第83話 蒼き流星の戦い ―創造主の真価とそれぞれの願い―
第83話 蒼き流星の戦い
―創造主の真価とそれぞれの願い―
―アーク・エクリプス ブリッジ内-
巨大戦艦のブリッジ。
幾つものモニターに映し出されているのは、巨大なバトル・スクエア。
その中心で激突する二つの機体。
蒼き流星
そして、
赤黒き神魔
イリアは、操舵を握ったまま
、固唾を呑んで戦況を見つめていた。
後ろでは…、
ココルとジャワティもまた、モニターへ目を向けていた。
ココルが静かに口を開く。
「イリア王女よ……アイザック王子のところへは、行かなくてよいのか?」
「……大丈夫」
イリアは短く答えた。
「今、この戦艦を制御できるのは私しかいないし…」
そして、
モニターに映る蒼い光を見つめる。
「それに……」
一瞬だけ、声が震えた。
「お兄ぃの分まで、私はこの戦いを見届けなくちゃいけないと思う」
「……」
「それに、お兄ぃには……あの人が付いてるから」
イリアの視線が、別のモニターへ移る。
そこには医療班に運ばれていくアイザックと心配そうに隣に立つアンジュの姿が映っていた。
「アンジュ……」
小さく呟く。
その脳裏に、ここへ至るまでの出来事が蘇った。
-回想-
―聖樹の祠・地下巨大施設-
アーク・エクリプスへの民間人、
そして兵士たちの収容が進められていた頃。
匠とココルの前へ、イリアが駆け込んできた。
「こちら側の兵士たちも、収容完了したわ!」
「おお、そうか!」
ココルが頷く。
しかし、すぐに難しい顔をした。
「ところで匠よ……」
「ん?」
「この大型戦艦じゃが、誰が操縦するんじや?」
「……」
「これほど巨大な艦を制御できる念導力の持ち主など、そうそうおらん。それに、動力となるマナストーンも……」
その時だった…
匠の胸元、
ジゼルのペンダントが、淡い蒼色に輝き始めた。
「……⁉️」
そして…
『タクミ』
頭の中へ、幼い声が響いた。
『コノオネエチャンナラ、ウゴカセルヨ!』
匠の瞳が見開かれる。
「ユグ……?」
匠は、イリアを見た。
「……?」
イリアは、不思議そうに辺りを見回していた。
「王女、どうしたのじゃ?」
「……今、子供みたいな声が聞こえた気がして…」
匠は確信した。
そして、イリアへ向き直る。
「ねえ!イリア」
「なに…?」
「この戦艦の操縦を……君に頼めないかな?」
「……え?」
「君の念導力なら、動かせる気がする…」
ココルも頷いた。
「おぉ!確かに、王女の念導力なら可能性はある。じゃが、マナストーンがのぉ…」
「それなら……」
匠は胸元からペンダントを外した。
そして、
「これを使って…」
「えっ……?」
匠は、ジゼルのペンダントをイリアの首へ掛けた。
その瞬間、
パァァァァァッ!!
イリアの全身を、蒼白い光が包み込んだ。
「きゃっ……な、何これ!?」
脳裏へ、再び声が響く。
『ハジメマシテ、イリアオネエチャン』
『ボクハ、ユグ』
『オネエチャンノ“ネイロ”ナラ、ダイジョウブダヨ』
『ボクカラモ、オネガイ……』
「……」
イリアは、胸元の蒼いマナストーンへ手を添えた。
「……分かったわ」
その声には、迷いがなかった。
「私が……動かしてみせる!」
―現在-
イリアは、ペンダントへそっと手を添えた。
「……ユグちゃん」
『ダイジョウブダヨ』
「……ええ」
イリアは、前を向く。
「私も……信じてる」
―アーク・エクリプス・整備ドック-
「医療班! 早く!!」
アンジュの叫び声が響き渡った。
球体ポッドから飛び出したアンジュは、よろめきながらエンプレスへ駆け寄る。
そのコックピット…
アイザックは、吐血したまま意識を失っていた。
「アイザック……❗」
「はぁ……はぁ……アイザックさん……」
ルイスもポッドから這い出る。
医療班がアイザックを慎重に運び出していく。
「早く治療を!」
「「了解!」」
アンジュは、その背中を見送った。
そして、
「……っ」
張り詰めていた糸が切れた。
身体から力が抜ける。
「アンジュさん!」
ルイスが慌てて支える。
「大丈夫……」
アンジュは、苦しそうに笑った。
「あとで……アイツを迎えに行かなきゃ……」
その瞳は、戦場を映すモニターへ向けられていた。
―モディアス王国・バトル・スクエア-
「……!」
蒼い閃光が、夜空を切り裂く。
ヒュンッ!!
