第98話 創造が繋ぐ世界 ―WORLD ROBOT LINK PROJECT―
第98話 創造が繋ぐ世界
―WORLD ROBOT LINK PROJECT―
―現代日本・ISURUGI本社―
プレゼン開始を告げる時刻まで、あと十分。
ISURUGI本社の控室には、緊張した空気が漂っていた。
匠…いや、この世界では“積村匠”として生きているジンクスは、窓の外を眺めたまま、黙り込んでいた。
その手元には、あのヴレイヴァー。
しかし、何度触れても反応はない。
「……」
頭の中に、あの映像が蘇る。
…匠のネンドール。
そして、その前に立つアンジュらしき姿をした女性のネンドール。
二機が激しくぶつかり合っていた。
さらに…、
燃え上がる街。
逃げ惑う人々。
現代日本を襲撃する、無数のネンドール。
そして、巨大な樹。
「……何だったんだ、あれは……」
これから起きる出来事なのか…。
それとも、別の世界で起きている出来事なのか。
答えは、まだ何一つ分からない。
「……おいっ! 積村!」
「……!」
堂角和政の声に、匠は我に返った。
「聞いているのか?」
「す、すみません!」
「やっとここまで、こぎ着けたんだ。しっかり頼むぞ!」
新事業・開発事業部部長、堂角和政。
その隣では、同期の課長・泉川是清が腕を組んでニヤケていた。
「積村くんの久し振りのプレゼンだからねぇ。緊張するのは分かるけど……会社の品格を落とさないでくれたまえよ。」
「……」
匠は泉川を見る。
相変わらず、人を見下すような口調。
(……ちっ。ホント、こいつはハナっからいけ好かねぇヤツだ)
(匠も……ずっとこんな嫌みを言われ続けてたのかよ…)
拳を握る。
(だったら…)
(匠のためにも、このプレゼン……絶対に成功させねぇとな)
「泉川課長! プレゼン前にやめて下さい!」
後輩の仙道雪乃が泉川を睨む。
そして匠へ、小さなガッツポーズを見せた。
「積村さん、大丈夫です! 頑張りましょうっ!」
「……ああ。ありがとう、雪乃」
その瞬間、
ガチャ…、
控室の扉が開いた。
「お待たせいたしました。それでは、準備が整いましたら隣の会議室までお願いします」
「……よし」
匠は静かに立ち上がった。
(今は、余計なことを考えるな)
(俺は……俺のやるべきことをやる!)
―ISURUGI・本会議室―
扉が開く。
そこには、ISURUGI本社社長・石動獏をはじめ、ホビー誌編集長、模型メーカー、玩具メーカー、電子機器メーカー、映像制作会社など、各分野の企業関係者が一堂に集まっていた。
今回のクライアントは、ISURUGI傘下のホビー誌出版社。
創刊二十周年を記念した、新規大型プロジェクト。
つまり、
ただの新商品ではない。
雑誌そのものの未来を懸けた企画だった。
「それでは、プレゼンテーションを始めてください。」
匠は大画面の前へ歩み出る。
一度、深く息を吸った。
「本社社長をはじめ、各企業の皆様。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」
スクリーンが暗転する。
そして…、
バァンッ!
