第85話 解析者の眼 ―蒼き相棒が暴く、神魔の構造―
第85話 解析者の眼
―蒼き相棒が暴く、神魔の構造―
―モディアス王国・バトルスクエア内-
赤黒い瘴気が渦巻く戦場で、二体のエルゼイレ・ジャネスが同時に動いた。
「“弱点”をひとつずつ暴くだと……?」
ジャクラムの声には、嘲笑と僅かな苛立ちが混じっていた。
対する匠は、メテオール・リンクスのコックピットの中で静かに息を吐く。
「……ああ」
蒼い双眸が、二体のエルゼイレを捉える。
「お前は強い」
「…………」
「だけど、“強い”ことと、“無敵”であることは違う」
匠は両手を強く握った。
「なら、俺はお前の弱点を一つずつ見つけて、全部潰す」
「くくく……」
ジャクラムが笑う。
「面白い……実に面白いぞ、創造主!」
六枚の翼が大きく開く。
「ならば、見抜いてみろォッ!!」
ゴォォォォォッ!!
二体のエルゼイレから、赤黒い瘴気が爆発的に噴き出した。
左右から挟み込むように、二体が同時に突進する。
「カイザー!」
『了解』
D.L.S.内部に、二体のエルゼイレの姿が瞬時に拡大表示された。
右。
左。
翼の角度。
大鎌の軌道。
瘴気の濃度。
すべてが数値化されていく。
『匠。本体は右側だ』
「了解!」
メテオール・リンクスが右へ身体を捻る。
「左は……任せる!」
『承知した』
その瞬間…、
八機の《ライジング・ビット》が一斉に展開した。
シュシュシュンッ!!
蒼い光が戦場を駆け抜ける。
メテオールは本体へ…、
ライジング・ビットは分身体へ…。
「行くぞォッ!!」
ギィィィン!!
蒼い双剣と赤黒い大鎌が激突した。
同時に、空中では八機のビットと分身体が激突する。
まるで二つの戦場が同時に生まれたかのようだった。
―アーク・エクリプス ブリッジ内-
巨大戦艦のブリッジでは、イリアが操舵を握ったまま戦況を見つめていた。
「解析しながら……戦ってるってこと?」
モニターには、無数のデータが流れている。
ココルは腕を組みながら頷いた。
「うむ…」
「しかし……本当にそんなことができるの?」
「匠だからこそ、じゃ」
ココルの視線が戦場へ向く。
「匠には、設計図を見ずともネンドールを寸分違わず組み上げる技術がある」
「…………」
「じゃが、それだけではない」
ココルは続ける。
「奴は、組み上げる際に、その構造そのものを理解しておる。どこに負荷が集中し、どこを改良すれば性能を最大限に引き出せるのか……無意識のうちに把握してしまう」
イリアは驚いたように目を見開いた。
「つまり……」
「逆もできるって事?」
ココルはモニターに映るエルゼイレを指差した。
「創られたものを見れば、頭の中で分解できる」
構造。
機構。
エネルギーの流れ。
攻撃の癖。
弱点。
「そして今のカイザーは、その能力を匠の戦闘補助へと昇華させておる」
「……創造主の“眼”を、カイザーが代わりに持ってる?」
「いや…」
ココルは首を横に振った。
「“眼”だけではない」
僅かに笑う。
「匠とカイザーは、互いの思考を補完する唯一無二の“相棒”なのじゃ」
「……相棒」
イリアは、その言葉を呟いた。
そして胸元へ手を伸ばす。
そこには、淡く蒼く光るジゼルのペンダント。
「……ユグちゃん」
小さな声で呼び掛ける。
『ダイジョウブダヨ……』
イリアは微笑んだ。
「……うん」
そして再び戦場を見る。
「創造主……絶対に勝って」
―バトル・スクエア-
「ぐっ……!」
メテオールが大鎌を弾き返す。
しかし、すぐさま反対側からもう一体が襲い掛かった。
『匠!』
『右後方!』
「分かってる!」
ガギィンッ!!
メテオールは振り向きざまに双剣を滑らせ、大鎌を受け流す。
その瞬間…、
ピピッ…
ライジング・ビットが蒼く点滅した。
『第一解析結果』
カイザーの声が響く。
『二体のエルゼイレは、完全な独立個体ではない』
匠の瞳が鋭くなる。
「……やっぱりな」
『分身体への攻撃に対して、本体側のエネルギー反応が微弱に変動している』
「つまり、二体は完全に別々じゃない」
『肯定』
匠は笑った。
「フッ…それじゃぁ、もっと揺さぶってやる!」
メテオールが急加速する。
「来いッ!!」
エルゼイレが二体同時に追う。
しかし…、
「遅い!」
シュンッ!!
