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第70話 魔帝の晩餐 ― 喰らわれた王国と怒りの赤爪 ―

第70話


魔帝の晩餐 ― 喰らわれた王国と怒りの赤爪 ―


―モディアス王国・上空-


赤黒き魔神ディアヴロが、大鎌を肩に担ぎ、不気味に立っていた。


その姿を見据えるルイスの瞳は、大きく見開かれている。


「あれは、……獅子大鎚剛打術……」


震える声が漏れた。


「何で……あの技を……」


《獅子大鎚剛打術》

ジョルドブルンクス王国王・バルガス王と、その嫡子ルイス・ハーゼンのみが体得した、王家秘伝の究極大鎚術。

決して他者が得るはずのない技だった。


その一撃を、敵であるディアヴロが放った。


理解できない。


理解したくもない。


ルイスの胸に、不吉な予感だけが広がっていく。


ジャクラムは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。


「うむ…言うなれば、これは…、」

「"魔帝大鎌滅斬術"とでも名付けるか…。」


大鎌をゆっくりと持ち上げながら続ける。


「ギギ達がお前の王国へ攻め入った後……私も、あの国にいたのだ。」


「……っ!!」

ギギの表情が強張る。


その一言だけで、ルイスの鼓動は激しく脈打った。


―回想―

ジョルドブルンクス王国・陥落後


王都は炎に包まれていた。


崩れ落ちる城壁。


立ち昇る黒煙。


民の悲鳴さえ、すでに聞こえない。


城門前には、幾千もの傷を刻まれながらも、なお城を守るように立つ蒼銀の機体。

王専用機動兵器――ヴァルヴァレオン。


プシューッ!!


蒸気を噴き上げながらコックピットハッチが開く。


傷だらけのバルガス王が降り立った。


額から血を流しながらも、その瞳だけは死んでいない。


「くっそぉ……あのクソガキ……好き放題暴れやがって……」


周囲を見渡す。


瓦礫。


炎。


倒れ伏す兵士。


バルガスは声を張り上げた。


「おーーい!!」


「誰かいるか!! 無事かぁ!!」


遠くから弱々しい返事が返る。

「……バルガス王……っ」


バルガスは駆け寄った。


「おぉ!! 生きていたか!!」


「他の者は!?」


兵士は苦しそうに息を吐く。

「何とか……数名だけ……。」

「軽傷者は野営地で負傷者の手当てを……。」

「そうか……。」


安堵する間もなく、兵士は震えながら炎の街を見つめた。

「ですが……民達は……」

「これでは、民達も生きているのかどうか……」


怒りと悲しみが声を震わせる。


バルガスは拳を握った。

「ルイス達が戻るまで希望は捨てるな。」

「一人でも多く、生存者を探し出すんだ。良いな?」

「……はい」

その時だった。

バルガスの視線が兵士の背後へ向く。

瓦礫の影。

誰かが立っている。

「……誰だ⁉️」

低く唸る。

「貴様は!!」

兵士が振り返る。

しかし――

「え……?」

シュボォ-ッ!!


黒い腕が兵士の頭を鷲掴みにした。


瞬間、


赤黒い瘴気が兵士を包み込む。

「うわああああっ!!た、助けてぇ!!」


肉が溶ける。


骨が砕ける。


命そのものが赤黒い霧となって吸い込まれていく。


最後の言葉すら残らなかった。


静寂。


そして男は恍惚と笑う。

「絶望……」

「悲しみ……」

「そして憎悪……」

「実に甘美な馳走だ…」

赤黒い液体が口元を伝う。

「だが……まだまだ足りぬ。」

男はゆっくりと顔を上げた。

「我が名は――ジャカランダ。」

バルガスの瞳が見開かれる。

「……お前が…」

「ジャカランダ大王か…?」


全身に返り血を浴びた魔王。

その口元には、生々しい鮮血が滴っていた。

ジャカランダは妖しく笑う。

「生存者?」

「そんなものは誰一人残っておらぬ。」

「すべて…我が喰らったわ…」

ベロリと舌で血を舐める。

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

怒号。

バルガスは剣を抜き放ち、一気に間合いを詰める。

だが――

「遅い…」

ザシュッ!!

