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第76話 武漢の解析 ―翠影、神魔を追い詰める―

第76話

武漢の解析


―翠影、神魔を追い詰める―


―モディアス王国・上空-


黒雲が渦を巻き、赤黒い瘴気が天空を覆い尽くす。


その闇を切り裂くように、

六つの翠の閃光が縦横無尽に駆け巡っていた。

挿絵(By みてみん)

本体一機。


そして五体の翠影。

《龍昇虎厳・翠桔梗》によって生み出された五体のエンプレスは、それぞれが本物と寸分違わぬ闘気を放ち、天空を支配していた。


対するは、六枚の光翼を広げた神魔――《エルゼイレ・ジャネス》。

赤黒い瘴気を纏い、静かに大鎌を構えるその姿は、まるで死神そのものだった。


次の瞬間、


ドォォォンッ!!


翠と漆黒が激突する。

衝撃波が空を裂き、雷鳴すら飲み込む轟音が戦場へ響き渡った。


「でぇぇぇいッ!!」


アイザックの裂帛の気合い。


龍節棍が唸りを上げ、大鎌へ叩きつけられる。


ガシィィィィン!!


火花が爆ぜる。


二つの武器は真正面から噛み合い、互いを押し返そうと軋みを上げる。


ギリ……ギリギリ……


空間そのものが悲鳴を上げるようだった。


アイザックは静かに微笑む。


「その機体の"謎"…、」


「ここで、見破らせてもらうよ。」


ジャクラムも笑みを崩さない。


「ほう……」


六枚の光翼が妖しく揺れる。


「五体とも本体と見紛うほどの"気"。」

「大量のオーラを放出し、それをここまで緻密に結晶化させるとは……」


「惜しい…」


「実に惜しい才能だ…」

大鎌へさらに力が込められる。


「敵にしておくには…な。」


アイザックは肩をすくめた。


「それは光栄だ。」


「だけど私は、後に続く者たちへ道を残す役目がある。」


龍節棍へさらに力を込める。


「それに、この奥義は長く維持できない。」


「だから、」


「速攻で終わらせてもらう。」


ジャクラムの瞳が細くなる。


「ならば勝負だ。」


「貴様の気力が尽きるのが先か…、」

「我の秘密を暴くのが先か…」


その言葉と同時に、二人は一

気に間合いを詰めた。


激突。


衝突。


爆音。


六枚の光翼と六つの翠影が複雑な軌道を描き、

天空全体が戦場へ変わる。


その光景を見つめながら、後方のヴァルガレオンではルイスが息を呑んでいた。


「速すぎる……」


隣ではシルヴィのアンジュも目を見開く。


「どれが本体なの……?」


六体のエンプレスが、まるで一つの生命のように呼吸を合わせて動いている。

その連携には一切の淀みがない。

「……いや」


アイザックだけが違うものを見ていた。


(反撃が少ない。)


(この敵なら、今の間合いなら確実に斬り返せる…)


(それなのに……)


ギリッ。


龍節棍を押し込む。


(受けている。)


(いや、受け続けている。)


その瞬間だった。


アイザックの背後から二体の翠影が同時に飛び出す。


「行け…」


短い指示だけで十分だった。


二体のエンプレスが左右から

龍節棍を繰り出す。


ドガガガガガッ!!


上下左右、


寸分違わぬ連撃。


まるで一人の武人が三方向から攻撃しているような精密さ。


ジャクラムは大鎌だけで全てを受け流す。


しかし、受けるだけ。


(やはりだ…)


アイザックの瞳が鋭く光る。


(どうして反撃しない。)


(いや……)


(出来ないのか…?)


その考えが浮かんだ瞬間。


「今だ!」


さらに二体の翠影が死角から

飛び出した。


四方向。


完全包囲。


「……っ!?」


ジャクラムの表情が初めて動く。

「ほう…」


エルゼイレは六枚の光翼を大

きく広げた。


轟ッ!!


爆風。


そして機体は真上へ跳ぶ。


「逃がすものか!!」


アイザックが叫ぶ。


だが、その上空には、

最後の一体。


静かに待機していた五体目の翠影が、龍節棍を真っ直ぐ構えていた。


「そこだ!」


一直線…


寸分の狂いもなく、穂先はエルゼイレの胸部――黄金の聖杯へ向けられている。


ルイスは思わず叫ぶ。


「やった!!」


アンジュも息を呑む。

「完璧……!!」


地上から見守る兵士たちも勝利を確信した。


六体の配置。


誘導。


逃げ道。


すべてが計算され尽くしている。


まさに天才武漢の名にふさわしい一手。


しかし、


ジャクラムは、笑っていた。

「くくく……」


その笑みには焦りがない。


いや、


まるで、この瞬間すら待っていたかのような笑みだった。


アイザックの背筋を、冷たい悪寒が走る。


(違う……、)


(何かがおかしい。)


(これは……?)


(誘い込まれている!?)


エルゼイレの胸に刻まれた黄金の聖杯が、不気味な鼓動を

始める。


ドクン…


ドクン…


赤黒い瘴気が静かに脈打ち始めた。


ジャクラムは薄く笑みを浮かべ、静かに呟く。


「さあ、武漢よ……」


「その答えに辿り着けるかな?」


次の瞬間、黄金の聖杯が眩く輝き始める…


エルゼイレの胸の黄金の聖杯を貫く。


その一撃は、寸分の狂いもなく一直線に伸びていた。


(獲った…❗)


誰もがそう確信した。

しかし、その刹那。


ドクン…!


黄金の聖杯が脈動する。


「なっ……⁉️」


ガシィィィィン!!


龍節棍は、黄金の聖杯ではなく、


待機していた翠影の一体へ叩き込まれていた。


「……ッ⁉️」


衝撃とともに翠影が弾き飛ばされる。


ルイスが叫ぶ。


「何故だ…⁉️」


アンジュも目を見開く。


「攻撃のタイミングは、完璧だったのに、そのまま味方の方へ攻撃するなんて…⁉️」


「違う……」


アイザックは龍節棍を握る右手を見つめた。


ジャクラムは静かに笑う。


「ふふ……」


「ようやく気付いたか…」


「それが聖杯の力」


「世界を書き換えるということだ」

「貴様は確かに"聖杯を突いた"」

「だが世界は、"味方を突いた"という結果を選んだ」


アイザックの瞳が細くなる。

(違う……)

(未来予知ではない…)

(時間停止でもない…)

(精神操作されたわけでもない…)

(結果そのものが……)


ジャクラムはゆっくりと大鎌を構え直す。


黒雲の中で黄金の聖杯が妖しく輝く。


アイザックは静かに呟いた。


「なるほど……」


「そういうことか…」

挿絵(By みてみん)

しかし、その表情には絶望ではなく、

わずかな確信が宿り始めていた。


―つづく―

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