巨大なタイトルが映し出された。
《WORLD ROBOT LINK PROJECT》
会場から小さなどよめきが起こる。
匠は続けた。
「我々が提案するのは、世界中のロボットの模型を、一つの規格で繋ぐプロジェクトです」
スクリーンに、一体のロボットが映る。
腕が外れる。
別のロボットの腕が装着される。
脚。
頭部。
武器。
背部ユニット。
次々と交換されていく。
「あるロボットの腕を、別のロボットへ」
「脚も、頭部も、武器も、背部ユニットも交換できる」
「メーカーが違ってもいい」
「国が違ってもいい」
「世代が違ってもいい」
そして、匠は一言。
「共通規格だから…全部、繋がります」
会場の視線がスクリーンへ集中する。
「さらに、各ジョイントパーツには固有ポイントを設定します」
画面に数値が表示される。
「完成したロボットを専用のリンクマシンへセットする」
「すると、その機体の構成、装備、ポイントがデータ化される」
画面が切り替わる。
世界地図。
日本。
アメリカ。
ヨーロッパ。
アジア。
世界各地に無数のプレイヤーが表示される。
「そして、世界中のモデラーやプレイヤーと対戦できる」
模型から始まり…、
ホビー誌、
漫画、
アニメ、
ゲーム、
オンライン対戦、
そして、世界大会。
次々と展開図が広がっていく。
「そしてパーツは、単品販売だけではありません」
「カプセル販売――いわゆる“ガチャガチャ”です」
会場の一部から笑みがこぼれる。
「今日は、どんなパーツが出るのか?」
「何が当たるのか?」
「そして、そのパーツをどう組み合わせるのか?」
匠の目が輝いた。
「強いパーツを集めるだけじゃ勝てない…」
「組み合わせる人間の発想そのものが、戦略になるんです」
その言葉を聞いた瞬間…、
匠の脳裏に、異世界の光景が蘇った。
ネンドール。
自分が創造した機体。
それが戦場を駆けていた。
そして、
王国を救ったが犠牲者も出た。
(……俺が創ったものが)
(戦争の道具になった…)
匠は拳を握る。
(もう……)
(もう、創ったものが誰かを傷つけるだけの世界にはしたくない…)
だが、その言葉を口にすることはなかった。
代わりに…、
匠は、会場をまっすぐ見つめる。
「私は、“ロボット”には世界中の人と人を繋ぐ力があると思っています」
静寂…
「日本のモデラーが作った機体を、海外の人が見る」
「海外のモデラーが作ったパーツを、日本の人間が使う」
「そこから交流が生まれる…」
「交流から、新しいアイデアが生まれる…」
「企業同士が繋がる…」
「新しいメーカーが生まれる…」
「海外企業との共同開発にも発展する…」
世界地図が一つの巨大なネットワークへ変わる。
「つまりこれは…、」
「ホビーを入口とした、世界規模のコミュニティであり、産業プラットフォームです」
そして…、
匠は、ゆっくりと言った。
「我々が創りたいのは、“ロボット”そのものじゃありません」
一拍…
「ロボットを通じて…、」
「世界中が繋がる場所を創る!」
その瞬間だった。
匠の胸の奥に、別の記憶が蘇る。
まだ幼かった頃。
父・ジョーンズと並んで模型を創っていた自分。
父親の手。
模型を見つめる少年の目。
笑い声。
匠は微笑んだ。
「いま、eスポーツは世界中で大きな盛り上がりを見せています」
「ですが…、」
「我々が提案するのは、画面の中だけで完結する競技ではありません」
「自分の手で触れる」
「自分の手で創る」
「自分の手で組み替える」
「そして…」
「自分が創った機体で、世界中の人と競い合う」
匠は会場を見渡した。
「ゲームの知識やテクニックがない人でもいい」
「模型を触ったことのない家族でもいい」
「子供でも、大人でもいい」
「創ることそのものを楽しめる」
そして…
「世界中を巻き込める、新しいコンテンツを我々は提案します!」
静寂。
誰も言葉を発しない。
やがて…、
パチ……。
一人が拍手した。
パチ、パチパチ……。
次第に拍手は大きくなり…
パチパチパチパチパチッ!
会場全体が拍手に包まれた。
「これは世界展開できるぞ!」
「ホビー誌との相性も抜群だ!」
「漫画化、アニメ化まで見える!」
「ゲーム部門との連携も可能ですね!」
匠は深く頭を下げる。
その瞬間。
石動獏が口を開いた。
「いやぁ……素晴らしい企画です。」
そして、穏やかな笑みを浮かべる。
「ところで、今回はサンプルも用意されていると聞いていますが?」
「……あ!」
匠が顔を上げる。
「はい。サンプルは…」
その時。
ガチャッ!
扉が勢いよく開いた。
「積村さんっ!」
雪乃だった。
顔には涙。
息を切らしている。
「す、すみません……!」
「どうした?」
「サンプルが……見当たりません!」
「……なんだって!?」
堂角も立ち上がる。
「どういうことだ?」
「さ、さっきまで控室のテーブルにあったんです!」
(……そんなはずはない)
匠の脳裏に、控室の光景が浮かぶ。
確かに置いてあった。
(くそっ……!)
(ここまで来て……終わらせてたまるか!)
「雪乃!」
「はい!」
「隣の控室に俺のカバンがある!」
「持ってきてくれ!」
「分かりました!」
雪乃が飛び出していく。
しばらくして…
「積村さん!」
戻ってきた雪乃がカバンを差し出した。
匠は中から工具キット、予備の共通規格ジョイントのサンプル、そして組み上がっていないオリジナルロボットの模型を取り出した。
そして…
最後に。
ヴレイヴァーを手にした。
匠はスーツの上着を脱ぎ、Yシャツの袖をまくった。
匠「失礼します。」
模型を前に腰を掛ける。
そして、
カチャ…
カチャカチャカチャッ!