剣は虚空を裂いただけだった。

次の瞬間。

ジャカランダは背後に立っていた。

「……!!」


ズガァッ!!


鋭い手刀が背中を貫く。

挿絵(By みてみん)

「ぐっ……。」

「がはっ!!」


鮮血が舞う。


ジャカランダは心臓の鼓動を感じるように笑った。

「素晴らしい。」

「絶望に満ちた命の鼓動が……我が手に伝わる。」


ゆっくりと牙を剥く。

「…では、」

「その生き血も味わわせてもらおう。」

ガブッ!!

「ぐああああっ!!」

ジュル……

ジュルル……

首筋から生命が吸われていく。

視界が霞む。

身体から力が抜ける。

それでもバルガスは最後の力を振り絞り、震える腕を天へ伸ばした。

(ル……イス……。)

(生きろ……。)

(未来を……託したぞ……。)


伸ばした手は静かに落ちた。


バルガスは、その最期まで王であり父親であり続けたのだった。


―現在―

モディアス王国・上空


「……き、貴様が。」


ルイスの声が震える。


「父上をぉぉぉぉーーーッ!!」

操縦桿を握る両手が白くなるほど力が入る。


怒り。


悲しみ。


悔しさ。


すべてが一つとなり燃え上がる。


その感情に応えるように――


ガァァァルルルルルル!!


ヴァルガレオンが獣のような

咆哮を轟かせた。


蒼銀の装甲から闘気が噴き上がる。


ジャクラムは笑う。

「これまで数え切れぬ命を喰らってきた。」

「中でも、ガガの肉体は“吸収効率”だけは最高だった。」


肩をすくめる。

「だが…味は最低だったがな…」


「ふざけるなぁぁぁッ!!」


ギギの怒号が戦場を震わせる。


ヴァジェラが紅蓮の爪を振るい、猛烈な連撃を浴びせる。

しかし。


ギィィン!!


ギィン!!


ギィン!!


ディアヴロの大鎌はすべてを受け流す。

「そうだそゔだ!もっと怒れ。」

ジャクラムは歓喜に震える。

「その後に絶望に堕ちた魂ほど熟成される。」

「芳醇なワインのようにな…」

「その時こそ、」

「最高の晩餐になる!」


しかし、ギギは不敵に笑った。

「へっ……そんなに余裕ぶっこいてて良いのかよ…」

「大王さんよ!」


「何……!?」

その瞬間だった。

ディアヴロの周囲に、紫黒い巨大な蜘蛛の巣状の魔法陣が展開される。


アンジュが叫ぶ。

「あれは――」

「マデュエリの縛雷陣!!」

次の瞬間。

バチィィィィィィィッ!!

無数の紫電が蜘蛛の巣を伝い、一斉にディアヴロへ流れ込む。

「があああああぁぁぁッ!!」

ジャクラムが初めて絶叫した。

全身が雷撃に貫かれ、ディアヴロの装甲から火花が噴き上がる。


アイザック(効いている…⁉️)


ギギの瞳が真紅に燃える。

「兄貴の仇を討ち、」

「そして聖杯を奪い――」

「俺が、“全て”を書き換えてやる!!」


ヴァジェラの巨大な紅き爪が灼熱の輝きを放つ。


一直線にディアヴロのコックピットへ向けて突撃する。


「終わりだぁぁぁぁぁーーーッ!!」

挿絵(By みてみん)

紅き閃光が、魔王へ向かって突き進んだ――。


―つづく-

《ジョルドブルンクス王国 バルガス・ハーゼン国王》

挿絵(By みてみん)

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