メテオール・リンクスが、まるで流星のように飛翔する。
対するエルゼイレ、
六枚の翼から、無数の羽が放たれた。
シュシュシュシュシュッ!!
「どうした、創造主よ!」
ジャクラムの嘲笑が響く。
「逃げてばかりでは、せっかくの新型が泣いておるぞ!」
「…………」
匠は答えない。
メテオールは、羽の雨を魔法障壁で受け流しながら、縦横無尽に戦場を駆け抜ける。
右
左
上
そして…、急停止
キィィィィン……!!
メテオールが突然、動きを止めた。
ジャクラムが口元を歪める。
「……そうか」
エルゼイレが大鎌を構えた。
「そこが行き止まりか!」
ギュォォォォォッ!!
大鎌が振り下ろされる。
「終わりだッ!!」
…しかし
その刹那
ヒュォォォォッ!!
メテオールの脚部が蒼く輝いた。
「……!」
…ドンッ!!
機体が、壁面すれすれを掠める。
一瞬で上昇
ビューンッ!!
ジャクラムの大鎌が空を切った。
「何ッ!?」
メテオールは、バトル・スクエアの壁を、垂直に駆け上がっていく。
「壁に沿って…スレスレに…」
ジャクラムが見上げる。
だが、
いない。
「……消えた?」
その直後、
ヒュンッ!!
ヒュヒュヒュヒュッ!!
エルゼイレの背後へ、蒼い光点が殺到した。
「……!」
無数の小型兵装。
雷光追尾機
ジャクラムが大鎌を振り抜く。
ギュォーンッ!!
だが、ビットは一斉に散開。
一機、
二機…
いや、
八機。
それぞれが異なる軌道を描きながら、大鎌の一閃を紙一重で回避する。
「……ほう」
ジャクラムの瞳が細くなる。
「自動追尾……いや」
ビットが旋回。
「個々に判断しているのか……?」
匠の声が響く。
「正解だよ」
ジャクラムが振り向く。
「……!」
そこには、
蒼い剣を構えたメテオール・リンクス。
「俺が作ったのは、ただ速いだけのネンドールじゃない」
ビットが一斉に軌道を変える。
四方八方、逃げ道を塞ぐ。
ジャクラムの動きを完全に限定していく。
「ほう……」
ジャクラムは笑った。
「素晴らしい“玩具”だ……」
ガギィィィィーンッ!!
蒼い剣と赤黒い大鎌が激突した。
凄まじい衝撃波が、バトル・スクエア全域を震わせる。
「まだまだ……!」
匠がコックピット内で蒼く輝く光の剣を握りしめている。
「こんなもんじゃないぞ、ジャクラム!!」
メテオールの装甲が、さらに蒼く輝いた。
「……何?」
ジャクラムの笑みが、僅かに消える。
メテオール・リンクスの背部。
そこに搭載された幾つもの推進機構が、次々と展開してい
く。
ギュォォォォォォーン……!!
蒼い粒子が噴き出す。
匠は、静かに息を吐いた。
「ここからが…」
D.L.S.を通して、メテオールと匠の意識が完全に重なる。
「メテオール・リンクスの……本当の戦い方だ!!」
ドォォォォォォォン!!
蒼い流星が、再び夜空を駆けた。
ジャクラムの瞳に、その軌跡だけが映る。
「……ッ!!」
赤黒き神魔と蒼き流星。
二つの存在が、再び真正面から激突する。
その戦いを、
アーク・エクリプスのブリッジから、イリアは見つめていた。
「……創造主」
そして、
医療室では、アンジュが祈るように胸元を握り締める。
「……死んだら、許さないからね……」
その隣では、眠り続けるアイザックがいた。
誰も知らない…。
この戦いが、ただの一騎打ちではないことを…。
ジャクラムは知らない…。
メテオール・リンクスに秘められた本当の力が…、
“因果改竄”すら覆す可能性を秘めていることを…。
そして…、
自分が相対している男が、
単なる“創造主”ではないことを…。
「さあ……」
匠が呟く。
「第二ラウンドだ」
蒼き流星が、夜空を裂いた。
―つづく―




