第4話 盗賊
馬車は予定通りに進み、野営を挟んで二日目となっていた。それまで特に大きなトラブルは無く、旅は順調に進むとみられていたのだが、その事件は昼の休憩時に起こった。
「――ちょっと俺たちに金を恵んでくれないかなぁ?」
いかにも頭の悪そうな荒くれ者の集団が馬車で疲れた身体を癒す大事な時間を邪魔してきたのだ。
「この馬車は商業ギルドが管理する乗り合い馬車だ。要人は乗っていないし、金のある者もいない。それにこの馬車に手を出した場合は商業ギルドが国と契約を交わしている公約により騎士団が捜索し、襲った者は全員処刑されることになるぞ」
御者のバリスが気丈にも盗賊団の頭に向かって警告する。その傍では護衛の三人も武器を手にいつでも戦えるように構えている。
「はっ。騎士団が怖くて盗賊がやってられるかよ。それに、ここでお前たちを全員殺せば目撃者はいねぇ。あとは死体と馬車を処分しちまえば後でいくら捜索しようとも俺たちがやった証拠はないからな」
盗賊の頭は小馬鹿にした表情でバリスに笑いながら返す。完全に戦力差があると思って余裕をかましているのだろう。
「さて、まずはそこの護衛どもから死んでもらおうか。そして煩い口を開くお前もだ」
盗賊の頭はバリスと護衛の三人に狙いをつけて多人数で前方を囲むように間を詰める。
「うわぁ! 俺は抜けるぞ! こんな数、勝てる訳ねぇ!」
盗賊たちの人数的圧力に負けたのか護衛、銀の盾リーダーの男が叫びながら盗賊たちとは反対側へと走り出す。その動作に釣られて他の二人も反転して逃げ出した。
「あっ! お前たち! 逃げるな、戦え!」
バリスが慌てて護衛の男たちに向けて叫ぶが、一旦逃げを決め込んだ者に何を言っても戻るはずもない。
「がっはっは。情けねぇ護衛どもだ、逃げ出しやがったぞ。おい、お前たち。逃がすんじゃねぇぞ」
盗賊の頭が号令をかけると護衛の逃げた先から伏兵が飛び出してきて護衛たちに斬りかかる。
「はっはっは! 死ね! 腰抜け護衛ども!」
「土壁」
――ドカッ
護衛たちを切りつけようとした盗賊の目の前に突然、足元からせり上がった土壁が盗賊を跳ね上げて吹き飛ばす。
「なっ!? 何が起こった!」
反対側から見ていた盗賊の頭がありえない光景に動揺して叫ぶ。奴からは俺の姿が見えていないようなので、いきなり地面がせり上がり仲間を吹き飛ばしたように見えたことだろう。
「皆は馬車から出ないように。ここは俺が引き受ける」
若い三人家族に老人男性、それに若い女性だ。盗賊の襲撃となれば怖いに決まっている。俺は女の子がギュッと抱きしめているハビルに指示を出す
「ハビル、ここは任せたぞ。皆を守ってくれ」
『ぴぃ』
人前なので言葉には出さずに了承の意思を返してくる。まあ、ハビルに任せておけばここは安心だろう。俺は馬車のドアを開けて地面に飛び降りると盗賊の頭を見る。
「な、なんだてめぇは? 先に殺されたいのか?」
仲間が訳のわからない攻撃を受けて慎重になっているのだろう、いきなり飛び掛かってくることはなかった。だが、その判断が大きな間違いだったと奴はすぐに気づくことになる。
「風の矢」
俺は奴らの武器を持つ手を狙い複数の魔法矢を同時に打ち出す。その魔力の矢は目で追えないスピードで盗賊たちの手を射抜く。
「ぐわっ!?」
盗賊たちはいきなり手に激痛が走ったように次々と武器を落とす。
「土縛り」
続けて発動した魔法で盗賊たちの足が完全に拘束され、バランスを崩して転倒し地面に手をついた者はその手も拘束されることになった。
「き、貴様は魔導士か!? これを外しやがれ!」
地面にしっかりと拘束された盗賊の頭が俺に向かって叫ぶ。どうあがいても外れることのない魔法に怯えながらも頭としての意地で強気の姿勢を見せる。当然ながら馬車の背後に居た仲間も同様の状態になっている。ついでに逃げようとした護衛の馬鹿どもも同様に拘束されている。
「さて、どうしてくれようか」
俺は唖然とする御者のバリスに視線を送ると彼は咳払いをひとつしてから意見を言う。
「道中に出た盗賊に関しては当然ながら返り討ちにして殺しても罪になりません。特にこの馬車は商業ギルドが運行を管理する国の財産。それを力で奪おうとするなど言語道断。死して償うべき大罪です」
盗賊たちが拘束されて危険がないと判断したバリスは俺の質問にはっきりと答える。これはここで盗賊全員を処分して構わないと言っているのと同義だ。
「さて、どうするかな。一人、二人ならどうとでもなるが、これだけの人数だと面倒なのは間違いない。いっそ処分してしまうのも手だな」
俺はそう言いながらも少し考えてバリスに問いかける。
「この近くに村が無かったか? そこに行けば捕えておける場所はあるだろう。そこで領主へ連絡してこいつら全員、犯罪奴隷として強制労働をさせたほうが殺すより役に立つと思うがどうだ? ついでに逃げ出そうとした護衛の三人もギルドに処分を求めるとしよう」
「ふーむ。確かにこの先、三時間ほどの所に中継村があります。そこまで連れて行けば言われたように手続きをすることは可能です。ですが、そこまでコイツらをどうやって連れて行くつもりですか?」
「それなら簡単なことだ。自分の足で歩けばいい」
俺は早速、逃げ出そうとした護衛三人と盗賊たちにかかっている拘束魔法を別のものにして次々とロープのように繋いでいく。その先端を馬車の後ろに繋ぎ、強制的に歩かせるための魔法を念入りにかけたのだった。
「これで良いだろう。コイツらの足は今、馬車と連動しているから馬車が進むとコイツらの足も勝手に前に進むようになる。疲れても強制的に動くから引きずる心配はしなくていいぞ」
「そ、そうですか……。このような魔法は初めて見ました。貴方は素晴らしい魔道士なのですね」
賢者の称号を持つ俺だったが、率先して表舞台に出ることをしていなかったために市民にはあまり認知されておらず、バリスがそう思ったのも不思議ではなかった。




