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第92話 黒龍、咆哮 ―聖杯に残された憎悪と、拳―

第92話 黒龍、咆哮

―聖杯に残された憎悪と、拳―


―アーク・エクリプス・ブリッジ―


「ど、どうしてよっ!?」


イリアの声が、静まり返っていたブリッジを震わせた。


「ジャクラムは……いなくなったんでしょ!?」


正面の大型モニター。


そこに映し出されていたのは、


漆黒の龍だった。


かつてディアヴロと呼ばれていた機体。


その姿は、もはやネンドールと呼べるものではない。


巨大な翼。


鋭く伸びた四肢。


全身を覆う漆黒の装甲。


そして、その装甲の隙間から漏れ出している赤黒い瘴気。


龍はゆっくりと首を動かし、地上に立つメテオールを見つめていた。


イリア「なんで……!」


「どうして、あの機体が龍になったのよ!」


ココルは答えられなかった。


ただ、モニターへ視線を固定している。


ピピッ……。


ピピピピッ……!


大量の解析データが、次々と画面を流れていく。


やがて、


ココル「……うむ」


低い声が漏れた。


イリア「何かわかったの?」


ココル「ここを見てくだされ」


ココルが画面の一箇所を指差す。


ディアヴロの頭部。


そこだけが、


ドクン…


ドクン…


そこが赤く脈動していた。


イリア「……それって……」


ココル「聖杯ですじゃ…」


イリア「聖杯……?」


ココル「そう」


ココルの顔から、いつもの飄々とした表情が消えていく。


ココル「ジャクラム自身は……もうおりませぬ」


「しかし…」


「三百年もの間、蓄積されたものは、完全に消えたわけではないのです」


イリア「……蓄積されたもの?」


ココル「憎悪ですじゃ」


イリア「……!」


ココル「怒り……悲しみ……絶望……嫉妬……」


「ジャクラムが長き年月をかけて抱き続けた負の感情を、聖杯は吸収し続けていた」


「そして今……」


ココルは、咆哮するディアヴロを見つめる。


ココル「ジャクラムという意識が消えたことで、行き場を失った憎悪が暴走しておる」


イリア「じゃあ……あれは……」


ココル「ジャクラム本人ではない」


「じゃが…」


「ジャクラムの中に存在した“憎悪”だけが残ってしまったのですじゃ」


イリア「……なんか……」


ごくり…


イリアが息を呑む。


「ヤバいんじゃない……?」


ココル「……ええ」


「非常にまずいですじゃ」


―モディアス王国・戦闘区域―


ズン……


ズン……


ズン……


大地が震える。


黒龍と化したディアヴロが、ゆっくりとメテオールへ歩み寄っていた。


ディアヴロ「カ……」


「カキ……カエル……」


その声は、途切れ途切れだった。


ディアヴロ「テッテイテキニ……」


「コワス……」


口元から、赤黒い瘴気が噴き出す。


メテオールは、失った右腕を押さえるように機体を傾けながら、後退した。


匠「……カイザー」


カイザー『…』


匠「カイザー、モードを切り替えてくれ」


「低消費モードで……あいつを解析する」


カイザー『了解』


『低消費モードへ移行』


『ライジング・ビット、解析開始』


ビュオォォォンッ!!


八基のライジング・ビットが一斉に飛び出す。


四方へ散開。


ディアヴロを取り囲むように展開し、蒼い解析光を放つ。


ピピッ……。


ピピピピッ……。


D.L.S内部へ、ディアヴロの立体映像が投影された。


胸部。


胴体。


翼。


四肢。


そして、


頭部。


匠「……!」


赤く点滅する一点。


匠「ここだ」


「聖杯……」


カイザー『解析完了』


『聖杯内部から、極めて高密度のエネルギーを確認』


『通常のマナエネルギーとは性質が異なる』


匠「……」


カイザー『このまま放置すれば、エネルギーはさらに増幅する』


『最悪の場合…』


カイザー『王国全域が巻き込まれる』


拳を握る。


匠「聖杯を破壊するしかないのか…」


カイザー『…』


その瞬間、


ディアヴロが、巨大な口を開いた。


ジュォォォォォォォ……!!


