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第91話 最後の矢 ―罪を断ち、想いを受け継ぐ者―

第91話 最後の矢

―罪を断ち、想いを受け継ぐ者―


―アーク・エクリプス ブリッジ―


イリア「ねぇ、ココル。メテオールって“ワープ”も使えるの?」


イリアは、バトル・スクエア内で円陣を編成しながら滞空しているライジング・ビットをモニターで見ていた。


ココル「そう! メテオールの機能の一つですじゃ!」


「超高機動特化型ネンドール……機動力だけなら、兄上のエンプレスをも上回る性能ですじゃ!」


「エルゼイレの攻撃を躱し続けられるのも、その機動力あってこそですな…」


イリア「へぇ~」


ココル「しかし……“超高機動”ゆえに、パワー消費も激しい…」


「そう何度もワープを乱発できるものではないのです」


イリア「じゃあ、そのワープを使ってメテオールだけ外へ出て、エルゼイレの自滅を待っていればよかったんじゃない?」


ココル「……まあ、理屈だけならそうですな…」


イリア「…?」


ココルは、静かに空を見上げた。


ココル「しかし……今の“匠”は、そんなことをする奴ではありませんのじゃ」


「心と心……」


「想いと想い……」


「それを真正面からぶつけて、決着をつけようとしているのでしょうな」


ユグ『ボクハ、ソンナタクミガ スキダヨ!』


イリア「……!」


ココル「まあ……兄上のように、無茶だけはしなければよいのですがなぁ……」


二人は、再び空を見上げた。


そこには…


二つの光があった。


赤黒い光。


そして、黄金の光。


その二つが、激しくぶつかり合っていた。



―遥か宙域―


ビィービィービィーッ!!


けたたましい警報が、戦場に響き渡る。


エルゼイレの巨体が、激しく震えていた。


その内部では、赤黒い瘴気と黄金の光が激しく衝突している。


ジャクラム

「ぐ……おおおおおおッ!!」


エルゼイレの装甲が軋む。


ジャクラム

「こ、こんなところで……!」


「やっと……やっと我は……自分の本当の“最後の想い”に気付いたというのに……!」


「創造主が……受け止めてくれたというのに……!」


ドクンッ!!


胸部の聖杯が脈動する。


ジャクラム

「最後の最後で……!」


「“あやつ”の好きなようにされてたまるかぁぁぁッ!!」


ゴォォォォォォッ!!


赤黒い瘴気が膨張する。


だが、その中心でジャクラムは必死にそれを押さえ込んでいた。


ジャクラム

「そ……創造主よ……!」


「我が自我で……押さえ込んでいるうちに……!」


「早く……!」


その声を、匠は静かに聞いていた。


メテオールの背部。


シュイン……


シュイン……


二本のミラージュ・エッジが展開する。


匠

「…………」


ガチィィィン!!


二本の柄が接続される。


刀身が変形し、一本の巨大な弓へと姿を変えた。


カイザー

『ミラージュ・エッジ――弓形態へ移行』


黄金の光が弓全体を包み込む。


そして、その光が一点へ収束していく。


一本の矢。


匠は、静かに弦を引く。


ギギギギギ……。


限界まで引き絞られた光の矢が、エルゼイレへ向けられる。


カイザー

『匠……』


匠

「ジャクラム……」


匠の声は、静かだった。


匠

「お前は、多くの罪のない人々を、その手にかけた」


「決して許されない罪を犯した」


ジャクラム

「…………」


匠

「だから、その罪をなかったことにはしない」


「お前が奪った命は戻らない」


「犯した罪も、消えない」


一瞬。


匠は目を閉じる。


そして…


匠

「だけど……」


再び目を開く。


匠

「お前が最初から、世界を壊したかったわけじゃないことも……俺は知った」


ジャクラム

「……!」


匠

「お前は……守りたかったんだろ?」


「ジュネイを」


「ジャスパを」


「ジェイドを」


「ジゼルを」


「そして……モディアス王国を」


ジャクラム

「…………」


一筋の涙が、ジャクラムの頬を伝った。


匠

「その想いまで、俺は否定しない」


「でも、」


黄金の弓が、さらに輝きを増す。


匠

「その想いを理由にして、誰かの未来を奪うことまで……肯定するつもりはない!」


カイザー

『ニュートライズ・アロー、照準固定!』


キュィィィィィン!!


