第40話 ロナンドの誤算
「いったい何があった!?」
部屋に飛び込んだ俺は中の様子を確認しながらもそう叫ぶ。それに答えたのは聞きなれた声の持ち主、セシリアだった。
「ああ、グラン先生。別にたいした事ではありませんよ。少々、そこに転がっている方が失礼な態度を取られたので反射的に魔法を放ってしまっただけです」
目の前で微笑みを浮かべながら俺の質問に答えるセシリアの後ろでは床で気絶をしているロナンドの姿が視界に映る。セシリアの話を信じるならばこの男が何かしらセシリアの癪に障る行動をしたので魔法でぶっ飛ばされたといったところか。
「怪我がないようでなによりだが、状況説明を頼みたいところだな。この男からも話は聞こうと思うがいいか?」
「わかりました。構いません」
俺の質問にセシリアが頷くと俺は気絶しているロナンドをロープで拘束してから治癒回復魔法を付与してやった。
「う、うう。いたた」
俺の魔法で気絶をしていたロナンドが意識を取り戻すと頭を振って目を開く。
「いったい何が? なんで、俺が縛られているんだ!?」
目を開いたロナンドは後ろ手に拘束された状況を認識して動揺を口にする。その後、目の前に立っているセシリアの姿を認識すると攻撃的な言葉を吐いた。
「貴様! 俺様に向かっていきなり攻撃魔法を放つとはなんて奴だ! 今回の事は父上に報告して必ず後悔させてやるからな!」
後ろ手に縛られている割に威勢よく叫ぶロナンド。しかし、拘束されている状態にセシリアは冷たい視線を返すだけ。ロナンドの威嚇には全く動揺していなかった。
「まあ、そう興奮するものじゃない」
拘束されているためにセシリアに危害を加えることは出来ないが、激しい感情を露わにしながら俺を見て叫ぶ。
「これは貴様の策略か!? たかが男爵令嬢ごときが攻撃魔法を使うなど聞いた事がない。貴様が何かを仕込んでいたんだろう!?」
「ふむ。仕込んだかと言われればそうかもしれんな。セシリア嬢は俺が魔法を教えているからな。だが、それを使わなければならない状況を作り出したのは君ではないのか?」
「そんなことは知らん! ちょっとばかり貴族の序列について教えてやっただけだ」
「ほう、なるほど。それは興味のある話だな。どういった内容だったか、ぜひとも教えてもらいたいものだね」
だいたいの予想はつくが、彼の口からどういった内容が聞けるか楽しみで俺は口元に笑みを浮かべながらロナンドの言葉を待った。
「俺様が婿に来る際に我が子爵家から借金の補填をするといった話をしただけだ。それなのに、それを拒むとは男爵家の分際で何様だと言った途端に魔法を発動させやがったんだ。どう考えてもその女が悪いに決まっている!」
興奮して叫ぶロナンドはもはやセシリアに対して紳士的な姿は必要ないとばかりに罵りを続けたのだ。
「お前の言い分はわかった。もう喋る必要はないから暫く黙っていろ。聞くに堪えられん」
俺はロナンドに沈黙の魔法を付与すると、今度はセシリアの方を向いて口を開く。
「先にセシリア嬢の話を聞くつもりだったが順番が逆になってしまってすまない。彼の言い分は聞くに堪えられないものだったが、君の口からも聞いてみたいが良いかな?」
セシリアは俺の言葉に頷くと部屋に入ってからのことを全て話してくれた。それはルドリアス子爵家からの一方的な要求ばかりで、とてもではないが、男爵が了承するようなものではない話であった。
「なるほどな。大方は予想通りだったが、それ以上に腐った考えを持つ貴族のようだな」
セシリアの話を聞き終えた俺はため息を吐いてからそう言い切る。声は出ないがこちらの話していることは聞こえていたロナンドが何かを必死に叫んでいるようだが、どうせ罵詈雑言を叫んでいるだけだから放っておいても問題ないだろうが、少々目障りだ。軽く寝ていてもらうことにしようか。
「睡眠」
俺はフガフガと興奮するロナンドに魔法をかけると彼は夢の世界に落ちて行く。余計な邪魔が居なくなったので俺はゆっくりと椅子に腰を下ろして話を始めた。
「さて、彼の言葉でルドリアス子爵家の思惑がはっきりしたがどう対処すべきかだな。このままこいつをボコして送り返すのは簡単だが、ドンスタン男爵家からすれば相手は格上となる子爵家だ。間違いなく難癖をつけられて面倒が起きるのは必然だろう」
「わたくしが魔法で吹き飛ばさなければ良かったのですけど……」
セシリアは苦笑いを見せながら俺の言葉を待っている。確かに今のセシリアには自力でどうにか出来ることが無いので俺に全てを任せるつもりのようだ。
「ドンスタン男爵と話をするのは当然として、今回はゼオンにもひと肌脱いでもらうとしよう。相手が子爵家というのもあるが他地区の貴族であることもあるからな」
俺はそう言うと眠らせたロナンドを個室に閉じ込めてから男爵に面会を求めた。
「――話はわかった。いや、私の力が及ばないために娘には心配をかけてしまった。本当にすまない」
ドンスタン男爵は俺から事の顛末を聞くとその頭をさげて謝罪の言葉を述べる。相変わらず腰の低い人だ。
「今回の件はもう男爵家だけの話ではありません。他地区の貴族との交渉に必要なのは強い権力。相手がどういった態度をとるかによりますが、こちらも出来ることをしましょう」
「具体的に出来ることは?」
「せっかく使えるカードが傍にあるんですから使わない手はないですよね?」
俺は男爵にそう言って口角を上げたのだった。




