第78話 皇帝(カイザー)の継承 ―英雄たちの闘いと蒼き魂、目覚める―
第78話
皇帝の継承
―英雄たちの闘いと蒼き魂、目覚める―
―モディアス王国・上空-
赤黒い瘴気に覆われた空に、二柱の神魔が静かに浮かんでいた。
純白の装甲。
六枚の光翼。
黄金の聖杯を胸に宿した《エルゼイレ・ジャネス》。
二体は鏡写しのように寸分違わぬ姿で佇み、
その神々しい美しさは、美術館に飾られた名画のように見る者の心を一瞬で奪う。
しかし、その美しさの奥にあるのは慈愛ではない。
世界そのものを喰らい尽くす、底知れぬ悪意だった。
アンジュは思わず息を呑む。
「…なんて…綺麗なの…」
その言葉を口にした瞬間、自分でも背筋が凍る。
「ち、違う!…そうじゃないわ…」
しかし、敵も見惚れてしまう姿であった。
ルイスも拳を握り締めた。
「まるで神……」
「いや…神の姿をした悪魔……」
アイザックは荒い呼吸を整えながら、
二体のエルゼイレを見据える。
「……あれは《ヴァジェラ》の能力。」
「吸収した力を、自らのものとして再構築する能力か……。」
静かに分析を続ける。
「私の翠影を取り込み、新たな個体を生み出した。」
「ルイス君の《獅子大鎚剛打術》を奪った時と、理屈は同じだ。」
ルイスの表情が険しくなる。
「つまり……」
「戦えば戦うほど、敵は強くなる……」
アンジュが苦笑する。
「最悪の能力じゃない……」
二体のエルゼイレがゆっくりと鎌を掲げた。
ジャクラムの声が、二つ重なって響く。
「さあ……」
「どう出る…?」
「諦めて、この身の糧となるか?」
圧倒的な威圧感。
普通なら膝を折ってしまうような絶望。
それでもアイザックは笑った。
「はぁ…はぁ…ははは…。」
「それは遠慮しておくよ…」
息を切らしながらも口元は崩さない。
「私が安らかに眠る場所は……、」
「アンジュの麗しき豊満な胸と決めているのでね。」
一瞬、戦場が静まり返る。
ルイスは顔を真っ赤にした。
「なっ……!」
「ア、アイザックさん!」
アンジュは額へ手を当て、大きくため息を吐く。
「アンタねぇ……。」
「気力を使い果たしてるくせに、そんな冗談を言う余裕だけは残ってるのね。」
アイザックは肩で息をしながらも、いつものように笑顔でウインクをした。
「はは…は…心の余裕は、武人にとって最後の武器だよ。」
そのやり取りを見たジャクラムは、小さく笑う。
「死を前にしてなお笑うか…」
「ならば望み通り、その笑みごと刈り取ってくれよう…」
サラッ…
「……⁉️」
ジャクラムは、綻び始めた傷に触れた。
二体のエルゼイレが同時に右手を差し出す。
「さあ、来るが良い…」
「…これが最後の一戦だ。」
アンジュはアイザックへ振り向く。
「……どうすんのよ。」
アイザックは静かにルイスへ通信を開いた。
「ルイス君、」
「頼みがある。」
通信は秘匿回線へ切り替わる。
アイザックの口が静かに動く。
「…………。」
「…………。」
ルイスの瞳が大きく見開かれた。
「えっ…⁉️そ、それは危険過ぎます❗」
思わず声が漏れる。
アンジュも怪訝そうに二人を見る。
「何よ⁉️」
「二人だけで何を話してんのよ?」
アイザックは微笑んだ。
「その時が来たら分かる…」
「頼んだよ…」
ルイスは一瞬だけ迷い、やがて静かに頷く。
「……分かりました。」
「貴方を信じます。」
ジャクラムは三人を見下ろした。
「別れは済んだか…?」
「ならば“終幕”だ。」
アイザックは龍節棍を握る。
「待たせたね。」
「では…、」
エンプレス。
ヴァルガレオン。
シルヴィ。
三機が静かに構える。
二体のエルゼイレも大鎌を水平に構えた。
戦場を包む静寂。
その時、
ピシャァァァァァン!!
