第71話 厄災の繭―聖杯が選びし、終焉の堕天使―
第71話
厄災の繭―聖杯が選びし、終焉の堕天使―
―モディアス王国・上空-
天空を覆う巨大な蜘蛛の巣状の魔法陣。
『死蜘蛛の舞い・縛雷陣』。
幾千もの紫電が絡み合い、その中心で黒き魔機神ディアヴロを容赦なく焼き尽くしていた。
「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ジャクラムの絶叫が轟く。
赤黒い瘴気が弾け、ディアヴロの巨体が激しく痙攣する。
「今だぁぁぁッ!!」
ギギの叫びとともに、ヴァジェラが紅蓮の閃光となって突撃した。
鋭く赤く輝く巨大な爪が、一直線にディアヴロのコックピットを狙う。
「じゃあな……大王ぉぉぉッ!!」
轟音とともに必殺の一撃が迫る。
しかし、
ジャクラムの口元が、不気味に歪んだ。
「……くっ、くくく。」
「ふんッ!!」
バリィィィィィッ!!
紫電を強引に引き裂きながら、ディアヴロは拘束された
両腕を力任せに解放する。
「なっ!?」
そのまま両手でヴァジェラの腕を受け止めた。
ギギの渾身の一撃は、ディアヴロの胸部装甲へ深々と食い込む。
あと数センチ。
コックピットまで届く寸前で止められた。
アイザックが息を呑む。
「攻撃が……通った!?」
完全防御ではない。
防御から攻撃へ移る、その一瞬だけ無敵ではなくなる。
貴重な情報だった。
だが、
ヴァジェラはディアヴロに拘束されたまま、
縛雷陣の中心へ引きずり込まれる。
バチバチバチィィィッ!!
紫電がヴァジェラを貫いた。
「ぐああああぁぁッ!!」
コックピットでギギが苦悶の叫びを上げる。
「く、くそっ……離しやがれぇ!!」
ジャクラムは愉快そうに笑った。
「フフフ……。」
「根比べといこうか、ギギ。」
赤黒い瞳が妖しく輝く。
「そろそろ、お前をいただくとしよう。」
その瞬間、
ズバァァァンッ!!
黄金の斬撃が閃いた。
ディアヴロの両腕が宙を舞う。
「……!?」
ジャクラムの瞳が見開かれる。
拘束を失ったヴァジェラは、切断された腕ごと地上へ落下した。
轟音。
土煙。
衝撃でハッチが開き、ギギの身体が外へ投げ出される。
ジャクラムは静かにため息をついた。
「全く……。」
「せっかくの晩餐を邪魔しおって。」
その視線の先。
ディアヴロの目前には、ヴァルガレオンの背に乗るシルヴィが双剣を構えていた。
アンジュが驚きを隠せない。
「アイザックの咄嗟の指示で突撃したけど……本当に斬れた。」
ルイスはディアヴロを睨み続ける。
アイザックは冷静に分析した。
「やはり予想どおりだ。」
「防御から攻撃へ移る瞬間だけ、防御障壁が解除される。」
ルイスが頷く。
「つまり……鉄壁ではない。」
アンジュも力強く言う。
「だったら、みんなで攻め続ければ!」
やがて縛雷陣が消滅する。
両腕を失ったディアヴロが空中で静止した。
アイザックが叫ぶ。
「今だ! 大鎌を失った今が最大の好機だ!」
しかし、
ジャクラムは笑っていた。
「……舐めるな!!」
切断面から噴き出した赤黒い瘴気が、大鎌へと伸びる。
まるで巨大な腕のように武器を持ち上げた。
「瘴気で……操作しているのか!?」
アイザックが驚愕する。
「ギギを喰らう前に……。」
「まずは、お前たちからいただこう。」
三機は同時に突撃した。
―モディアス王国・整備ドック―
「おいっ!! 匠!!」
「しっかりするんじゃ!!」
ココルの声で、匠はゆっくりと目を開ける。
「……ここは?」
「整備ドックじゃ。」
「突然、青白い光の球が現れてのう。」
「気付いたら、お前たち三人が倒れておった。」
匠は慌てて身体を起こした。
