↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
81/100

第81話 紫苑幻舞 ―魔女の戯れと蒼き流星―

第81話 紫苑幻舞

―魔女の戯れと蒼き流星―


―モディアス王国・戦闘区域-


赤黒い瘴気が、夜空を覆っていた。


雷鳴が轟く。


崩壊した大地の上で、二つの異質な力が向かい合っている。


一方は、


六枚の光翼を広げた神魔。


《エルゼイレ・ジャネス》


その手には巨大な大鎌。


全身からは、赤黒い瘴気が噴き上がっている。


そして、もう一方、


《シルヴィ・アンジュ》


その双剣から伸びた紫色のオーラを、二本の鞭へと変化させている。


その操縦席にいるのは、


アンジュ・ラストウォール。


……ではない。


紫色の瞳。


薄紫へ変貌した髪。


そして、妖艶な笑み。


その姿から漂う気配は、アンジュとはまるで別人だった。


バシィィィンッ!!


バシィィィンッ!!


二本の紫の鞭が地面を叩く。


そのたびに大地が砕け、紫色の火花が舞い上がる。


『さぁ……♡』


妖艶な女が、エルゼイレを見つめる。


『どう甚振ってやろうかしら……♡』


ジャクラムの眉が僅かに動いた。


「……姿は違えど。」


「貴様とこうして相対するのは、初めて…か?」


『そうねぇ……♡』


女は、口元を吊り上げる。


『貴方なんか、私の手にかかれば一瞬で終わるのだけれど……。』


紫の瞳が細くなる。


『貴方の謀略に、もっと早く気付いていれば……』


『私達も“封印”なんかされずに済んだのにねぇ♡』


『宇宙を彷徨っていた貴方を助けてあげた恩を仇で返すなんて♡』


「ふんっ。」


ジャクラムは鼻で笑った。


「それはお互い様であろう。」


「我を助けたのも、結局は“聖杯”が目的。」


「そして聖杯を手に入れたならば、貴様は我を消すつもりだったのであろう?」


『あら♡』


女が楽しそうに笑う。


『ヤられる前にヤったってことねぇ……♡』


『でも、好きよ♡』


『そういう野心に満ちた考え方。』


「貴様に褒められても、何ら嬉しくは…、」


「ないわッ!!」


ドォォォン!!


エルゼイレが一気に踏み込んだ。


大鎌が、横薙ぎに振り抜かれる。


シュバァッ!!


『ふふっ♡』


シルヴィの姿が消えた。

いや、


速すぎる。


残像だけを残して、大鎌の刃を紙一重で回避していた。


「……っ!!」


ジャクラムが振り返る。


その背後、


すでにシルヴィがいる。


『遅いわよ♡』


シュルルルルッ!!!


双剣から伸びた二本の紫の鞭が、エルゼイレの両腕へ絡みついた。


「なっ……!?」


ギィィィィィッ!!


鞭が一気に締め上げる。


さらに、


ドガッ!!


シルヴィが片足でエルゼイレの背中を踏みつけた。


「ぐっ……!!」


エルゼイレの上体が大きく仰け反る。


ギッ……。


ギギギッ……。


鞭が、さらに食い込んでいく。


『どう?』


『“締め付けられて”、身動きが取れない気分は……♡』


「ぐぅぅぅ……!!」


『ほぉら……♡』


『このままだと…、』


ギギギギギッ!!


『両腕が、もげるわよ♡』


「……ふっ。」


ジャクラムが笑った。


『……あら?』


「舐めるなァッ!!」


バシュゥゥゥン!!


六枚の光翼が、一斉に展開する。


「……っ!!」

翼が眩い光を放った。


『これは……!!』


シュババババババババッ!!


六枚の翼から無数の光の羽が放たれた。


『チッ!!』


シルヴィはエルゼイレの背中を蹴り上げる。

宙へ舞う。


シュシュシュシュッ!!


無数の羽が、先程までシルヴィのいた空間を貫いていく。


だが、


『逃がさないわよ♡』


空中で身体を反転させる。


片方の鞭が、螺旋を描いた。


シュルルルルルゥッ!!!


紫の鞭がエルゼイレの身体へ巻き付く。


ギュゥゥゥゥッ!!


『これじゃぁ、』


『翼も広げられないわね♡』


「くくく……。」


『……何?』


「貴様…何かを忘れておるぞ。」


『……?』


その瞬間。


シルヴィの表情が凍った。


背後、


高速回転しながら迫る巨大な刃。


『……っ!?』


ジャクラムが投げ放った大鎌。


「終わりだ…!」


ズバァァァァァァァァッ!!


「………っ!!」


紫の身体が縦一文字に裂けた。


「アンジュさぁぁぁぁぁぁんッ!!」


遠くで見ていたルイスが絶叫する。


ドサッ……。


二つに裂かれたシルヴィの身体が、大地へ落ちた。


「そ……そんな……」


ルイスの顔から血の気が引いていく。


「アンジュさん……」


「アンジュさぁん……!!」


拳が震える。


「くそぉぉぉ……!!」


操縦桿を強く握り締める。


自分は何も出来なかった。


守ると誓った。


それなのに…、


「僕は……また……」


ジャクラムが冷たく笑う。


「ふっ……」


「思いの外、呆気なかったな。」


「…⁉️」


ジャクラムの笑みが止まった。


背後。


殺気。


「……何ッ!?」


振り返る。


ドシュッ!!…ドシュッ!!


