第5話 セシリア・ドンスタン
「――この村で盗賊たちを引き渡しましょう」
罪人を強制的とはいえ歩かせていたので当初の予定よりも遅れて村に到着。馬車を止めたバリスは御者台から降りて俺にそう告げる。
「ギルドに報告すれば対応してくれるだろう。俺が見張っておくから呼んでくれるか?」
「すぐに呼んできますね」
バリスは俺が頷くのを見るとすぐに走って行く。ギルドの場所は把握しているのだろう。少し待っているとバリスは数人ほど引き連れて戻ってきた。
「盗賊を捕えたと聞きました。怪我などはありませんか?」
「大丈夫だ。それより、コイツらの対応を頼みたい。犯罪奴隷としてせいぜい世の中の為になる仕事を斡旋してやってくれ。それと、この三人は護衛任務を放棄して護衛対象を見捨てて逃走を図った。今回は運良く対処出来たが、これは間違いなく契約違反だし護衛対象者を故意に危険にさらした悪質なものだ。ギルドとして厳罰を願う」
「わかりました。盗賊は今までの罪を吐かせてから強制労働に契約違反を犯した銀の盾の三人にはギルドとして厳格な処分を与えることを約束致します」
俺たちが契約違反をした護衛三人と盗賊たちを引き渡すと全員連れていかれた。その後、ギルドの好意で乗客を含む関係者全員の宿を取ってくれたのだ。基本的には乗合馬車は野営をつないで進むことが多く、たとえ村に寄っても宿を取るには自腹を切る必要があるので率先して宿に泊まる者はいない。
「なんだか私たちだけ得をしたようで申し訳ないです」
宿に案内された赤髪の女性がすまなさそうに頭をさげる。それを見た俺は気にするなという意味を込めて手を振ってうなずく。その後、先に食事にするとのことで食堂へと案内された。
「――皆さん、お疲れ様でした。今日の旅路では盗賊に遭遇するというトラブルが発生し、驚かれたことと思います。ですが、幸運にも同乗されていたグラン殿のおかげで誰一人怪我することなく切り抜けることが出来ました。今夜の宿と食事はギルドからのご厚意ですので遠慮なく受け取って頂きたい」
食堂に集められた俺たちにギルドとの調整をしてくれたバリスがそう説明する。王都を出発してまだ二日しか経っていないのにトラブルに遭遇したのは不運だが、おかげで野営ではなくベッドに寝転ぶことが出来ることは幸運だった。
「お隣、宜しいでしょうか?」
俺が食堂の席につくと赤髪の女性が俺の隣に席を取ると俺の顔をじっと見つめてから口を開く。
「今日は助けて頂いてありがとうございました。あの人数を無傷で捕えられるなんて凄い魔導士なのですね」
「ああ、俺が魔法を使うのを見ていたのか。盗賊を捕える為とはいえ、怖くはなかったか?」
俺のように魔法が使える者には当たり前のことだが、魔法の使えない者にとっては未知のもの。それも人を吹っ飛ばしたり拘束したり出来るのである。普通の若い女性からすると結構怖いものではないのかと不安を口にする。
「いえ。私も少しだけですが魔法が使えます。ですので、あなたの使われた魔法の美しさに目を奪われていました。是非ともお名前をお聞かせいただけませんか? あ、失礼しました。わたくしの名前はセシリアと申します」
「――グランだ。君は魔法を使えると言ったね? どのくらい使えるんだい?」
セシリアの『魔法が使える』発言に興味を持った俺はそのレベルを計ろうと問いかける。
「あはは。初歩の初歩だけですよ。学院で一番初めに教えてもらった火の魔法。点火だけなんです」
「学院? 君は王都の学院に居たのか?」
王都の学院といえば騎士学校と魔導士学校の二つ。どちらも基本的に貴族の親を持つ者しか入ることが出来ないはずだ。ならば、この娘も貴族令嬢なのだろうか。
「君はどこかのご令嬢なのか?」
少し声のトーンを落とし、他者には聞こえないように気を配りながら問いかける。その言葉に一瞬はっとした顔を見せたセシリアの表情が曇る。予想は当たったが、あまり聞かれたくなかったようだ。
「すまない。何か事情があるようだな。今の発言は聞かなかったことにしてくれ」
俺はそう言うと彼女から視線をそらし、食事へと意識を向けた。視界の隅でセシリアは何かを考えていたようだが深く聞く気にはなれなかったのであえて食事に集中をして過ごす。
「美味い食事だったな」
出された食事を全て平らげた俺はそう感想を言って席を立とうとした。その時、隣のセシリアが食事の手を止めて俺に声をかけてきたのだ。
「この後で少しお話を宜しいでしょうか?」
余計な事を聞いてしまったなと後悔をしながらも乗りかかった船でもあるので俺はうなずいて椅子に座り直すと彼女の食事が終わるまで待ってやる。
「――お待たせしました。突然のお誘いに応えて頂き、ありがとうございます」
食事を終えた俺はセシリアと共に宿の外のテラスへと場所を移す。そこで彼女は改めて礼を言ったのだ。
「それで聞きたい事とは? さっきの事なら他言したりはしないぞ」
彼女が俺に聞きたい事など他にないだろうと思って先にそう告げるが、セシリアは静かに話を始める。
「私が貴族令嬢だと思ったのは何故でしょうか? 供も付けずに乗合馬車で移動する令嬢など普通であれば居る筈ないと思うのですが……」
「それは俺も思ったが、君は学院で魔法を習ったと言っていた。王都の学院となればおそらく魔法学院なのだろうが、基本的に貴族の子しか居ない筈だ。貴族の子で魔法適性があれば殆どの親は学院に入れるだろう。それが理由だ」
俺は尋ねられたことに対する答えを言ったが、それ以上の事情には立ち入らないように気を付けながら話をする。しかし、俺の気配りに気が付かないかのようにセシリアは自らの身分を俺に明かした。
「わたくしの父はドンスタン男爵。わたくしの本当の名はセシリア・ドンスタンです」
貴族令嬢が護衛なども付けずに旅をしている。その事実も驚くべきことだが、どこで誰に狙われるか分からない状況で本名と身分を明かすこの令嬢に俺の背筋に冷たいものが走り、頭が痛くなる。こいつは間違いなく厄介ごとのフラグが立ったのだと思った。