暗雲を裂く一筋の雷鳴。
まるで天そのものが開始の合図を告げたかのようだった。
「行くぞ!!」
アイザックの号令。
三機は一直線に加速する。
それに応えるように二体の神魔も動き出した。
翠。
蒼。
紅。
そして赤黒。
五筋の閃光が、再び天空で交差した。
―聖樹の祠・巨大地下施設 戦艦格納ドック―
一方その頃。
地下深く眠る超巨大格納ドックでは、慌ただしく最後の準備が進められていた。
ココルが額の汗を拭う。
「匠よ…」
「王都の民は全員収容し終えたぞい。」
その視線の先には、
蒼と白を基調としたパイロットスーツへ身を包んだ匠が立っていた。
ココルは思わず目を細める。
「おお……!」
「その姿を見るのは初出撃以来じゃな。」
匠は照れくさそうに笑う。
「あの時は超緊張してからね。」
「でも今回は違う…」
「終わらせるために行く…」
その瞳には迷いがなかった。
ココルはブリッジの方へ見上げる。
「…して、操舵は、本当にイリアに任せて良いのかの?」
「ああ、大丈夫…」
匠は迷わず答えた。
「彼女なら、この船の“音色”を聞ける気がする。」
―戦艦ブリッジ―
静寂に包まれた艦橋。
イリアは操舵を目の前に立ち、静かに目を閉じた。
その隣には眠り続けるジュリア。
胸元では、ジゼルのペンダントが淡く輝いている。
イリアはそっと手を重ねた。
「ジュリア…、」
「待っていて。」
「今度は私が、“みんなを”守る番だから…」
その言葉に呼応するように、ペンダントが一際強く輝きを放った。
―戦艦格納ドック―
匠は静かに目を閉じる。
目を見開き、徐に取り出した《カイザー》のマナストーンを、小型メテオールの胸部へはめ込んだ。
瞬間、
蒼白い光球が匠を包み込む。
懐かしい声が心へ響いた。
『匠よ…』
『久しいな…』
匠は思わず笑みを浮かべる。
「そんなに時間は経ってないのに、不思議とずっと会っていなかった気がするよ。」
カイザーは静かに問う。
『闘いの前に“最初に問うた事”をにもう一度聞こう…』
『全てを受け入れる覚悟はあるか?』
匠は力強く頷いた。
「ああ!」
しかしカイザーは続ける。
『この戦いで終わりではない…』
『この先、お前はさらに重い宿命を背負う事になる…』
『それでも歩み続けるか?』
以前の匠なら、迷っていた。
逃げ出したいと思ったかもしれない。
だが今は違う。
仲間がいる。
守りたい人がいる。
信じてくれる人がいる。
匠は静かに笑った。
「どんな未来でも…」
「どんな運命でも…」
「俺はみんなのために戦い続ける。」
「それが、俺の答えだ!!」
一瞬の沈黙。
やがてカイザーは力強く笑う。
『うむ!ならば共に行こう…』
『創造主よ❗』
匠も笑みを返した。
「ああ!」
「一緒に行こう❗」
蒼白い光は一点へ収束し、
メテオール全体が神々しい光を宿す。
匠はゆっくりとD.L.Sのコックピットへ乗り込んだ。
黄金に縁取られた起動スロットへメテオールをセットする。
カチリ…。
次の瞬間。
ヴォォォォォォォォン!!
機体全体が蒼い光を放ち始める。
長き因縁。
王国を覆い続けた悲劇。
すべてを終わらせるため。
そして、
新たな未来を創るため。
創造主・匠は、激震の戦場へ向かう。
その出撃が、世界の運命を大きく動かそうとしていた…。
―つづく-




