第87話 中和される憎悪 ―黄金の双剣、エルゼイレの構造を暴く―
第87話 中和される憎悪
―黄金の双剣、エルゼイレの構造を暴く―
―モディアス王国・バトル・スクエア内-
雷雲が渦巻いていた。
轟く雷鳴。
降り注ぐ稲光。
巨大な結界に閉ざされた戦場では、蒼と赤黒、二つの異なる光が幾度となく激突していた。
ドォォォォンッ!!
メテオール・リンクスが地面を蹴る。
対するエルゼイレ・ジャネスは六枚の翼を広げ、赤黒い瘴気を噴き上げた。
その姿は一体。
…いや、
二体。
本体と、エンプレスから吸収した能力によって生み出された分身体。
二体のエルゼイレが、左右からメテオールを挟み込む。
ジャクラム
「逃げ場はないぞ、創造主ッ!!」
ギュォォォォンッ!!
大鎌が振り下ろされる。
同時に、もう一体のエルゼイレも大鎌を横薙ぎに振り抜いた。
しかし…、
シュンッ!!
メテオールの姿が消えた。
ジャクラム
「また……消えたッ!?」
次の瞬間、
メテオールは、八方向に展開していたライジング・ビットの二基へ接近していた。
カイザー
『匠、エルゼイレ各部の“光点”――特定完了』
匠
「よし……まずは…!」
メテオールが背部の推進機構を展開する。
ギュィィィィンッ!!
蒼い粒子が爆発的に噴き出した。
そして、
二本のミラージュ・エッジを、鞘状に展開されたライジング・ビットへ納める。
カチン、カチン…。
カイザー
『ニュートライズム――充填開始』
ジュィィィィィンッ!!
ビット内部で、二本の剣へ特殊なエネルギーが流れ込んでいく。
匠
「……よし!」
シュゥィンッ!!
メテオールが双剣を引き抜いた。
その刀身を包んでいたのは、これまでの蒼い光ではない。
黄金の光。
まるで闇を打ち消す太陽のような、眩い光だった。
ジャクラム
「……なんだ、その光は?」
匠
「お前の“憎悪”を……中和するための力だ」
ジャクラム
「戯言をッ!!」
二体のエルゼイレが同時に飛び掛かる。
ギュォォォォンッ!!
大鎌が振り上げられた。
だが…、
メテオールは、そこにはいない。
ゆらり…
蒼い残像だけを残し、機体が消える。
次の瞬間、
カイザー
『ポイント照射!!』
八基のライジング・ビットから、一斉に蒼い光線が放たれた。
ピシュンッ!!
ピシュンッ!!
エルゼイレの各部に、小さな光点が浮かび上がる。
匠
「そこだぁぁぁッ!!」
ドシュッ!!…ドシュッ!!
メテオールの双剣が、本体の両肩へ突き刺さった。
ジャクラム
「ぐぉぉぉぉッ!!」
黄金の光が傷口から侵入する。
だが…、
ジャクラム
「ふっ……この程度ッ!!」
傷口が蠢く。
赤黒い肉体が再生しようとする。
しかし…
ピタッ。
止まった。
ジャクラム
「…………なに?」
ルイス
「……再生しない?」
医務室。
治療を受けながらモニターを見ていたルイスが、思わず身を乗り出した。
ルイス
「そんな……!」
ジャクラム
「どういうことだッ!?」
そして次の瞬間。
ズズズズ……
もう一体のエルゼイレが、砂のように崩れ始めた。
ジャクラム
「な……ッ!?」
サラサラサラ……
分身体は、そのまま跡形もなく消滅した。
ルイス
「分身体まで……!」
ジャクラム
「何をしたぁぁぁッ!!」
匠
「……」
匠は答えない。
そのまま八基のライジング・ビットのもとへ戻る。
そして…、
カチン、カチン…。
再び二本の双剣をビットへ納めた。
ジュィィィィンッ!!
ジャクラム
「させるかぁぁぁッ!!」
エルゼイレが六枚の翼を大きく広げる。
バサァァァァッ!!
無数の羽が放たれた。
シュシュシュシュシュシュッ!!
無数の羽は空中で軌道を変え、メテオール全身を包み込むように包囲する。
ルイス
「……縛雷陣かッ!!」
羽と羽が赤黒い雷光によって結ばれていく。
バチィィィィッ!!
巨大な繭のような拘束陣が形成された。
ジャクラム
「今度こそ逃げられまいッ!!」
「その生命……すべて我が喰らってやるッ!!」
ギギギギギ……。
縛雷陣が締め上げる。
ジャクラム
「さぞ……創造主の“味”は格別であろうなぁぁッ!!」
しかし…、
ドシュッ!!
ドシュッ!!
