第73話 起動 ―眠りから覚めた叡智と五秒の勝機―
第73話
起動
―眠りから覚めた叡智と五秒の勝機―
―聖樹の祠・地下巨大施設-
ゴォ…ゴゴゴゴゴ……
匠の足元に展開された巨大な蒼き魔法陣は、
まるで呼吸をするかのように明滅を繰り返していた。
魔方陣が拡がるにつれ、周りに囲まれた岩肌の壁は消え、
その光に応えるように、
数百年もの間、闇に閉ざされていた地下空間へ次々と明かりが灯っていく。
天井を支える無数の柱。
壁一面に刻まれた古代文字。
そして、
そのすべてを囲むように張り巡らされた創造回路。
静寂に包まれていた空間は、今まさに長い眠りから目覚めようとしていた。
ココルは、呆然と周囲を見渡す。
「……ほえぇ。」
「祠の地下に、こんな広大な施設が眠っとったとは……。」
その広さは、一つの町が丸ごと収まるほど。
ジゼルが残した創造研究施設だった。
匠はゆっくりと巨大な収納ケースへ歩み寄る。
そこに収められていたのは、巨大戦艦を模した精巧な模型。
彼は慎重に巨大戦艦を魔方陣の中央に置いた。
揺れる蒼い結晶。
ユグドラシルのマナストーン。
「ユグ……。」
『ウン…タクミ…』
「行こうっ!」
『イコウッ!』
匠は静かに頷き、体中に帯びた蒼い光を戦艦へと流し入れた。
ヴオーン………。
何かの起動音が響いた。
次の瞬間。
リーン……
リーン……
リーーーーーン……
澄み切った鈴の音が地下施設全体へ響き渡る。
戦艦模型が蒼白い光を帯び始めた。
「ココル…。早く、この魔方陣の外へ…」
「お、おう!」
二人は駆け出した。
巨大魔法陣の外へ飛び出した直後――
ヴォォォォォォォン!!
戦艦模型が眩い蒼光に包まれる。
ギギギギギ……
装甲が軋み、船体が急速に巨大化していく。
十メートル。
五十メートル。
百メートル。
二百メートル――。
なおも成長は止まらない。
ココルは首が痛くなるほど見上げ、思わず笑ってしまう。
「なんじゃ……これは。」
「近過ぎて、船首すら見えんわい。」
巨大戦艦は地下施設いっぱいに横たわり、圧倒的な威容を見せていた。
「これが……。」
「切り札か……。」
ココルは静かに匠を見つめる。
「匠…お前さん、」
「ほんに何者なんじゃ…」
匠は頭を掻きながら苦笑した。
「それ、俺も最近聞いたばかりなんだ…ははは…」
「全部終わったら話すよ。」
「だから今は、」
「王都の皆をみんなを頼む。」
ココルは黙って頷いた。
「おぉっ!任せておけ!」
「お前さんは世界を救ってこい!」
匠は微笑み返し、巨大戦艦へ向き直る。
その蒼い瞳には、もう迷いは
なかった。
―モディアス王国・上空-
瘴気渦巻く雷雲の中。
エンプレス。
シルヴィ。
ヴァルガレオン。
三機はエルゼイレ・ジャネスと激しい攻防を繰り広げていた。
「ハァァァァッ!!」
アンジュの双剣が背後から襲い掛かる。
ガギィィィン!!
しかし、
六本の触手が交差し、その斬撃を完全に受け止めた。
「くっ!」
アンジュが舌打ちする。
その一瞬。
「今よっ!!」
ルイスのヴァルガレオンが懐へ飛び込む。
黄金の爪が閃き、触手を次々と切断していく。
ザシュッ!!
ザシュッ!!
六本すべてが宙を舞った。
「スキルキャンセル発動!」
ルイスが叫ぶ。
「今なら再生しません!」
アイザックが即座に前へ出る。
「押し切る!」
しかし、
ジュルルルル……
切断面から赤黒い瘴気が溢れ出し、
触手は瞬く間に再生した。
「なっ!?」
アンジュの表情が凍る。
「どうして!?」
ルイスも目を見開く。
「スキルキャンセルが……!」
アイザックだけが冷静だった。
(違う。)
(発動はしている。)
(だが……。)
(効果時間が短い…)
アイザックは静かに呟く。
「八秒。」
「いや……五秒か。」
ジャクラムは不敵に笑った。
「どうした?」
「頼みのスキルキャンセルも役に立たぬか…」
エルゼイレは悠然と腕を広げる。
「来ないのなら…」
「こちらから終わらせるぞ。」
三機は距離を取り、空中で陣形を組み直した。
アイザックが通信を開く。
「二人とも…」
「聞いてくれ…」
アンジュとルイスが同時に振り向く。
「スキルキャンセルは、確かに発動されている。」
「ただしその効果は、五秒…」
「その僅かな時間で決める。」
ルイスは静かに息を吐く。
「つまり……、」
「その五秒に、すべてを賭けるんですね。」
アイザックは力強く頷いた。
「その通りだ。」
そして、静かにアンジュを見た。
「アンジュ。」
「私に放ったあの“拘束技”を使えるか?」
アンジュは目を丸くする。
「え?」
「あれは匠とだからできた技よ?」
アイザックは口元を少しだけ緩めた。
「心配ない。」
「私は一度見た技、一度受けた技なら再現できる。」
「何しろ…、」
「私は“天才”武漢だからね。」
アンジュは思わず呆れたように笑う。
「はいはい…」
「相変わらず自信家で御座いますわね…」
そのやり取りを見つめるジャクラムが静かに笑った。
「話しは、済んだか…?」
「ならば見せてもらおう…」
「お前たちの最後の足掻きをっ!」
アイザックは翠の闘気を纏う。
アンジュも紅きオーラを燃え上がらせる。
二人は背中合わせに立った。
「行くぞ!」
「ええ!」
翠と紅、二つの閃光が同時に天空を駆けた。
-つづく-




