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第94話 虹光の絆 ―三百年の憎悪を越える“想い”―

第94話 虹光の絆

―三百年の憎悪を越える“想い”―


―モディアス王国・戦闘区域-


漆黒の龍ディアヴロ。


その首元には、二本のミラージュ・エッジが深々と突き刺さっていた。


黄金のニュートライズが刃から流れ込み、黒龍の巨体を内部から照らしている。


しかし、


その光の中心にいる匠は、コックピットで苦しんでいた。


匠

(ぐぉぉぉぉっ……!)


全身が引き裂かれる。


憎しみ。


悲しみ。


怒り。


嫉妬。


絶望。


三百年という時間の中で積み重ねられた、無数の負の感情が、匠の意識を押し潰そうとしていた。


匠

(ぐっ……へへ……)


(くそ……負けるもんか……!)


匠

(こ、これが……)


(これが三百年蓄積された……ジャクラムの“憎悪”……!)


だが、


匠は気づいていた。


この感覚は、ジャクラムと対峙した時とは明らかに違う。


匠

(……おかしい)


(ジャクラムの意識に触れた時とは……何かが違う……)


(これは……ジャクラムだけのものじゃない)


…その頃。


黒龍から距離を取ったメテオール・リンクス。


そのコックピットには、カイザーだけが残っていた。


カイザー『……匠』


ピッ。


通信が入る。


イリア『ねぇ! ちょっと!』


『貴方、創造主の“相棒”なんでしょッ!?』


『この後どうするか、何も聞いてないの!?』


カイザー『……おそらく』


『匠は、ジャクラムの憎悪を

浄化するために、あの聖杯へ直接乗り込んだのだろう』


イリア『……』


カイザー『今は……匠を信じるしかない』


イリア『そうね…』


イリアは、拳を握り締めた。


信じる。


それしか、できなかった。


―ディアヴロ・コックピット内部―


匠

(ぐっ……!)


その瞬間、


ヴ――――ン……


プツン。


匠

(……!?)


視界が切り替わった。


そこに映し出されたのは…、


巨大な培養カプセル。


その中には、ひとりの男が眠っている。


そして、そのカプセルの外。


長い魔法の杖を持った、妖艶な女。


その身体から放たれる禍々しい紫色のオーラが、カプセルへと流れ込んでいた。


その後方には…、


長身の男が立っていた。


ヘラヘラと笑いながら、その光景を眺めている。


妖艶な女 「さぁ……最後の仕上げといきましょうか……♡」


「“果実”を手に入れるためには…」


「あなたの屈強な身体と、聖杯が必要なの……♡」


紫色のオーラが、さらに強くなる。


妖艶な女 「だからぁ……」


「そのチンケな憎悪を、もっともっと増幅させて……」


「私のために、働いてちょうだい……♡」


ゴォォォォォォッ!!


紫の光がカプセルを完全に包み込む。


匠

(……ッ!!)


…プツン


映像が消えた。


匠

(……やっぱり……)


(あの時と同じだ……)


(俺が以前感じた、“黒い意識”……)


その瞬間、


匠の脳裏に、これまで触れてきた異質な存在が次々と浮かび上がる。


ユグドラシル。


ルイス。


ココル。


そして、王都の人々。


匠

(全部…あの黒い意識と、どこか繋がっている……)


そして、先ほどジャクラムの意識へ割り込んできた女の声。


匠

(……一致する)


(やはり……)


(あいつが、裏で糸を引いていた……!)


【黒幕】


その存在を、匠は確信した。

だが、その時だった。


匠

(……ん?)


無数の黒い感情が渦巻く中。


ほんの僅か。


あまりにも小さな…


光。


匠

(……あれは……?)


匠は、ゆっくりと手を伸ばす。


黒い感情が腕へ絡みつく。


それでも、手を伸ばす。


そして、


その小さな光を、掴んだ。


匠

(……温かい)


そこにあったのは、


憎しみではない。


悲しみでもない。


怒りでもない。


それは…、


誰かを想う感情。


匠

(……ジュネイ……)


パァァァァァ……


温かな光が、匠の意識を包み込む。


その光は…、


聖杯へも届いていた。


匠

(……これだ)


(ジャクラムが最後まで失わなかったもの)


(憎悪の奥に残っていた……)


(“愛する者を想う心”……!)


匠は、聖杯を強く握り締める。


しかし、


ドクンッ!!


聖杯から再び、膨大な憎悪が溢れ出した。


匠

(ぐっ……!)


黒い瘴気が、掴んだ腕から侵食していく。


匠

(このままじゃ……俺まで……!)


それでも手は離さない。


匠

(……カイザー!)


―メテオール・コックピット-


カイザー『……匠か⁉️』


匠

(ああ……)


(ほんの僅かな時間だけ、俺の意識をお前に飛ばしている)


カイザー『…』


匠

(ライジング・ビットを黒龍の前に展開してくれ)


(そして…)


(ユグナイトから、“ユグの波動”を放ってくれ)


カイザー『……ユグの波動を?』


匠

(頼む……!)


(ぐっ……ぐぉぉぉぉっ!!)


カイザー『……分かった!待っていてくれ!』


―アーク・ユグナイト―


ユグ 『ウン! ワカッタヨ……タクミ!』


イリア「ユグちゃん!?」


ユグ 『イリア、ボクノ アイズデ……』


『コクリュウニ ハドウヲ トバシテ……』


イリア「……分かったわ!」


カイザー『ライジング・ビット、展開!』


ビュン!


ビュビュビュビュンッ!!


