第65話 黒帝崩落 ― 悪童の反逆と、蘇る災厄 ―
第65話
黒帝崩落 ― 悪童の反逆と、蘇る災厄 ―
――アラベスク・マウザー艦内・煌武館道場――
静寂の中に、銃口だけが冷たく光っていた。
ガガは、ジュリアの首元へ拳銃を突き付けたまま、ゆっくり後退していく。
「王女……大人しく私と来てもらおう」
その声は、妙に穏やかだった。
だからこそ、不気味だった。
「ジュリア!!」
イリアが一歩踏み出す。
だが――
バキュゥゥゥン!!
乾いた銃声。
床が爆ぜた。
イリアの足先、僅か数センチ前。
「っ……!」
イリアが足を止める。
ガガは、口元を歪めた。
「動くな」
ジュリアを盾にしたまま、淡々と告げる。
「世界を書き換えるためには、“聖杯”が必要なんだよ」
その目には、狂気とも執念ともつかない光が宿っていた。
匠は歯を食いしばる。
「そんなこと……させるか!!」
ガガは小さく笑った。
(……そろそろ頃合いか)
眼鏡に仕込まれた小型通信機へ、小さく呟く。
「聖杯は、我が手に――」
――モディアス王国・上空――
《ヴァジェラ》のコックピットに通信が入る。
『――聖杯は、我が手に』
ギギが、ニタァ……と笑った。
《ヴァジェラ》のコックピット。
両手で高速入力を続ける指が、狂ったように踊る。
カタカタカタカタカタ――!!
常人には追えない速度。
そして最後に、
カチッ――
一つのキーを押し込んだ。
――モディアス王国遥か上空・戦艦《黒帝》ブリッジ――
次の瞬間だった。
ビィィィィィィッ!!
ビィィィィィィッ!!
けたたましい警告音が艦内へ響き渡る。
壁面が赤く点滅する。
黒い装甲が軋み、亀裂が走った。
バキ……バキバキッ――!!
隙間から黒煙が噴き出す。
ブリッジ中央。
赤黒い巨大玉座に腰掛けたまま、ジャカランダは微動だにしない。
「…………」
その巨体は、黒煙と燃え上がる炎と共に飲み込まれていった。
次の瞬間。
ドゴォォォォォォォンッ!!
《黒帝》内部で大爆発が発生した。
火炎。
衝撃波。
装甲が内側から吹き飛ぶ。
艦体そのものが裂け、爆炎が宇宙空間へ噴き出した。
轟音と共に、《黒帝》は完全崩壊を始める。
――モディアス王国・上空――
その光景を見たババジャが、絶句した。
「お……おおぉ……」
震える声。
「《黒帝》が……」
モニター越しに爆散していく旗艦を見つめる。
「大王様ぁぁぁぁ!!」
悲鳴だった。
だが、
「ヒャァッヒャッヒャァァ!!」
ギギは、腹を抱えて笑っていた。
「大王ごと木っ端微塵だぜぇ!!」
アンジュ達が目を見開く。
「なっ……!?」
アイザックの表情が険しくなる。
(自分達の旗艦を……!?)
ギギは舌を出した。
「俺はハナっから、クソババァも大王も大っ嫌いだったんだよォ!!」
キーボードを乱暴に叩く。
「これで遠慮なく全部ぶっ壊せる!!」
そして、
ヴァジェラが、猛スピードで《マデュエリ》へ突撃した。
「……っ!?」
アンジュの目が見開かれる。
赤い残光。
瞬間移動じみた速度。
次の瞬間――
ズガァァァァァッ!!
ヴァジェラの鋭利な赤い爪が、《マデュエリ》の胸部を貫いていた。
「がはっ……!?」
ババジャが血を吐く。
コックピット内で身体を震わせながら、信じられないものを見るようにモニターを見つめた。
「ギギ⁉️……何故?……お前だったのか……」
ギギは、狂ったように笑う。
「よぉ、クソババァ」
その声音には、憎悪しかなかった。
「俺、お前のことさぁ、ずぅっと嫌いだったんだよぉ~」
「臭えし、煩えし…ヒャッヒャァ!」
ヴァジェラの爪が、更に深く食い込む。
メリメリメリ……!!
