴は容赦しない。許可さえもらえれば裏で子爵家を潰すことくらいはやるさ」
「ははは、相変わらず真っ直ぐな意見だな。だが、グランがその気になればその程度は実際に出来ると知っているからさすがに許可は出せないよ」
「だろうな。うまくやっても影響は大きいだろうから国内での戦争になる。そうなると王家が黙っていないのも理解できる。なにか手立てはあるのか?」
俺がゼオンに問いかけると彼が応えるよりも先にローザが口を開いた。
「――今回の件を簡単に収める方法はあります」
「どのようなものでしょうか?」
ローザの言葉に真っ先に反応したのは俺の隣で申し訳なさそうな表情で座っていたセシリアだった。
「単純なことです。セシリアさんに婚約者が居れば良いだけの事ですよ。今回の件は嫡男の居ない男爵家に別の貴族が勢力拡大の布石として順位の低い三男を送り込もうとしたのが発端です。ならば、その前提を崩してしまえば相手は手を出すことは出来なくなります」
「しかし、その相手が居ないからこうなっているんじゃないか。居ない相手をどうやって据えるつもりだ?」
俺がローザに問うと彼女はにこりと微笑んで俺を指差して言った。
「グラン様が婚約者として発表すれば良いだけのことです。貴族の称号は残念ながら国王様の打診を断られたのでお持ちではありませんが賢者の称号は健在です。それだけで男爵家の家柄には十分な資格があると思います」
「は? それはかなり無理のある話だと思うぞ。それに、俺が何歳だと思っているんだ」
「グラン様の年齢ですか? 確か前に伺った時は百歳を超えていたと思いますが、そんなのは問題ではありませんよね? そもそも貴族家の結婚では恋愛結婚などほぼないに等しいもの。親子ほど離れた政略結婚も珍しいものではありませんよ」
言い切るローザに俺が何も言えなくなっていると隣でセシリアがそれに同調する。
「わ、わたくしもグラン先生となら問題ありません。わたくしは先生の弟子ですので、今後も教えを乞うのに便利な口実になるかと思います」
「確かにそうだな。師弟関係とはいえ、貴族の未婚女性に男が常に寄り添う姿は要らぬ詮索を生む問題となる可能性が高い。ローザの案は非常に効率的なもので妥当性がある意見だと思う。当人であるセシリア嬢も同意しているようだし。それで良いのではないか?」
俺たちの話を聞いてゼオンが見解を示す。とんでもない話の流れとなっているが、俺の意見を聞く者はこの場には存在しないようだった。