ジャクラム
「……なッ!?」
エルゼイレの腹部から、二本の黄金の光が突き出ていた。
「な……ぜ……!?」
メテオールを覆っていたはずの羽が、力を失って落下していく。
パラ……
パラパラ……
地面へ落ちた羽は、ただの物体と化していた。
ジャクラム
「……スキルキャンセルか?」
匠
「違う」
ジャクラム
「何ッ!?」
匠
「中和したのさ…」
メテオールが双剣を構える。
匠
「俺の光で、憎悪の結晶を…な」
ジャクラム
「……憎悪の結晶……だと?」
匠
「ああ」
…沈黙
雷鳴が戦場を震わせる。
匠
「ようやく分かった」
「お前の機体…エルゼイレの構造がな」
カイザー
『解析データを投影』
メテオールのD.L.S.モニターに、エルゼイレの立体構造が
映し出される。
中心部。
そこには…、
ジャクラムの真上で輝いている“聖杯”
そして、“聖杯”を中心として、エルゼイレの各部に、いくつもの結晶が浮かんでいた。
匠
「エルゼイレは、『ディアヴロ』を母体にしている」
「そこへ『ヴァジェラ』の吸収能力」
「『ゲネル』の再生能力」
「『マデュエリ』の縛雷陣」
「そして『エンプレス』から奪った分身能力」
「それぞれを吸収して作り上げた……複合機体だ」
ジャクラム
「…………」
匠
「でも、完全に融合したわけじゃない」
「吸収された機体と能力は、聖杯を中心に“結晶化”している」
ジャクラムの顔が僅かに歪む。
匠
「だから、お前の機体には“核”が一つじゃない」
「能力ごとに、それを担っている結晶が存在する」
カイザー
『解析結果と一致』
匠
「そして……それだけの力を一つの機体に詰め込めば、当然、操縦者にも負担が掛かる」
匠
「若返ったとはいえ、肉体そのものが負荷から完全に解放されたわけじゃない」
「だから、お前は聖杯を通して、自分の“憎悪”を各結晶へ流し込んで“制御”している」
「それをエネルギーとして、エルゼイレを動かしているんだ」
ジャクラム
「ならば何だッ!!」
「我の憎悪こそが、この力の源だッ!!」
匠
「……だったら、攻略方法も見える」
ジャクラム
「何……?」
匠
「お前の能力は無限じゃない」
メテオールが双剣を交差させる。
匠
「三つ以上の能力を、同時に完全運用できない」
ジャクラム
「……!」
匠
「二つ同時に使った場合も、出力は分散する」
「エルゼイレが二体になった時、再生能力の発動が不安定だった」
ルイス
「だから……能力を切り替えるたびに隙が生まれていたのか……!」
匠「その隙を利用して、二つ同時に“中和”した。」
ジャクラム「その為の“双剣”…。」
匠
「そういうことだ」
メテオールの双剣が輝く。
匠
「吸収能力――『ヴァジェラ』」
「再生能力――『ゲネル』」
「束縛能力――『マデュエリ』」
「分身能力――『エンプレス』」
「この四つの能力は、封印した。」
ジャクラム
「……ふざけるな……」
匠
「そして…」
匠の目が鋭くなる。
「残っているのは……」
ピッピッ!
匠「…?」
カイザー
『匠、警告』
モニター上のエルゼイレ。
無数に存在していた光点の一つが、異常な反応を示していた。
カイザー
『解析率――95%』
『未解析領域を確認』
匠
「……」
匠は、その光点を見つめる。
「母体である『ディアヴロ』の能力なのか……」
「それとも…」
一瞬、
匠の脳裏に、あの聖杯が浮かんだ。
「……聖杯そのものなのか」
ジャクラム
「…………」
そして、ジャクラムが笑った。
低く…
不気味に…
ジャクラム
「ふ……ふふ……」
「四つの能力を封じた程度で……勝ったつもりか?」
エルゼイレの背後。
巨大な翼がゆっくりと開いていく。
ジャクラム
「我にはまだ――」
「“因果改竄”があるッ!!」
ゴォォォォォォォン!!
世界そのものが震えたような感覚。
ルイス
「……因果改竄……!」
匠は、笑った。
ジャクラム
「何がおかしいッ!!」
匠
「いや……」
メテオールの双眸が蒼く輝く。
匠
「その対策も…」
双剣を構える。
「もう攻略済みだ!!」
ジャクラムの表情が凍る。
匠
「さあ……ジャクラム」
「お前の“想い”を――」
「全部、吐き出してみろッ!!」
ジャクラム
「若蔵がぁぁぁぁぁッ!!」
雷鳴が轟く。
赤黒い瘴気が天を覆い。
黄金と蒼の光が、それを正面から照らし返す。
そして…、
エルゼイレの奥深く。
聖杯を中心に浮かぶ最後の結晶が…。
カッ――!!
初めて、その光を放った。
カイザー
『……未解析領域、反応増大』
匠
「……!」
メテオールが双剣を握り直す。
ジャクラム
「これが……我の最後の“想い”だッ!!」
バトル・スクエアの空間そのものが、歪み始めた。
―つづく―