「王女っ❗王女は⁉️」
ココルが奥を指差す。
「安心せい。」
そこではイリアがジュリアへ念導治療を施していた。
「ようやく目が覚めたのね、創造主。」
「ジュリアは無事よ。」
匠は深く息を吐く。
「……良かった。」
その瞬間、脳裏に光景が蘇る。
赤黒い瘴気。
迫る死。
そして、
自分の身体を包んだ眩い蒼い光。
「あの時……!」
胸元が淡く輝く。
『タクミ……。』
ユグドラシルの幼い声が響いた。
『ミンナ……ブジデヨカッタ。』
「ああ……ありがとう。助かったよ…」
匠は立ち上がる。
「…ココル!」
「王都のみんなを、聖樹の泉の祠へ避難させてくれ!」
「ぜ、全員じゃと!?」
「ああ、頼む!」
その真剣な眼差しを見たココルは、大きく頷いた。
「わかったわい。任せろ!!」
―再び、モディアス王国・上空―
エンプレス。
シルヴィ。
ヴァルガレオン。
三機による怒涛の連携攻撃が始まる。
シルヴィの双剣が幾重もの斬撃波を放ち、
エンプレスは龍節棍とエネルギー体を駆使して死角を作り、
その隙を縫うようにヴァルガレオンが一気に懐へ飛び込んだ。
「今だぁぁぁッ!!」
ズガァァァッ!!
黄金の爪がディアヴロの両肩を深々と裂く。
「ぐっ!?」
瘴気が霧散する。
支えを失った大鎌は地上へ落下した。
アンジュ「スキルキャンセルが発動した⁉️」
ルイスが叫ぶ。
「皆さん! 今です!!」
だが、
ジャクラムの笑みは消えない。
「そうは……いかぬ。」
ゴォォォォォォォッ!!
凄まじい赤黒い瘴気がディアヴロ全身から噴き上がる。
ドッガァァーーーーッ!!
「「「ウワァーーーツ!!」」」
衝撃波だけで三機は大きく吹き飛ばされた。
「くっ…ここまでとは……」
アイザックの顔に初めて焦り
が浮かぶ。
ジャクラムは静かに目を閉じた。
「……うむ…」
「この姿では戦いづらい」
そして天へ右手を掲げる。
「聖杯よ――。」
「我が憎悪を糧とし、新たなる力を授けよ。」
天地が震えた。
落下した大鎌。
そして、地上に横たわるヴァジェラ。
二機が瘴気に包まれ、ゆっく
りと宙へ浮かび上がる。
意識朦朧とした中、ギギは叫んだ。
「や、やめろ!それは…ヴァジェラは、兄貴の…」
「そうか……。我の中の“ガガ”が欲しておる…」
ジャクラムは狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「ディアヴロよ…」
「お前も喰らいたいか…」
赤黒い奔流がヴァジェラを完全に包み込む。
「やめろぉぉぉぉッ!!」
ギギの叫びも届かない。
ヴァジェラは、そのままディアヴロへ吸収されていった。
ゴォォォン……
ゴォォォン……
鐘の音にも似た重低音が世界を震わせる。
ディアヴロは巨大な赤黒い繭へと姿を変えた。
次第にその繭は、縮小していく。
そして、
鼓動。
脈動。
世界そのものが息を潜める。
やがて、
ピシッ……
ピシピシッ……
繭に亀裂が走る。
次の瞬間。
バリィィィィィィィンッ!!
殻を突き破り、新たな存在が姿を現した。
以前よりも引き締まった神々しい体躯。
白亜の装甲に、胸の聖杯の紋様が脈動し、その全身から放たれる覇気は、神聖さと邪悪さを同時に宿していた。
その姿を見たアイザックは、言葉を失う。
「……なんということだ。」
ジャクラムは歓喜に震えながら、その新たな魔神へ両腕を広げる。
「よくぞ応えてくれた……。」
「ディアヴロよ。」
「いや…エルゼイレ・ジャネス…」
「これよりお前は、真なる魔神として生まれ変わる…」
その名が告げられた瞬間、エルゼイレ・ジャネスは、白亜の大鎌を掲げ、
天空を覆う瘴気が世界を飲み込み始めた――。
―つづく-