その指が走る。
まるで長年模型を作り続けてきた職人のように…。
いや…、
プロモデラーそのものだった。
一同「す、すごい……」
部品が次々と組み上がる。
数分もしないうちに、一体のオリジナルロボットが完成した。
「おおおっ……!」
会場から感嘆の声。
しかし匠は止まらない。
「そして…」
ヴレイヴァーを手に取る。
(……ヴレイヴァー)
(悪ぃな…)
(ちぃっと痛てぇが、少しだけ…辛抱してくれ…)
装甲を外す。
フレームを分解する。
カチャッ…
カチャッ…
その瞬間…、
「……!」
匠の指が止まった。
内部にある黒く濁ったマナストーン。
(……)
匠は誰にも見られないよう、それをシャツのポケットへ滑り込ませた。
そして、
「こちらが共通規格ジョイントのサンプルです」
ヴレイヴァーの各部へジョイントを装着。
そして組み直す。
「既存の模型にも対応できるのか……!」
「ということは、他社製品とも組み合わせられる?」
「その通りです」
匠は頷く。
「形状は共通です。」
「ただし、ポイントはそれぞれ異なります」
「なるほど……!」
「取り付けたパーツのポイントによって、機体性能が変わる!」
「しかも取り付け位置によっても…?」
「はい」
匠は頷いた。
「だから、同じパーツでも、使う人間によって全く違う機体になるんです。」
そして…
ヴレイヴァーの腕を外す。
オリジナルロボットへ装着。
脚を外す。
別の機体へ。
背部ユニットを交換。
頭部を交換。
一瞬で別のロボットへ姿を変える。
「おおおおおっ!」
歓声。
拍手。
石動獏も満足そうに頷いた。
「いやぁ……企画だけではない」
「積村さん自身の技術も素晴らしい!!」
「ありがとうございます!」
匠は深く頭を下げた。
その顔には、確かな手応えがあった。
---
―プレゼン終了後・控室―
堂角「積村、ご苦労だったな!」
「素晴らしいプレゼンだったぞ。」
雪乃も笑顔を浮かべた。
雪乃「本当にダメかと思いましたけど……最後の組み立て、手際が良くて凄かったです!格好良かったぁ!!」
匠
「……ありがとう」
そして泉川。
「まぁ……“君”にしては珍しく上出来だったんじゃないかな…」
「課長である私も鼻が高いよ。」
ポン…
泉川が匠の肩へ手を置く。
その瞬間…
バァーンッ!!
世界が反転した。
「……!」
匠のサイコメトリーが発動する。
焼却炉。
そこへサンプルを投げ込む泉川。
燃え上がる模型。
匠への嫌がらせ。
企画資料の改竄。
他社社員との密会。
金銭の受け渡し。
癒着。
そして…、
これまで『匠』を陥れようとしてきた、無数の記憶。
「…………」
映像が消える。
匠は無言で立ち上がった。
ガタンッ!
泉川の胸ぐらを掴む。
「な……なんだよ!」
堂角が驚く。
「積村!?」
雪乃も目を見開く。
「積村さん……?」
匠の目が鋭くなる。
「同期の“よしみ”で大人しくしてやっていたが……」
泉川の顔が引きつる。
「これ以上…」
「“あいつ”の邪魔すんじゃねぇよ……あぁ⁉️」
その瞬間、
シャツの中に隠したマナストーンが、
ほんの僅かに、
紫黒く輝いた。
(……!)
匠自身も、その光に気づいた。
だが、
ガチャ
控室の扉が開いた。
「…失礼します」
ISURUGI社員だった。
「堂角部長と……それと、積村さん」
「石動社長がお呼びです」
「……お、俺も?」
「はい…」
社員は静かに続ける。
「社長が直接、お話ししたいとのことです」
匠は泉川の胸ぐらを離した。
そして、
ヴレイヴァーを見る。
反応はない。
それでも、ポケットの中の黒いマナストーンだけが、
微かに熱を持っていた。
「……分かりました」
匠は堂角と共に社員の後を追う。
向かう先は…、
ISURUGI本社社長室。
そこに待つ石動獏は、一体何を語るのか。
そして、
匠たちの《WORLD ROBOT LINK PROJECT》は、果たして世界へ羽ばたくのか…?
それとも…
この企画そのものが、
あの映像で見た「未来」へ繋がってしまうのか。
バタンッ…
扉が閉じる。
―つづく-




