第69話 魔神降臨 - ディアヴロ・ジャネス -
第69話
魔神降臨 - ディアヴロ・ジャネス -
――モディアス王国・上空――
轟く雷鳴。
裂ける雲。
燃え盛る赤黒き瘴気。
王都上空に現れた“それ”を見上げて、誰もが息を呑んでいた。
巨大。
ただ、それだけで圧倒的だった。
漆黒の巨体。
禍々しく脈打つ赤黒い紋様。
全身には、まるで亡者の怨念が渦巻くような炎のオーラ纏っていた。
そして、
空間そのものを軋ませるほど巨大な《大鎌》。
四機のネンドールの中央。
その巨体は、静かに滞空していた。
「……」
アイザックが無言で見ていた。
ルイスの喉が震えた。
「なんて……大きさなんだ……」
アンジュは、目を見開いたまま呟く。
「あれ……」
嫌な記憶が脳裏を過る。
「あれって……匠が初出撃した時の巨大ネンドール……!?」
ギギの顔が引き攣った。
「な、なんで“それ”を持ってんだよ!!」
叫ぶ。
「“それ”は俺や兄貴でも制御できなくて、廃棄したヤツだろ!!」
ディアヴロ内部。
巨大なコックピットで、ジャクラムが静かに笑った。
「廃棄するには惜しかったのでな」
赤黒い瞳が細まる。
「秘密裏に回収し、“作り直させた”…」
その声には、愉悦が滲んでいた。
「ガガほど細かな調整はできておらぬが――」
ジャクラムが操縦桿を強く握る。
ギリッ――。
「ぬぅんっ!!」
瞬間、
ジャクラムの全身から、爆発的な赤黒いオーラが噴き上がった。
ドォォォォォォォッ!!
オーラは生き物のように巨人の全身を駆け巡る。
装甲が脈動する。
巨体が震える。
そして、
ウォォォォォォン……!!
巨人の獣が目覚めた様な咆哮が空を震わせた。
アンジュが息を呑む。
「力で……ねじ伏せた……!?」
アイザックが静かに呟く。
「暴れ馬を無理矢理調教した……って感じだね…」
ルイスの額に汗が流れる。
「あんなもの……どうやって……」
ジャクラムは、満足げに周囲を見回した。
「うむ……悪くない」
口元が吊り上がる。
「名を――《ディアヴロ・ジャネス》としよう」
「……っ!!」
ギギが歯軋りした。
ギリッ……。
ディアヴロの巨大な赤眼が、ゆっくりヴァジェラを見下ろす。
「さぁ、ギギよ」
ジャクラムの声が響く。
「覚悟は良いか?…」
アイザックが即座に通信を開いた。
「いいかい、二人とも」
アンジュとルイスが振り向く。
「ここは“ヴァジェラ”と協力してディアヴロを叩く」
「「……!?」」
二人が同時に目を見開く。
ルイスは、一瞬だけ苦い顔をした。
だが、
「……そうですね」
静かに頷く。
「私情を挟んでいる場合じゃない…」
アイザックが瞳を閉じた。
「…すまない。」
龍節棍を構える。
「行くぞ!!」
エンプレス。
シルヴィ。
ヴァルガレオン。
三機が一斉に加速した。
しかし、
ディアヴロが振り向く。
ただ、それだけ。
巨大な大鎌が、ゆっくり横へ払われた。
ギュイィィィィィー―ン!!
空間そのものが裂けた。
ジィージリジリジィーーッ❗
赤黒い斬撃の軌跡。
大気が悲鳴を上げる。
「っ!!」
三機は即座に急停止。
直感が叫んでいた。
―当たれば終わる。
ジャクラムが薄く笑う。
「…慌てるな」
その声には余裕しかない。
「お前達の相手は、後でゆっくりしてやる」
アイザックの瞳が細まる。
(完全に……格上か)
ジャクラムは視線をヴァジェラへ戻した。
「さぁギギよ」
「かかってくるが良い」
「くっそぉぉぉぉ!!」
ヴァジェラが高速突進した。
赤い爪が唸る。
触手が空を裂く。
だがディアヴロは――動かない。
「舐めんじゃねぇぇぇ!!」
ガギィィィィィン!!
赤い爪がディアヴロ胸部へ直撃した。
「……っ!?」
ギギの顔が凍る。
傷一つ、無い。
ジャクラムが退屈そうに呟く。
「ん?」
「何かしたのか?」
ヴァジェラの猛攻が始まる。
赤爪。
触手。
連撃。
乱打。
嵐のような攻撃。
ガガガガガガガガァァッ!!
だが、
ディアヴロは微動だにしない。
アイザックの瞳が鋭くなる。
(装甲が硬いわけじゃない……)
違和感。
(何かある)
ギギが叫ぶ。
「チクショォォォォォ!!」
なおも猛攻。
しかし、
ジャクラムは欠伸をした。
「ふぁぁぁ……」
完全に退屈そうだった。
「もう終わりか?」
「ッ!!」
ギギの額に汗が滲む。
ジャクラムが大鎌を持ち上げた。
「では――」
静かな声。
「そろそろ、こちらから行こう」
ギュイン――!!
大鎌が振り下ろされる。
ヴァジェラは咄嗟に赤い両爪で受け止めた。
だが、
ガリッ――!
「……え?」
ギギの顔が引き攣る。
次の瞬間、
バギィンッ!!
ズァッン!!
赤い爪ごと、両腕が斬断された。
「がぁぁぁっ!!」
ジャクラムが笑う。
「ほう」
「自慢の爪が無くなってしまったぞ?」
「甘く見んじゃねぇっ!!」
ヴァジェラの断面が蠢く。
肉のように。
触手のように。
そして新たな腕が再生した。
さらに、
六本の触手先端が、全て“赤い爪”へ変化する。
アンジュが息を呑む。
「なに……アレ……」
ギギは狂ったようにキーボードを叩いた。
高速入力。
ディアヴロの周りに魔法陣が次々展開される。
ジャクラムの目が細まる。
「ほう……」
「マデュエリの能力か」
「そぉらァ!!」
魔法陣から無数の赤爪攻撃。
全方向。
同時攻撃。
ドガガガガガガガァァッ!!
アイザックが目を凝らす。
(やはり……)
見えてきた。
(防御時、一切ダメージが通っていない……!)
ギギが絶叫する。
「そらそらそらそらァァァァ!!」
だが、
ジャクラムは笑った。
「…うむ」
「これは、たまらんなぁ…」
ディアヴロが大鎌の柄の先端を持ち始め回転させる。
ゆっくり…
そして徐々に加速…
ヴァジェラの連続攻撃を弾きながら大鎌は、スピードを増していく。
赤黒いエネルギーがディアヴロの周囲を囲んだ。
ドォォォォォォォォンッ!!
爆発的衝撃波。
赤黒いエネルギーの奔流が放たれた。
魔法陣が吹き飛ぶ。
赤爪攻撃が砕け散る。
ルイスが目を見開いた。
「あ、あの技は……!!」
ジャクラムの口元が吊り上がる。
「バルガスと言ったか…」
その瞳が禍々しく輝く。
「“あやつ”も実に“美味かった”ぞ…」
その瞬間、
空気が凍った。
ジャクラムは、笑っていた。
命を喰らった記憶を、
心から愉しむように。
――つづく――




