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第21話 魔王討伐の記憶

「――ほら、この先に元凶となる魔族の王が居るはずだ。さっさと片付けてうまい酒を飲みに行くぞ」


「いや、グランさん。そんな『ちょっとそこまで角兎(ホーン・ラビット)を狩りに来ただけ』的にあっさり言わないでくださいよ」


 斥候弓士のリリスが慌てた表情で俺に意見をする。彼女の斥候能力のおかげでこれまで無理な戦闘を回避して来ることが出来たのだ。文句のひとつも出るものだろう。


「そうは言っても俺はお前たちが無事に魔王を倒すのを見届けに来ただけだからな。魔法障壁くらいは協力するが、基本的には勇者ゼオンを中心にお前たち四人で倒してもらうつもりだぞ」


「おいおい。いくらサポートが仕事とはいえ、この期に及んで傍観者を決め込むのはいささか無責任ではないか?」


 大盾を軽々と扱いながら重戦士の男が俺の態度を批判する。


「ウォーリアさんの言う通りですよ。ここまで来たのですから最後までちゃんと協力して欲しいのです」


 最終決戦を前に弓と聖属性が付与された矢の確認をしながらリリスもそれに同意する。


「グラン様。先の相手は魔族の王と呼ばれる存在。力技での突破は容易ではないと推測致します。どのような魔法を使うのか分からない状態では賢者であるグラン様の参戦は必須でしょう。どうぞお力添えを願います」


 丁寧な言葉使いだが、戦闘不参加は断じて認めないとの意思を示す聖女のローザがにっこりと微笑を浮かべながら釘を刺してくる。


「心配するな。俺の役目はこのメンバー全員を生きて国へ戻すことだ。手を出さないと言ったのは冗談だ。だが、分かっていると思うが俺はサポートに徹するから止めはゼオンに任せるぞ。俺は特殊な理由からあまり功績を上げてはいけない立場だからな」


「そのことについては大まかに話を聞いていますけど変な話ですよね」


「まあ、深く詮索するな。大人の事情ってやつだ」


 俺は苦笑いを見せて話を切ると広域探索魔法で強い魔力の集まっている場所を特定する。


「こちらの動向も把握しているとは思うが、動く気はないようだな。覚悟を決めたらこちらから乗り込むぞ」


 俺は全員の意思を確認するとうなずいてからリリスに指示を出す。物理的な斥候は専門職に任せたほうが安全な場合が多いからだ。


「いいか、魔獣の動向は俺が把握している。リリスは罠が無いかに集中してくれ」

「はい。では、進みますね」


 そうしてリリスの先導で魔力反応の強かった空間へと辿り着いた俺たちが見たものは無数の魔獣に守られた魔族の姿だった。


「――奴が魔王のようだな」


「部屋には魔王のほかは魔獣だけで別の魔族は見当たりませんが、罠でしょうか?」


「いや、他に潜んでいるような反応はない。ここには奴しか居ないのは間違いないだろう」


 しかし、魔族の王だけ残して別の魔族は他へ移動したなどありうるのだろうか? そんな疑問が頭を過ぎるが今は目の前にある障害を排除するのが先決だ。


「周りの魔獣どもは俺が一掃してやる。ゼオンはウォーリアと共に奴本体を攻撃。リリスは遠距離でのサポート。ローザは身体強化魔法を発動後に回復魔法をホールドしておけ。いくぞ!」


 俺は口早に皆に指示を出すと魔法を唱え始める。


「右手に炎槍。左手に風刃。それを融合――」


 俺の準備した炎魔法は風の魔法を吸収して複数の炎槍となる。ひとつの威力は下がるが、複数の相手には有効な魔法だ。


「いくぞ! 炎槍の雨(フレイム・レイン)


 ギャウッ


 俺の放った魔法は目の前を塞ぐ魔獣を一撃のもとに焼き殺していく。


「俺たちも行くぞ! ウォーリア前を頼む!」


 俺がゼオンたちの道を作ると大盾を構えたままで突き進むウォーリアの影に潜むように追随するゼオン。そこに魔王の魔法が襲い掛かる。


「そんなもの通用しないぜ。魔法壁(マジック・シールド)


 俺は予想していた魔王の魔法を打ち消す魔法盾を発動させる。


「これでも喰らいなさい!」


 一段高い場所からリリスが聖属性の付与された矢を魔王へ向けて放つ。その矢を叩き落とそうと魔王が剣を振り下ろす。


「させないよ! 制御(コントロール)

 リリスが叫び腕をくるりと回す。その動きに呼応するかのように矢は魔王の剣をするりと躱してその腕に突き刺さる。


「ぐおおおっ! こ、この虫けらがぁ!」


 今まで一言も喋らなかった魔王がリリスの矢を腕に受けて雄叫びを上げる。その声に乗って強大な魔力の波動が広がっていく。


「ははははは。こいつはやべえな。今まで戦ってきた奴らとは段違いの魔力波じゃねぇか」


 少し気を逸らせればと遠距離攻撃をしたのだが、予想以上の反撃にウォーリアの足が止まる。


「ゼオン! 強化魔法(ブースト)よ!」


 ローザが通常の二倍となる強化魔法の詠唱を完成させ、ゼオンに付加する。


「助かった! これならいける!」


 魔王は腕に傷を負わせたリリスの姿を見つけ魔法で反撃をするべく左手に魔力を集め出していた。


「その魔法は撃たせねぇよ!」


 ゼオンは強化された身体能力で一瞬にして魔王に詰め寄ると剣を振り上げて左の腕ごと斬り落とす。


「があっ!?」


 急に現れたゼオンに魔王は反応することも出来ずに左腕を失い、その場に棒立ちになる。


「トドメだ!」


 ゼオンは腕を斬り落とした剣を反転させると魔王の心臓目がけて鋭く突き出す。その剣先が魔王の背中から見えた時、この戦いに終わりが来たことを告げていた。


「見事だ!」


 俺は残った魔獣の処理をしながらゼオンに祝福の声をかける。と同時に魔王の身体が黒い灰のようになり、やがて空気中に消えていくのが見えた。


「魔族は死体が残らないと言われているが本当だったようだな」


 すっかり跡形もなく消えた魔王に俺たちは息を吐いて肩の力を抜いた。


「しかし、魔族は殺すと痕跡も残さず消えるが魔獣は消えないんだな」


 目の前で消えた魔王とは対照的に俺が魔法で倒した魔獣たちの死体が無数に転がっている光景を見てゼオンがそう呟く。


「そうだな。昔は魔獣なんて居なかったからな。魔獣の報告が上がり始めたのは魔王の存在が確認されてからだ。推測するに魔獣はもともと野生の獣でどこかにたまった魔素を大量に取り込むことによって魔獣化したと思うぞ」


「なら、魔獣は食えるのか?」


「なんだ。そんなことも知らないのか。魔獣は普通の獣と同様に問題なく食えるぞ。それどころか魔力回復に適しているから魔法を使う者には有用な食糧だ。少しばかり見た目が悪いのが難点だが……」


「ちょっと私は遠慮したいですね」


「調理をすれば気にならないとは思うが、確かにこの状態だと食欲には向かないよな」


 この中で魔法を使うのは俺とローザだけだ。俺は魔獣肉に抵抗感はないが、彼女に無理強いする必要もないだろう。それに、この場の魔獣は俺が派手に魔法で倒したので食用には向かないのは一目瞭然だった。


「――依頼は完遂だ。帰って報告だな」


 俺は当初の目標どおりに全員を連れ帰れることに安堵の息を吐きながら遺跡を後にしたのだった。

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