装甲が軋む。
「じゃあなァ――」
ギギが満面の笑みを浮かべた。
「“ババアージャ”」
「おぉのぉれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
次の瞬間。
ガガガガガガガガガッ!!
ヴァジェラの赤い爪が、《マデュエリ》を凄まじい速度で抉り始めた。
装甲が裂ける。
内部機関が砕ける。
悲鳴のような金属音。
そして――
抉り取られた機体が、ヴァジェラへ吸収されていく。
ギュォォォォォォォ……!!
空が震えた。
「いけない!!」
アイザックが叫ぶ。
「ヴァジェラを止めるんだ!!」
エンプレス。
シルヴィアンジュ。
ヴァルガレオン。
三機が同時突撃する。
だが、
「遅ぇよ…」
再び変貌してゆくヴァジェラから禍々しい波動が放たれた。
三機は、その波動の衝撃に飛ばされてしまう。
ギギが嗤った。
既に、《マデュエリ》の半身は消えていた。
吸収。
侵食。
そして――進化。
ヴァジェラの装甲が、再び蠢き始める。
赤い爪が更に巨大化する。
背部から無数の触手が伸びた。
全身へ紫色の脈動が走る。
まるで。
巨大な悪魔が羽化しているようだった。
アイザックの額を汗が伝う。
「なんてことだ……」
――アラベスク・マウザー艦内・煌武館道場――
『兄貴ぃ!!』
通信機からギギの声が響く。
『準備できたぜぇ!!』
ガガが笑う。
「よし」
ジュリアへ銃を突き付けたまま頷いた。
「障壁を破ってここまで来い」
そして、
ゆっくり匠へ銃口を向ける。
「……その前に」
目が細まる。
「創造主には、ここで消えてもらおうか」
引き金が引かれた。
パンッ!!
「っ!!」
その瞬間、
イリアが咄嗟に匠を突き飛ばす。
銃弾が肩を掠めた。
「イリアァッ!!」
ジュリアが悲鳴を上げる。
イリアは肩を押さえながら歯を食いしばった。
「ぐっ……!」
ジュリア「もう“聖杯”は、手に入ったのでしょ!これ以上誰も傷付けてはなりません!!」
ガガは冷たく呟く。
「後々、創造主は邪魔になるからね…」
カチリ…。
乾いた金属音が静かな道場に響く。
再び、銃口が匠へ向けられる。
その時だった。
(ユ、ユルサナイ……)
ユグの声が、頭の奥で震えた。
ユグは、ジゼルが撃ち抜かれた事を重ね怒りに震えていた。
(ミンナヲ…キズツケルヤツ…)
匠の瞳が揺れる。
(駄目だ!! ユグ!!)
必死に止める。
(堪えてくれ!!)
だが、
ユグの声は、更に低くなる。
(イヤダ…。…⁉️)
空気が震えた。
(イヤナ“ネイロ”ダ……)
匠の背筋に悪寒が走る。
(オマエハ……クルナ……)
「ユグ……?」
その時だった。
イリアが、顔を強張らせた。
「……え?」
匠も息を呑む。
二人の視線は、ガガの背後へ向いていた。
ガガが眉をひそめる。
「……? どうした」
ゆっくり振り返る。
そして――
凍りついた。
そこに立っていたのは。
巨大な影。
仄暗く赤いオーラを纏った、圧倒的巨躯。
赤黒い瞳。
全身から立ち昇るオーラ。
まるで、
死神。
ジャカランダが、
無言で、ガガを見下ろしていた。
「……じゃ……」
ガガの顔が、恐怖に染まる。
「ジャカランダ……大王……!?」
その瞬間。
場の空気が、完全に凍り付いた――。
――つづく――




