第95話 虹の帰還 ―希望の光、聖杯を取り戻す者―
第95話 虹の帰還
―希望の光、聖杯を取り戻す者―
―モディアス王国・戦闘区域-
虹色に染まった空。
その中心で、黒龍ディアヴロは静止していた。
その首元には、二本のミラージュ・エッジ。
そして、
その内部には、匠がいる。
しかし今、
匠の意識を包んでいたのは、漆黒の憎悪ではなかった。
蒼
翠
紅
蒼銀
そして…、虹。
アーク・ユグナイトから放たれた“皆の想い”が、ライジング・ビットを通して、濁流のように匠の中へ流れ込んでいた。
激しい。
それなのに、
温かい。
その一つ一つに、人の想いが宿っている。
ユグ。
イリア。
ココル。
ジャワディ。
アイザック。
アンジュ。
ルイス。
ジュリア。
そして、
モディアス王国に生きる、数え切れない人々。
匠
(……みんな……)
その光景を、匠は感じていた。
誰かを守りたい。
大切な人に生きていてほしい。
明日を迎えたい。
未来を諦めたくない。
そんな一つ一つの想いが、光となって匠へ届いている。
そして、その対極。
匠の身体を侵食していた黒い憎悪。
三百年の悲しみ。
怒り。
嫉妬。
絶望。
その全てを抱えた黒龍が、震えていた。
黒龍 「や……やめろ……」
「わ…我の憎悪が……!」
匠は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
匠 「……お前の憎悪だって」
「元は……人間が生み出した感情なんだろう…」
黒龍 「……!」
匠 「怒りも。」
「悲しみも。」
「妬みも。」
「全部……人が生きてきた証だ」
匠の手に握られた聖杯が、激しく脈動する。
ドクン!
ドクン!
黒い瘴気が再び匠へ絡みつく。
しかし、
虹色の光が、それを押し返す。
匠 「だけど…」
「憎しみだけじゃ……何も生まれない!」
「未来へ進むこともできない!」
その瞬間。
匠の髪が…
スゥゥゥ……
と、銀色へ変わっていく。
そして…
左目が、
カッ――!!
目映い蒼色に輝いた。
黒龍 「な……何だ……その光は……」
匠 「これが――」
「みんなの“想い”だ!」
「未来へ進もうとする――」
「希望の光だぁぁぁッ!!」
ズバァァァァァァァァン!!
虹色の波動が、匠を中心に一気に広がった。
黒龍 「や……やめろぉぉぉッ!!」
「我が……!」
「我が消えてしまうぅぅぅッ!!」
バリィィィィィン!!
匠「…❗」
その瞬間、
ライジング・ビットが形成していた円陣の中心に、巨大な亀裂が走った。
バァァァァァァンッ!!
空間そのものが砕け散る。
その向こうから…、
虹色の光を纏った一機のネンドールが姿を現した。
メテオール・リンクス。
その全身から、虹色の光が溢れている。
カイザー 『匠ッ!!』
匠 「カイザーッ!!」
カイザー 『迎えに来たぞ!』
匠 「ああ…信じていた…!」
二つの声が重なった。
次の瞬間、
ドッッッッッーーーーーン!!
虹色の波動を纏ったメテオールと、黒龍が真正面から激突した。
轟音。
衝撃。
そして…
世界が、虹色に染まった。
ゴォォォォォォォォォッ!!
大地が揺れる。
空が震える。
黒龍の咆哮が響き渡る。
黒龍 「グォォォォォォッ…」
しかし、
その声は、次第に小さくなっていく。
虹色の光が、黒龍の身体を包み込んでいく。
黒。
蒼。
紅。
翠。
幾重もの光が、漆黒の憎悪をゆっくりと塗り替えていく。
そして…、
シュゥゥゥゥゥ……
静寂。
あれほど激しかった戦場から、音が消えた。
眩い光が、少しずつ晴れていく。
…そこにあったのは、
全身に無数の亀裂が走り、漆黒だった装甲が、灰色へと変わった巨大な黒龍の姿だった。
動かない…
ただ静かに、そこに立っている。
―アーク・ユグナイト・ブリッジ―
イリア 「……やった…の…?」
ジュリア 「匠様……」
ココル 「……どうなんじゃ……」
ジャワディ 「……」
誰も動けない。
誰も、声を出せない。
ただ、黒龍を見つめていた。
そして、
ピキッ。
小さな音。
ピキピキピキ……
黒龍の身体に、さらに亀裂が走る。
イリア 「……!」
パリィィィィィン!!