光の矢が唸りを上げる。


匠

「俺が断つのは、」


「お前の命じゃない!」


「お前の中に巣食っている……」


「その“黒い意志”だッ!!」


バシュゥゥゥゥゥン!!


黄金の矢が放たれた。


一直線。


エルゼイレの胸部へ向かって、光が突き進む。


しかし、


ズガァァァァン!!


赤黒い瘴気が矢の前に立ちはだかった。


ギリギリギリ……!!


光と闇が激突する。


カイザー

『出力低下!』


『活動限界値…500!』


『このままでは押し返されるぞ!』


匠

「…………」


その時だった。


エルゼイレの内部から、声が響いた。


ジャクラム

「創造主ぅッ!!」


匠

「……!」


ジャクラム

「我も……力を貸す…ぞ…!」


ドクンッ!!


胸部の禁断の果実のコアが輝く。


ジャクラム

「これまで我は……」


「自分の罪を……他者のせいにしてきた」


「兄上のせいだと……」


「国のせいだと……」


「そして……あの黒き意識のせいだと……」


「だが……!」


震える拳を握り締める。


ジャクラム

「最後に……」


「我自身の手で……終わらせるッ!!」


黄金の光が、エルゼイレ内部から爆発した。


赤黒い瘴気が押し返される。


ジャクラム

「我の“最後の想い”は……!」


「世界を支配することではない!」


「過去をやり直すことでもない!」


「ただ……!」


涙を流しながら叫ぶ。


ジャクラム

「もう二度と……!」


「大切な者を失いたくなかっただけだぁぁぁッ!!」


ゴォォォォォォォ!!


黄金の光が闇を押し返す。


匠

「……」


カイザー

『匠…今だ!』


匠

「ああ!」


匠

「いくぞッ!!ジャクラム!」


ジャクラム

「おおおおおおおおおおッ!!」


匠・カイザー

「『ニュートライズ・アローッ!!』」


バシュゥゥゥゥゥゥン!!


さらに黄金の矢が加速する。


赤黒い瘴気を貫き、


ズドォォォォォォン!!


エルゼイレの胸部へ突き刺さった。


世界が、白く染まった。


――ジャクラム・精神世界――


静寂。


灰色だった世界に、無数の光が降り注いでいる。


ジャクラムは、その中に立っていた。


長い戦いを終えた男の顔には、もう憎悪はなかった。


ジャクラム

「…………長かった」


「三百年……」


空を見上げる。


ジャクラム

「私は……ずっと過去に囚われていた」


「ジュネイを失った瞬間から……」


「“失わない世界”を求め続けた」


拳を見つめる。


ジャクラム

「だが……」


「失いたくないという想いが……」


「いつしか、誰かの未来を奪う理由になっていた」


匠

「…………」


ジャクラム

「愚かな男だな……私は」


その時…、


「ジャクラム……」


ジャクラム

「……!」


振り返る。


そこには…


ジュネイが立っていた。


あの日と変わらない、優しい笑顔。


ジャクラム

「ジュネイ……」


涙が溢れる。


ジャクラム

「すまぬ……」


「お前の願いを歪め……」


「この世界を……」


ジュネイ

「……もういいのです」


ジャクラム

「…………」


ジュネイ

「貴方は……ずっと、誰かに止めて欲しかったのでしょう?」


ジャクラム

「……!」


ジュネイ

「もう……大丈夫ですよ」


ジャクラムは、膝をついた。


ジャクラム

「……すまぬ」


「本当に……すまなかった……」


ジュネイは、静かに手を差し伸べる。

挿絵(By みてみん)