口腔内部に、赤黒い光が集束していく。


匠「……!」


カイザー『来るぞ!』


ディアヴロ「ショウメツ……」


「シロ……」


ジュォォォォォン!!


凄まじいエネルギーが膨張する。


匠「……!」


その時…!


「消滅すんのは…」


「てめぇの方だぁぁぁぁぁッ!!」


匠「……!?」


上空から声が響いた。


ビュオォォォォォン!!

挿絵(By みてみん)

陽光を切り裂き、一機のネンドールが急降下してくる。


その手に握られていたのは…


巨大な腕。


匠「……あれは!」


ルイス「あの…腕は…」


ズガァァァァァン!!


凄まじい勢いで、ディアヴロの頭部へ拳が叩き込まれた。


バキィィィッ!!


漆黒の装甲に亀裂が走る。


ディアヴロ「グ……ゴゴゴゴ……」


ギギ「へっ!」


機体の中で、ギギが口元を吊り上げる。


「どうだ、この野郎!」


匠「ギギ……!」


ギギが乗っているのは、モディアス兵士が乗り捨てたネンドール量産機。


そして、その手には…、


エルゼイレとの戦いで切り落とされたヴァルテリオンの腕が握られていた。


ギギ「その辺に転がっていた機体があったからよぉ…それにこの“腕”ぇ…」


「使えるもんは使わせてもらうぜ!」


ディアヴロ「…………」


ギギ「……あ?」


ディアヴロが、ゆっくりと顔を上げる。


ギギ「…ちっ…まだ動くのかよ」


ディアヴロ「ジャマ……スルナ……」


ドガァァァン!!


巨大な尾が振り下ろされる。


ギギ「うぉぉぉぉッ!?」


ズドォン!!


量産機が地面へ薙ぎ飛ばされた。


ドガンッ!!


ディアヴロは、量産機を踏みつけた。


ギギ「ぐ……ぉ……!」


ギシ……。


ギシギシ……。


量産機の装甲に亀裂が走る。


警告音。


ビーッ!!


【機体損傷率――危険】


ギギ「ち……くしょう……」


さらに巨大な脚が機体を押し潰す。


ギギ「ぐぁぁぁぁッ!!」


ギシギシギシ……。


ギギ「このまま……」


「終われるかよ……!」


ディアヴロ「キエロ……」


ギギ「くっ……!」


ギギは操縦桿を握り締めた。


ギギ「兄貴……」


「悪ぃ……」


「俺……ここまでかもしれねぇ……」


その瞬間、


『……ホントにもうっ!!』


ギギ「……?」


『いい加減にぃ…』


『しろぉぉぉぉぉぉッ!!』


バゴォォォォォォン!!


再び、ディアヴロの頭部へ強烈な一撃が叩き込まれた。


ディアヴロ「グワァァァッ!?」


巨大な龍の頭部が弾かれる。


ギギ「な……」


ディアヴロから離れた地面。


そこに、


一機の巨大な機動兵器が立っていた。


両脚を踏みしめ。


拳を構え。


真っ直ぐ黒龍を睨みつけている。


ギギ「…な…なんだぁ?」


機動兵器の内部…


ヒュン……


ヒュン……


ヒュン……


ブリッジ中央のD.L.S内部のモニターに次々と情報が表示されていく。


その中にいたのは、


イリアだった。


イリア「大丈夫?創造主…そこのキミも…」


イリアは、モニター越しにメテオールと量産機を見る。


ギギ「で…でけぇ…」


傷ついた二機を守るように巨大兵器が立つ。


黒龍が赤黒い瘴気を纏わせ咆哮する。


その咆哮は…


まるで、ジャクラムが三百年間抱き続けた憎悪そのものだった。


しかし、


もうそこに、ジャクラムはいない。


残されたのは、


溢れ出る“憎悪”だけ。


そして今…


その憎悪を断ち切るために、


最後の戦いが始まる。

挿絵(By みてみん)

-つづく-


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