メテオールが消えた!!
ジャクラムの瞳が見開かれる。
「何ッ!?」
次の瞬間…、
メテオールはエルゼイレの死角へ回り込み、双剣を振り抜いた。
バシュッバシュンッ!!
肩を掠める。
「……!」
だが、傷口は瞬時に再生した。
ジャクラムが笑う。
「無駄だッ!」
「…………」
匠は攻撃を止めた。
「再生速度……異常だな」
『解析中』
「なら……」
匠は再びエルゼイレへ物凄いスピードで斬り掛かる。
一撃。
二撃。
三撃。
しかし、あえて致命傷を狙わない。
肩。
腕。
翼。
脚。
装甲。
同じ箇所を微妙に変えながら攻撃する。
「何がしたいッ!?」
ジャクラムが吠える。
「貴様ぁ、我を弄んでいるのかッ!!」
「違う…」
匠は冷静に答えた。
「調べてるんだ」
「……何?」
「その機体が、どこまで再生できるのか」
ジャクラムの表情が変わった。
「…………」
匠は続ける。
「傷が塞がる速度は一定じゃない」
「…………!」
「攻撃を受けた場所によって、再生に僅かな差がある」
カイザーが即座に反応する。
『解析を更新』
D.L.S.の画面に、エルゼイレの内部構造が立体表示される。
赤黒いエネルギーが全身を巡っている。
だが…、
一点だけ。
胸部深くに、異常なエネルギー集中が存在していた。
「そこか……」
匠の声が低くなる。
ジャクラムが笑う。
「何かを見つけた“つもり”か…?」
匠は答えない。
その代わり、ライジング・ビットが一斉に動いた。
シュンッ!! シュシュンッ!!
八機が四方八方へ散開する。
「カイザー!」
『解析を継続する』
「頼む!」
「……!」
ジャクラムが翼を大きく羽ばたかせた。
無数の赤黒い羽が飛び交う。
しかしライジング・ビットは、それぞれが独立した意思を持つように羽を回避していく。
そして…、
八方向から同時にエルゼイレへ照準を合わせた。
「……何なんだ?」
ジャクラムの笑みが消える。
「その小型機…は、…」
匠は静かに呟いた。
「お前の動きは、もう覚えた」
『解析率――六十七パーセント』
「まだだ」
匠は双剣を構える。
「もっとだ」
エルゼイレの翼が動く。
「もっと速く」
大鎌が振り上がる。
「もっと深く…、」
メテオールの蒼い光が、一段階強くなる。
「お前を理解する」
その瞬間。
『匠…』
カイザーの声色が変わった。
「……どうした?」
『重要な解析結果を検出』
D.L.S.に、新たな情報が表示される。
二体のエルゼイレ。
その内部構造。
匠の表情から笑みが消えた。
「……そういうことか」
『肯定』
「ジャクラム……」
メテオールが双剣を下段に交差して構える。
「お前の“再生”も」
蒼い粒子が全身を駆け巡る。
「二体の“存在”も」
ライジング・ビットが一斉に旋回を始める。
「そして…、」
匠の瞳が鋭く光った。
「お前の“因果改竄”さえも」
ジャクラムの顔から、初めて明確な動揺が浮かんだ。
「……貴様ぁ」
匠は言い放つ。
「もう、俺には通用しない」
『解析率――八十パーセント』
「…………」
『さらに上昇中』
ジャクラムが大鎌を握り直す。
「ならば……」
赤黒い瘴気が爆発する。
「解析する暇など与えなければよいッ!!」
二体のエルゼイレが同時に咆哮する。
「行くぞ、カイザー!」
『了解!!』
「ここからが…、」
メテオールの背部推進機構が最大出力へ移行。
ヴォォォォォォン!!
「俺たちの反撃だッ!!」
シュンッ!!
蒼い流星が、戦場から消えた。
そして次の瞬間…。
二体のエルゼイレの間を、無数の蒼い閃光が駆け抜ける。
ジャクラムが振り返る。
「……速いッ!!」
ライジング・ビットが、八方向から一斉に包囲する。
その中心で、メテオール・リンクスが蒼い双剣を構えた。
「ジャクラム…」
「…………」
「お前の機体が、どれだけ強いのかは分かってる」
「…………」
「だからこそ…、」
「俺は、その強さを真正面から超える!!」
蒼き流星が再び加速した。
赤黒き神魔を打ち破るための、本当の戦いが始まった。
―つづく-




