第20話 実践前夜
「か、可愛い! ふかふかでモフモフですね。この鳥さんは先日アビルボーザ行きの馬車で女の子の傍にいた生き物ですよね? グラン先生の魔法従魔だったのですね」
出て来たとたんにぎゅっと抱きしめられて逃げる暇もなかったハビルは成すがままに身を任せている。
「ほら、お前の希望通りの契約者だ。挨拶しないか」
「え? 挨拶?」
俺の言葉に反応したセシリアが疑問符を浮かべながら首を傾げる。
『なるほど。確かに俺様の要望どおりの人材だ』
「と、鳥さんが喋った!?」
ぎゅっと抱きしめていたハビルを両手で持ち上げるようにしたセシリアが驚きの声を上げる。
『俺様は鳥さんじゃなくてハビルって名前があるんだ。そう呼んでくれ新しい主よ』
「ははは。こいつは俺が作った魔法従魔だ。相変わらずの俺様気質だが、実力は保証するぞ。それこそ魔黒毛熊でも問題なく返り討ちに出来る力を持っているからな。こいつをセシリアの守護につけるから可愛がってやってくれ」
「そんな強い魔法従魔がわたくしに従ってくれるのですか?」
「問題ない。俺も命令は出すが、ハビルの奴は俺みたいなおっさんじゃなくてセシリアみたいな女性に使えたいと言っていたからな」
「ハビル鳥さん。そうなのですか?」
『俺様はセシリアを新たな主として認める。安心して守られるがいい』
セシリアの両手に抱えられたままハビルがそう答える。
「ありがとうございます! 凄く心強いです」
セシリアはそう叫ぶと再度ハビルをぎゅっと抱きしめたのだった。
「――そろそろ村に着きます。魔獣は早朝に多く出没しますので今夜は早めに休まれて夜が明ける前から準備をしたいと思います」
御者台から案内人の男がそう告げる。俺は彼の方を向いてから首を縦に振るとセシリアにも情報の共有を図る。
「今夜は早めに寝るぞ。実践前夜だからと緊張し過ぎることはない。今まで学んだことはしっかりとセシリア嬢の身についていることは俺が保証する」
「はい」
セシリアはそう言うが、やはり緊張はしているようだ。まあ、初めての魔獣退治となれば緊張して当然だろう。今夜はハビルを傍に置いておくとしよう。
「――魔獣の出るという村はここか」
案内人の男から話を聞いて三十分ほどで馬車は村の入口に辿り着いた。村の様子を見るが特に魔獣が暴れた様子も見えない。おそらくだが、魔獣は村の中までは入り込んでいないのだろう。
「魔獣が出没する畑はどの辺りになる?」
「村の中心から北側に広範囲のムーギ畑があるのですが、魔獣避けの柵を壊して侵入しているようです。夕方に見回りをした翌朝、修理した柵を嘲笑うようにまた破壊して侵入。大切に育てているムーギを踏み荒らしていくのです。おかげで、今年は昨年の半分ほどしか収穫できそうにないのです」
昨年の半分じゃあ確かに納税はキツイな。食料用と酒用に回してしまえば僅かしか残らないだろう。それも来年の種籾にするならなおさらだ。
「このままの調子で被害が拡大すると今年はエール酒の製造を中止すると言われていますね。まあ、酒は飲まなくても死にはしませんが、食べる食料が無ければ皆飢えてしまいますから仕方ありませんね」
いや、酒が飲めないと死んでしまう。まさか、そんなに被害が深刻だとは思わなかった。これはなんとしても被害の拡大を止めなくてはならない。
「それは大変なことになっているようだ。だが、今回の件で必ずや被害の拡大に歯止めをかけるのでぜひともエール酒の製造は続けてもらいたい」
「おや、エール酒はお好きですか? もしも被害が止まりましたら、依頼後にお好きなだけ飲んで頂きますので是非ともよろしくお願い致します」
案内人の男はそう言って頭を深く下げたのだった。
◇◇◇
「――少しお話を宜しいでしょうか?」
村に一軒だけある宿屋にて明日の行動時間の擦り合わせを終えた俺はセシリアと共に宿の中庭でルーティンと化したいつもの魔法訓練を軽く流す。普段なら限界近くまで追い込むのだが、今日それをすると拙いのは分かっていたので魔法発動の手順確認だけとしていた。その後、喉の渇きを潤す果実水のコップを食堂から貰ってきたセシリアがそれを手渡しながら俺の顔を見る。
「なんだ? 気になることでもあるのか?」
俺は彼女からコップを受け取るとグイと一気に中身を飲み干して聞き返す。
「この魔獣討伐依頼を受ける際に父から聞いたのですが、グラン先生は勇者様と共に魔王を倒されたメンバーの一人なのですよね?」
「ん? ああ、聞いたのか。そうだな、確かに俺は勇者ゼオンの補佐役としてメンバーに同行していた。結果として魔王討伐は果たされただけで、俺自身はそれほど活躍したとは思っていない」
「その時のお話を少しでいいので聞かせて頂けませんか? 魔王がどうやって倒されたのかは実際に経験した人しか知りえません。言えないことは結構ですのでぜひとも聞かせて欲しいです」
「なんだ。勇者の冒険譚に興味があるのか? 思ったよりも積極的なんだな。いいぞ、今から話すことは勇者ゼオンが魔王を倒した時のことだ」
セシリアが魔王討伐話に興味があったのは意外だったが特に気にすることなく俺は中身を飲み干したコップを傍らにあったテーブルに置いてから昔を思い出すように話を始めたのだった。