メテオールの周囲から飛び出したライジング・ビットが、黒龍の前方へ円陣を形成する。


ギュィィィィィィン!!


高速回転するビット。


その中心の空間が、ゆっくりと歪んでいく。


そして、


水面の様な空間。


パァァァァァ……


そこへ、蒼い光が集まり始める。


ユグ 『イマダヨ!』


アーク・ユグナイトが両手を前方へ突き出す。


イリア「いくよぉっー!」


ユグ 『タクミ……』


『マッテテ……』


『イマ……ムカエニイクヨ……!』


バッシューーーーーン!!


蒼い波動が放たれた。


ライジング・ビットの中心を通り抜け、


黒龍へ直撃する。


ドォォォォォォン!!


黒龍の巨体が蒼い光に包まれた。


その波動は、ただのエネルギーではない。


ユグの“想い”。


そして、


匠へ向けた、帰ってきてほしいという願い。


ユグ 『タクミィ……!』


蒼い光が、黒龍の内部へ侵入していく。


しかし、


ギギギギギ……


匠の前に、漆黒の壁が立ちはだかった。


ユグ 『……!』


黒い意識 『ククク……』


『この身体は――私のものだ』


『誰にも渡さない……!』


ユグ 『ウウゥ…!』


『ト、トドカナイ……!』


その時、


イリア 「ユグちゃん!」


「あなた一人じゃないわ!」


ドォォォォォン!!


イリアが両手を手前に上げ、精神を集中させた。

挿絵(By みてみん)

蒼い波動が、一気に増幅する。


イリア 「これが……三百年分の憎悪だというの……?」


「だったら…私たちは、それ以上の“想い”をぶつける!」


だが、


届かない。


黒い意識は、なおも匠を包み込んでいる。


イリア 「……くっ!」


その時、


ココル 「微力じゃけども……」


ジャワディ 「我々も力を貸しますぞ!」


二人がD.L.Sの外側へ手を当てる。


そこから流れ込むのは…


王国を守りたいという想い。


仲間を守りたいという想い。


そして、


匠を失いたくないという想い。


蒼い波動が、さらに強くなる。


それでも…


届かない。


すると、


ふわり……


翠色の光が、D.L.Sのドームを包み込んだ。


イリア「……!」


「お兄ぃの……?」


次に…、


紅い光。


イリア「これは……?」


モニターに映し出されたのは、医療室。


そこではアンジュが、眠るアイザックの手を握りながら、静かに祈っていた。


アンジュ 「……匠」


「どうか……帰ってきて」


紅い光が、D.L.Sへ重なる。


そして、


蒼銀の光。


ルイス 「匠を……」


「大切な仲間を――」


「返してもらうぞッ!!」


ルイスが拳を突き上げる。


さらに、


ギュン!


ギュン!


ギュン!


モニターに映し出される。


船体内部。


王都から避難してきた人々。


兵士たち。


老人。


子供。


誰もが天を見上げていた。


そして、


祈っている。


願っている。


ただ一つ。


匠に帰ってきてほしい。


イリア 「……すごい」


「これが……」


「この国に生きる人たちの……想い……」


しかし、


それでも、まだ届かない。


イリア 「あと……もう少し……!」


その瞬間だった。


ヒューーーーーッ…


静寂。


そして…


ギラァァァァァン!!


D.L.Sのドームが、虹色に輝いた。


ココル「……!?」


ジャワディ「これは……!」


イリア「……?」


そこには、


D.L.Sの傍らで眠っていたジュリア。


彼女はゆっくりと目を開けると、両手をドームへ当てていた。


ジュリア 「私も……」


「力を貸します……!」


イリア 「ジュリア……❗」


ジュリア 「匠様を……」


「皆の未来を……」


「取り戻しましょう……!」


その瞬間、


虹色の光が、すべての想いを包み込んだ。


蒼。


翠。


紅。


蒼銀。


そして、


無数の光。


それらが一つになり、


巨大な虹色の波動へと変わっていく。


イリア 「……これが……」


「この国に生きる…」


「すべての“想い”よッ!!」


「だから」


「創造主を返してッ!!」


「聖杯も……返してもらうわッ!!」


「「「「「はぁーーーーーーっ❗❗❗」」」」」

挿絵(By みてみん)

皆が一斉に気を…、“想い”を解き放った。


ズバァァァァァァァァン!!


虹色の波動が、黒龍を直撃した。


ピシッ!


ピシピシピシッ!!


黒龍の首元に突き刺さった二本のミラージュ・エッジ。


そこから走った亀裂が、全身へ広がっていく。


黒龍 「グ……ォォォ……!」


「こ……これが……」


「人の……“想い”……だというのか……!」


黒龍の中で、


ユグの光が、ついに漆黒の壁を突き破った。


ユグ 『……!』


『トドイタァァァ!!』


光の向こう。


そこに…


匠がいた。


匠 「……ユグ……」


ユグ 『タクミィ……!』


その瞬間、


カイザーの声が響く。


カイザー 『匠!』


『今から――迎えに行くぞッ!!』


メテオールが加速する。


ギュオォォォォォォン!!


虹色の波動と共に、ライジング・ビットの中心へ突入。


その先にあるのは…


匠。


聖杯。


そして、三百年の憎悪。


メテオールは、虹色の光の中へ消えていく。


モディアス王国の空が、


蒼く。


紅く。


翠に。


そして――


虹色に染まっていく。


世界の命運を分ける一瞬。


それは、


誰もが息を止めるほどの…


静寂だった。


―つづく-

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