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第77話 因果の代償 ―綻び始めた能力と絶望への第二章―

第77話

因果の代償

―綻び始めた能力と絶望への第二章―


―モディアス王国・上空-

赤黒い瘴気が幾重にも空を覆い、

六枚の光翼を広げたエルゼイレ・ジャネスは、

まるで天そのものを支配する神のように静かに滞空していた。

対するはエンプレス…


そして五体の翠影。

六体は円陣を描くように散開し、ジャクラムを包囲する。


しかし、


アイザックの呼吸だけが乱れていた。


「……はぁ……」


「はぁ……」


龍昇虎厳・翠桔梗。


本来なら数十秒維持するだけでも常人なら命を落とす奥義。


六体同時制御は、想像以上に精神力を削っていた。


ジャクラムが静かに笑う。


「どうした……?」


「随分と息が上がっておるではないか。」


アイザックも苦笑する。


「久し振りに……本気になったものだからね…」


そして龍節棍をゆっくり構えた。


「でも…」


「次の一手で…」

「貴方の"謎"は解かせてもらうよ」


「くくく……」


ジャクラムが笑った、その時だった。


ピシッ…


微かな音。


頬へ一本の亀裂。


白い皮膚が乾いた土のように崩れ、

さらさらと砂となって風へ溶けていく。


ジャクラムは静かにその頬へ触れた。

挿絵(By みてみん)

(聖杯の代償か……)


(こちらも長くは保たぬか…)


(ならば次で終わらせねば…)


互いに理解していた。


この一手が決着になる。


その時だった、


ガラ……


遠方の岩山が崩れ落ちる。


その僅かな音を合図にしたように、

二つの閃光が同時に動いた。


轟ッ!!


翠と赤黒。


二筋の光が空中で激突する。

アイザックは真正面から攻め

込む。

しかし、


ジャクラムは反撃しない。


大鎌一本で全てを受け流している。


(やはり…)


アイザックの瞳が細くなる。


(この男…)


(攻撃しない…)


(いや、出来ないんだ!)


「今だ!!」


翠影二体が左右。


さらに二体が背後。


残る一体は高空。


完全包囲。


ジャクラムは翼を広げる。


轟!!


真上へ跳躍。


そこには、


本体…


龍節棍を構えたエンプレスが待っていた。


「終わりだ!!」


ルイスが叫ぶ。


「完璧だ!!」


だが、


アンジュだけが眉をひそめた。


「……何?」


「光……?」


翠影の周囲で、

無数の銀色の粒子が煌めいている。


まるで蜘蛛の糸。


細く、


透明な糸。


アイザックも気付いた。


(しまっ――)


動けない。


六体全てへ、


糸が絡み付いていた。

「縛雷陣!!」


ルイスが叫ぶ。


「アイザックさん!!」


その瞬間、


ジャクラムが高らかに笑う。


「フハハハハハッ!!」


「この大鎌の錆となれ!!」


渾身の一撃。


天空を断ち割るような斬撃が振り下ろされる。


「くっ!!」


ガギィィィィン!!


黄金の火花…


二人の間へ割り込んだ影。


ヴァルガレオンだった。


黄金の爪が大鎌を受け止める。


ジャクラムは、冷徹にヴァルガレオンを見下ろした。


「勝負に水を差しおって…。」


「これ以上……!!」


「やらせるものか!!」


ルイスが吠える。


さらにシルヴィも飛び込む。


「一人じゃないのよ!!“謎”が解けなくても、あんたを必ず倒してみせるわ!」



二機がエンプレスを守る。


翠影は静かに粒子へ戻り、


本体へ吸収されていく。


ジャクラムが肩を竦める。


「気力切れか。」


アイザックは荒い呼吸を整えながら笑った。


「……いや」


「十分だよ…」


アンジュが驚く。


「え?」


アイザックは静かに顔を上げた。


「大体分かった…」


沈黙。


「貴方が、何故 “書き換え”の能力を使わずに縛雷陣を使ったのか…」


ジャクラムの瞳が細くなる。


「……」


「これまでに何度も聖杯の力を使用したんだ…」


「“想い”を糧にする聖杯は、貴方の身体に何らかの影響を及ぼしているはず…」


「そして、“書き換え”の能力も完璧では無いという事…」


「……」


ジャクラムは何も答えない。


アイザックは続ける。


「因果改竄…」


「書き換えられるのは、貴方自身と相手が共有した事象だけ。」


「第三者から観測された出来事は改竄出来ない。」


「だから…」


「ルイス君やアンジュ君には違和感だけが残る。」

アンジュが息を呑む。


「だから……」


「私達だけ見えていた現象が違った……。」


ルイスも頷く。


「全部繋がる……」


ジャクラムは静かに拍手した。

「見事だ…」


「二度の手合わせだけでそこまで辿り着くとは。」


「さすがは…」


「天才武漢。」


アイザックは笑う。

「褒め言葉として受け取っておくよ…」


ジャクラムはゆっくり両腕を広げた。

「安心しろ…」


「もう“改竄”は使わん。」


「……?」


アイザックの表情が変わる。


「別の目的で使わねばならぬのでな…」


ルイスが呟く。


「大鎌が……ない?」


アンジュは上空を見た。


そして凍り付く。

「嘘……」


そこには、


縛雷陣で拘束された一体の翠影。


ジャクラムは最初からそこへ

大鎌を飛ばしていた。


赤黒い刃が静かに光る。


「まずい!!」


アイザックが叫ぶ。


しかし間に合わない。


ザシュッ――!!


翠影が両断された。


砕け散った翠のオーラは、


逃げることなく、


すべてエルゼイレへ吸い込まれていく。


轟……!


赤黒い瘴気が爆発する。


「これは……」


アンジュは震える。


ジャクラムが静かに笑う。


「“神昇魔厳”…」

「…と、言ったところか…」


瘴気が凝縮される。


その中心から、

もう一体のエルゼイレが姿を現した。


本体と寸分違わぬ姿。


六枚の光翼。


赤黒い瘴気。


黄金の聖杯。


完全なる分身。


ルイスの声が震える。


「二体……。」


「嘘だろ……。」


アイザックも言葉を失う。


ジャクラムは両手を広げた。

「さあ…」


「絶望への第二章の開幕だ。」


二体の神魔が同時に笑う。


その圧倒的な威圧感を前に、


三人は初めて一歩も動けなかった。


黒雲はさらに空を覆い、


世界は静かに、


絶望の色へ染まっていく…。

挿絵(By みてみん)

―つづく-

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