ジュネイ

「さあ……行きましょう」


ジャクラム

「…………」


ジュネイ

「今度は、私達が……」


「彼らの未来を見守りましょう」


ジャクラム

「ああ……」


ジャクラムは、その手に自らの手を重ねた。


二人の身体が、黄金の光へ変わっていく。


ジャクラム

「創造主よ……」


匠

「…………」


ジャクラム

「こんな穏やかな気持ちで……」


「永き間、忌み嫌っていたハーティス家の人間として逝かせてくれて……」


「感謝する……」


匠

「……」


ジャクラム

「この国の未来を……頼む」


匠

「…あぁ」


ジャクラムは微笑んだ。


ジャクラム

(そして…“これ”がせめてもの……我の…せめてもの…償いだ……)


宙域に黄金の光が地上へと降り注いだ。


そして、


光が、二人を包み込み、


完全に消えた。


―モディアス王国・遥か上空の宙域―


黄金の光が、静かに広がっていく。


エルゼイレの胸部から、赤黒い瘴気が噴き出す。


ザァァァァァ……。


そして、


消滅した。


巨大なエルゼイレの身体が、ゆっくりと崩れていく。


カイザー

『匠! エルゼイレの構造が崩壊している!』


ガラ……。


ガラガラ……。


装甲が剥がれ落ちる。


体内の結晶が次々と消滅していく。


その中心から――


ディアヴロ本体が姿を現した。


そして、


ゆっくりと地上へ落下していく。


匠

「…………」


カイザー

『匠……』


「帰ろう」


匠

「ああ……」


…終わった。


誰もが、そう思った。


―モディアス王国・戦闘区域―


ジュィーーーーンッ!!


ライジング・ビットの円陣。


その中心に揺らめく空間から、メテオールが姿を現した。


カイザー

『無事、帰還した』


匠

「……終わったぁ……」


長い息を吐く。


そこへ通信が入る。


ココル

「ご苦労じゃったのう、匠!」


「これで……あとはディアヴロから聖杯を回収すれば……」


イリア

「終わり……なの?」


ココル

「うむ!」


匠

「じゃあ、最後の仕事だな」


匠が空を見上げる。


ディアヴロが、ゆっくりと落下してくる。


ドォォォォン……。


地面が揺れる。


匠

「よし……回収しに行くか」


一歩。


メテオールが歩き出した。


その瞬間、


バシューンッ!!


匠

「……!?」


ドォォォォン!!


メテオールの右腕が、


宙を舞った。


ビーッ!


ビーッ!


ビーッ!


コックピット内に警報が鳴り響く。


匠

「な……に……!?」


ココル

「な、何じゃとォォォッ!?」


イリア

「何が起こったの?」


ルイス

「そんな……!」


地面に横たわっていたディアヴロの身体が、


ボコ……


ボコボコ……


異様に蠢き始めた。


匠

「……何だ、あれ……」


ディアヴロの肉体が、まるで生き物のように膨張していく。


骨格が変形する。


筋肉が膨れ上がる。


そして、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


巨大な翼が開いた。


大地が震える。


雲が吹き飛ぶ。


その姿は…、


龍。


巨大な黒き龍だった。


ルイス

「……う、嘘だろ……」


ココル

「ディアヴロが……」


イリア

「龍に……なった……?」


黒龍が、ゆっくりと頭を持ち上げる。


そして…


カッ!!


その両眼が開いた。


赤い瞳。


そこには、ジャクラムの意思はない。


ただ、純粋な殺意だけが宿っている。


匠

「…………」


カイザー

『匠……』


匠

「ああ」


メテオールは、右腕を失ったまま双眸を輝かせる。


匠

「まだ……終わってないな」


その瞬間、


黒龍の口が、大きく開いた。


ゴォォォォォォォォッ!!


膨大なエネルギーが、その喉奥に集束していく。


黒龍が咆哮する。


グォォォォォォォォォォン!!


大気が震える。


メテオールの左腕が、ゆっくりと構えられる。


黄金の光が、再び集束する。


その眼前に立ちはだかる、


巨大な黒龍。


ジャクラムとの戦いは終わった。


だが、


その戦いによって、世界のさらに深い場所に眠っていた“何か”が目を覚ました。

挿絵(By みてみん)

――つづく。

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