第72話 神魔決戦 ―天を裁く神と地に芽吹く光―
第72話
神魔決戦 ―天を裁く神と地に芽吹く光―
―モディアス王国・上空-
赤黒い瘴気が、まるで生き物のように蠢きながら天を覆い尽くしていた。
本来なら青空が広がるはずの昼の世界は闇に閉ざされ、雷鳴にも似た低い唸りが大気そのものを震わせる。
王都の誰もが息を呑み、その異様な空を見上げていた。
瘴気の中心――。
静かに、一つの影が降り立つ。
それは、もはや異形の魔機ではなかった。
ヴァジェラ。
マデュエリ。
ゲネル。
三体の強大なネンドールをディアヴロが取り込み、完全なる進化を遂げた存在。
《エルゼイレ・ジャネス》。
神像のように均整の取れた白亜の装甲。
その純白を侵食するように赤黒い紋様が脈打ち、背後では巨大な瘴気の光輪がゆっくりと回転している。
神々しく、美しい。
しかし、その姿から放たれる気配は慈愛とは正反対だった。
生命を否定し、世界を終焉へ導くためだけに存在する絶対的な悪意。
まるで――
世界へ天罰を下す、破滅の神。
コックピットの中でジャクラムは静かに目を閉じた。
胸へ手を添え、全身を満たす力を味わうように深く息を吸う。
「……素晴らしい。」
「この力……。」
「一度に数百の魂を喰らった時にも匹敵する高揚。」
「体の奥底まで満たされていく。」
「これが……完全なる力か。」
ゆっくりと口角が吊り上がる。
そして――
「くくくくくっ…素晴らしい……。」
「素晴らしいぞォォォォォッ!!」
「ハーッハッハッハッハッ!!」
轟く哄笑。
その瞬間。
ズバァァァァァァァッ!!
エルゼイレ・ジャネスから濃紫の瘴気が爆発的に噴き上がった。
紫の衝撃波は天空を裂き、大気を歪ませ、王都全体を飲み込んでいく。
「ぐっ……!!」
アイザックのエンプレスが大きく押し戻される。
「うっ……!!」
アンジュのシルヴィが空中で姿勢を崩した。
「くぅぅっ!!」
ルイスのヴァルガレオンも黄金の爪を突き立て、必死に耐える。
三機とも、攻撃を受けたわけではない。
ただ"存在するだけ"で押し潰されそうな威圧感。
誰もが本能で理解していた。
―この存在は、今まで戦ってきた敵とは次元が違う。
ジャクラムは地上を見下ろし、鼻で笑った。
「……ふっ。」
「ギギのヤツめ…」
「恐れをなして逃げおったか…」
肩をすくめる。
「まあ構わぬ。」
「どこへ逃げようと、この世界はいずれ我のもの。」
「逃げ場など存在せぬ。」
静寂を破るように、エンプレスが一歩前へ出た。
アイザック「上機嫌の中、申し訳ないが、…」
瞳の奥が鋭く光る。
「私達の事を忘れてもらっては困るよ…」
龍節棍を静かに構える。
「まだ私達が居ることを…」
アンジュも、まっすぐ敵を睨み返した。
「そうよ!」
「ジュリアも!」
「イリアも!」
「匠も!」
「あなたに葬られた人達の“想い”は、絶対に無駄になんてさせない!!」
ルイスも操縦桿を強く握り、叫んだ。
「父上を奪い……」
「祖国を滅ぼした元凶…」
「そして今、このモディアス王国まで滅ぼさせるものか!!」
三機から眩い光が溢れ始める。
エンプレスは、翠に…
シルヴィは、紅に…
ヴァルガレオンは、蒼に…
三つの光は互いに呼応するように輝きを増し、黒く染まった天空を照らした。
ジャクラムの眉が僅かに動く。
(……何だ?)
(出力が上昇している。)
(機体性能ではない。)
(精神力……。)
("想い"そのものが力へ変換されているというのか。)
しかし次の瞬間、その疑問は歓喜へと変わる。
「面白い。」
「ならば、その想いごと――喰らってやろう。」
エルゼイレがゆっくり右手を差し出す。
「さあ……。」
「来るがよい。」
アイザックが通信を開いた。
「二人とも…」
「ここからが本番だ。」
アンジュが笑う。
「もちろん!!」
ルイスも力強く応える。
「了解!!」
次の瞬間――
三機が同時に加速した。
翠の武漢。
紅の双剣。
蒼銀の獅子。
三本の閃光が一直線に天空を駆け抜け、魔神へ突撃する。
その激突が始まろうとしていた。
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―モディアス王国・聖樹の祠-
一方その頃。
避難を終えた王都の民たちは、聖樹の泉の周囲へ静かに集められていた。
匠は人々の不安そうな表情を見つめながら、静かに息を吐く。
その横でココルが首を傾げた。
「匠よ。」
「皆をここへ集めて、一体何をするつもりなんじゃ?」
匠は穏やかに微笑む。
「ココル。」
「"ネンドール"は?」
ココルは頷き、三つの大型収納ケースを開いた。
中には、小型ネンドール二基、D.L.Sのコックピットボッド。
そして、一際巨大な大型戦艦型の模型が静かに眠っていた。
「最終調整は済ませてある。」
「いつでも起動できるぞ。」
匠は満足そうに頷いた。
「ありがとう。」
「やっぱりココルは頼りになる!」
そう言うと大型模型を抱え、ココルの手を握る。
「えっ!?」
「ちょ、ちょっと何をするんじゃ!」
次の瞬間――
ヴーーーンッ…シュンッ!!
蒼い転移光が二人を包み込んだ。
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転移した先は、聖樹の地下深く。
かつてジゼルがネンドール第一号 《ユグドラシル》を創造し、暴走したユグを封印した広大な地下研究施設。
静まり返る巨大空間を見渡し、ココルは思わず息を呑む。
「これは……。」
「祠の地下に、こんな施設が残されておったとは……。」
匠は静かに歩み出る。
胸へ手を当て、優しく語りかけた。
『ごめん、ユグ……』
『ここは、お前にとって辛い記憶の場所だったよな…』
柔らかな声が心へ響く。
『ウン……』
『デモ、イマハ タクミガイル。』
『ジゼルノ オモイモ イッショ。』
『ダカラ……コワクナイ。』
匠は静かに微笑んだ。
『ありがとう、ユグ。』
『みんなを救おう。』
『ウン!!』
右手をゆっくりと地面へ添える。
その瞬間――
次第に変化する銀色の髪が風もない地下で静かになびき始める。
左眼が蒼く輝き、全身から莫大な念導力が溢れ出した。
「はああああああぁぁぁッ!!」
ヴォォォォォォォォン!!
巨大な蒼い魔法陣が足元に展開される。
幾重にも重なる古代文字。
複雑に絡み合う魔法回路。
その光は地下施設全域へ広がり、眠り続けていた創造の刻印が次々と目覚めていく。
ゴゴゴゴゴゴ……。
施設全体が共鳴するように震え始めた。
ココルは目を見開く。
「匠……。」
「お前さん、一体何をしようとしておるんじゃ……!?」
地上では――
世界の命運を懸けた最終決戦が始まる。
そして地下では――
世界を救う最後の創造が始まろうとしていた。
絶望を司る魔神。
希望を紡ぐ創造主。
二つの運命は、やがて一つの戦場で交わる。
その時、世界は真の未来を目撃する――。
――つづく。