「ぐおっ⁉️」


紫色の鞭が、エルゼイレの両肩を貫いた。


「え……?」


ルイスが目を見開く。


「な……何が……?」


その時、


妖艶な声が響いた。


『残念でしたぁ♡』


『貴方が真っ二つにしたのは――』


『あれよ♡』


女が顎をしゃくる。


その先、


そこに転がっていたのは、


二つに裂けたデクノイドだった。


「……な……!!」


ジャクラムの目が見開かれる。


「“幻影”……か?」


『そう♡』


『しかも……広範囲のね♡』


「…………。」


『貴方の“因果改竄”。』


『目の前の相手には通用しても…、』


『周囲の出来事まで自由に書き換えられるわけじゃない。』


『それに……聖杯の力を使った直後には、必ず隙が生まれる♡』


ジャクラムの表情が険しくなる。


『そして…、相当な精力も吸い取られる。』


『違う?』


「…………。」


『貴方が何故、“書き換えの力”に拘るのかなんて、私にはどうでもいいわ。』


『でも…、』


紫の鞭が、ゆっくりとジャクラムへ絡み付いていく。


『その力にも…、限界がある。』


「くっ……。」


その時だった。


ヴーン……。


ヴヴヴヴヴ……。


シルヴィを包んでいた紫のオーラが揺らぎ始める。


『……あら。』


女が空を見上げる。


『もう時間のようねぇ……』


紫のオーラが、急速に薄れていく。


『…残念♡』


そして、


『その“聖杯”は…、』


『“禁断の果実”へ繋ぐ鍵。』


『いずれ、私達が戴くわ♡』


ジャクラムの顔が歪む。


「貴様……!!」


『じゃあね♡』


妖艶な声が、最後に囁いた。

『またね…アンジュ♡』


『約束は守るのよ♡』


「…………。」


その瞬間、

紫色のオーラが、消えた。


「……はっ!!」

挿絵(By みてみん)

アンジュが目を見開く。


「はぁ……っ!!」


「はぁ……はぁ……!!」


元の髪。


元の瞳。


元の顔。


「わ……私……」


アンジュは、自分の手を見る。


「何を……?」


その身体から、完全に力が抜けた。


ドサッ……。


シルヴィが、エルゼイレの目の前で膝をつく。


「……っ。」


ジャクラムは大鎌を拾い上げる。


「……“呪印の子”よ。」


アンジュが顔を上げる。


「再び、あやつを呼び寄せぬように…、」


大鎌がゆっくりと持ち上がる。


「貴様を吸収することなく…、」


「葬ってやろう。」


「……っ。」


アンジュには、もう動く力が残っていない。


「はぁ……はぁ……。」


「アンジュさんッ!!」


ルイスが叫ぶ。


「やめろぉぉぉぉッ!!」


ジャクラムが大鎌を振り上げる。


「さらばだ…」


「冥府の底で待つ…、」


「…あやつの元へ逝くがいいッ!!」


「やめろぉぉぉぉぉッ!!」


大鎌が振り下ろされる。


その瞬間、


ヴォォォォォン……


「……?」


空間が震えた。


ヴォォォォォン……


ヴォォォォォン……


低い。


重い。


巨大な何かが発する機動音。


ジャクラムの大鎌が止まる。


「……何だ?」


ルイスが空を見上げる。


「…………。」


一面。

何かに覆われたように暗くなった。


「な……。」


アンジュも、力を振り絞って空を見る。


「……何なの……?」


そして、


暗闇の中


一点だけ蒼い光が輝いた。


「…………。」


その光は、徐々に大きくなる。


「まさか……!」


ルイスの瞳が揺れる。


「そうか…」


「やっと完成したんだ…、“切り札”が…。」


ジャクラムが上空を睨みつける。


「あれは……何だ……?」


蒼い光の正体が、ゆっくりと姿を現していく。


闇夜に輝く蒼い星のように


蒼く煌めく装甲。


そして、


胸部から放たれる、蒼白い光。


「…………」


その存在感だけで、空気が変わった。


「……匠?」


ルイスの声が震えた。


「良かった……。」


「生きていたんですね……。」


「匠……!」


アンジュも呟く。


そして、僅かに口元を緩めた。


「……本当に……」


「……匠なの……?」


「……バカ……!」


「遅すぎる……よ……。」


その声を、

新たに現れた機体の中で、匠は聞いていた。


「…………」


匠は操縦桿を握り締める。


目の前には、


傷付いたエンプレス。


膝をつくシルヴィ。


そして、

片腕のヴァルテリオン。


「…………っ!」


拳が震えた。


だが、


恐怖ではない。


怒りでもない。


それ以上に強い決意。


「皆さん……」


匠は静かに前を向く。


「遅くなって……本当にすみません。」


蒼い光が、さらに強く輝く。


「でも…、」


匠の瞳が、真っ直ぐにエルゼイレを捉える。


「もう大丈夫です。」


操縦桿を握り直す。


「…あとは、俺に任せて下さい!!」


その声が、戦場全体へ響き渡った。


アイザックは、朦朧とする意識の中で、

僅かに口角を上げた。


(……私は、信じていたよ。)


(匠君……。)


ジャクラムが、蒼い機体を睨みつける。


「……創造主……⁉️」


そして、


エルゼイレの黄金の聖杯が、不気味に輝いた。


「…生きておったのか…。」


匠は構える。


蒼い光が、夜空を照らす。


赤黒い瘴気と蒼い光。


二つの力が、真正面から対峙する。


「さあ…、」


匠は、静かに呟いた。


「ここからは…、」


「俺の戦いだ❗」

挿絵(By みてみん)

―つづく―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。