巨大な身体が、
まるで硝子細工のように砕け散った。
無数の破片が、空中へ舞い上がる。
その中心から、
一つの影が現れた。
シュゥゥゥ……
虹色の光を纏った、
メテオール・リンクスだった。
そして、その胸部ハッチが…
プシュゥゥゥ……
ゆっくりと開いた。
沈黙。
そこから、一人の男が姿を現す。
匠だった。
その右手には…、
黄金に輝く聖杯。
匠は、ゆっくりとそれを天へ掲げた。
その瞬間、
ドォォォォォォン!!
大地が震えるほどの歓声が上がった。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」
王都の人々。
兵士たち。
仲間たち。
誰もが叫んでいた。
生きている。
創造主が、帰ってきた。
タッ…。
匠は、ゆっくりと地上へ降り立つ。
そして、
その背後から、アーク・ユグナイトも着地した。
ゴォォォン!!
ハッチが開き、イリアたちが次々と降りてくる。
その瞬間
ジュリア 「匠様ぁぁぁッ!!」
タッタッタッタッ…ッ!!
ジュリアが、一直線に駆けてくる。
匠 「えっ……?」
次の瞬間、
ギュッ!!
ジュリアが匠へ抱きついた。
匠 「お、王女……!?」
イリア 「……あらあら♡」
ココル 「な、なんと……」
ジャワディ 「お、おい…」
ジュリア 「よかったぁ……!」
「戻ってきてくれて……!」
匠 「……王女」
ジュリアの頬には、涙が流れていた。
匠は少し驚きながらも、優しく笑った。
匠 「心配かけました…」
そして、
匠は右手に持っていた聖杯を見る。
黄金色に輝くその器には…、もう、黒い瘴気は存在しなかった。
匠 「でも……」
「約束は守りました…」
「聖杯は…」
匠は、そっとジュリアへ差し出した。
「取り戻しましたよ」
ジュリア 「……はい!」
ジュリアは両手で聖杯を受け取った。
その表情には、安堵と喜びが満ちていた。
その時、
少し離れた場所で、
ルイスが静かに匠を見つめていた。
ルイス 「……匠」
ルイス 「……本当に…良かった…」
「終わりましたよ…父上…」
ルイスは、静かに微笑み、空を見上げた。
そして、
医療室。
アンジュは、眠ったままのアイザックの手を握っていた。
アンジュ 「……終わったよ」
「ホントにヒヤヒヤしたよ…。ねっ…アイザック…」
その言葉に反応するように、
アイザックの口元が、
ほんの僅かに上がった。
アイザック
(……やったね……匠君)
再び、静かな寝息。
アンジュは微笑んだ。
--戦場。
匠たちは、ゆっくりと空を見上げる。
すると、
雲間から、一筋の光が差し込んだ。
そして…
空いっぱいに、
巨大な虹が架かっていた。
「……虹……」
誰かが呟いた。
蒼。
翠。
紅。
黄。
紫。
幾重もの色が、モディアス王国の空を彩っていく。
それはまるで、
三百年にわたる憎悪が終わり。
新しい未来が、今ここから始まることを告げるようだった。
匠は、静かに空を見上げる。
そして、小さく呟いた。
匠 「……ジュネイ」
「ジャクラム」
「これで……少しは前に進めるかな」
誰も答えない。
ただ、
大きな虹が、静かに王国を見守っていた。
―つづく-




