表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/66

第63話 揺らぐ王都 ― 怒れる悪童と、二人の拳 ―

第63話

揺らぐ王都 ― 怒れる悪童と、二人の拳 ―

――モディアス王国・王宮――

王宮地下深部。

巨大な障壁制御装置の前で、激しい衝突音が響いていた。

ガギィンッ!!

「くっ……!!」

ジャワディーが歯を食いしばる。

目の前では、正気を失ったノブロコフ・トワイスキーが、鬼気迫る形相で杖を振り回していた。

「ぬぉぉぉぉぉっ!!」

老体とは思えぬ膂力。

杖を押さえ込むジャワディーの腕が軋む。

「な、なんて馬鹿力なんだ…!!」

ノブロコフの瞳には理性が無かった。

黒く濁った靄のようなものが瞳の奥で蠢いている。

完全に精神を侵食されているのだ。

「ぐぬぬぬぬ……!!」

杖が再び振り上げられる。

このままでは制御装置を破壊される。

ジャワディーは、一瞬だけ目を閉じた。

「……こうなったら」

低く呟く。

「じいさん、目覚めても後で恨むなよ」

次の瞬間、

ジャワディーは、握っていた杖を突然離した。

「ぬっ!?」

勢い余ったノブロコフが体勢を崩す。

そこへ――

ドゴォッ!!

ジャワディーは、鞘のまま剣を容赦なくノブロコフの腹部へ叩き付けた。

挿絵(By みてみん)

「ぐふぉぉっ……!!」

白髭を震わせながら、ノブロコフが崩れ落ちる。

杖が床を転がった。

そして、そのまま気絶する。

「……ふぅーっ」

ジャワディーは額の汗を拭った。

「やれやれ…だ……」

すぐさま制御装置へ向き直る。

そして――

カチッ。

障壁制御スイッチを押し込んだ。

――モディアス王国・森の中――

森を揺らす轟音。

遠方の空では、禍々しく変貌した《ヴァジェラ》が異様な威圧感を放っていた。

その姿を、《ヴァルテリオン》の傍らでルイスが見上げていた。

「早く……戻らないと……」

仲間達が戦っている。

アイザックも。

アンジュも。

王国軍も。

だが、

「……っ」

ルイスは頭を押さえた。

ズキズキとした嫌な感覚。

脳へ何かが入り込んでくるような不快感。

「何なんだ……この感じ……」

視線を巡らせる。

その時だった。

空の彼方。

王都上空に、禍々しい波紋を放つ巨大な杖が見えた。

「……あれか?」

直感だった。

あの杖が原因だと。

ルイスの瞳が鋭くなる。

「ヴァルテリオン――行くぞ!!」

蒼銀の機体が再び飛翔した。

空へ。

戦場へ。

――モディアス王国・上空――

ヴゥゥゥゥゥン――――。

王国全域へ、巨大な光の膜が展開される。

障壁が再起動したのだ。

アイザックが小さく息を吐く。

「……よし」

エンプレスが龍節棍を構える。

「これで外側からの侵攻は防げる」

だが、

「問題は――」

その瞬間だった。

 ドォォォォォンッ!!

赤黒い閃光がエンプレスの目前へ迫る。

変貌した《ヴァジェラ》だ。

さらに鋭くなった赤い爪。

蠢く無数の触手。

もはや以前の姿ではない。

怪物そのものだった。

ギギの狂った笑い声がコックピット内で響く。

「ヒャハハハハッ!!」

ヴァジェラの爪と触手が、暴風のように襲い掛かる。

しかし――

エンプレスは、それを紙一重で躱し続けていた。

最小限の動き。

流れるような回避。

まるで舞っているかのようだった。

「なぁに余所見してんだよォ!!」

ギギが叫ぶ。

「余裕カマしてんのか!? スカした兄ちゃん!!」

アイザックは、静かに微笑む。

「そうだね」

エンプレスの双眸が光る。

「君をどう“お仕置き”するか考えていたところだよ――坊や」

一瞬。

ギギの笑みが凍った。

「……ちぃっ!!」

顔が歪む。

「どいつもこいつも!!」

怒号。

「ガキ扱いしてんじゃねぇぇぇぇッ!!」

 ヴァジェラの猛攻が激化した。

赤い爪が空を裂く。

触手が嵐のように暴れ狂う。

だがアイザックは冷静だった。

(怒った)

内心で呟く。

(精神年齢が幼いタイプか……)

ならば。

崩せる。

――アラベスク・マウザー艦内・煌武館道場――

ドガンッ!!

ドガガガガガッ!!

道場の扉が激しく軋む。

外では、正気を失った兵士や門下生達が、狂ったように扉を叩いていた。

イリアは背中で扉を押さえながら叫ぶ。

「ちょっ……!! 何なのよ!もうッ!!」

衝撃で体が揺れる。

額に汗が流れる。

さらに頭痛。

ズキズキと脳を刺すような痛み。

「っ……!!」

イリアは頭を押さえた。

「この頭痛さえ無ければ……!!」

だが――

 バギィィィィンッ!!

ついに扉が砕け散った。

「うわっ……!!」

イリアは、衝撃で吹き飛ぶが受け身を取りつつジュリアの前で構え直す。

兵士達が雪崩れ込んでくる。

虚ろな瞳。

濁った声。

「“聖杯”を……」

「聖杯はどこだ……」

異様な光景だった。

ジュリアが怯える。

「イリア……!」

「大丈夫!!」

イリアが前へ出る。

「私が絶対守る!!」

拳を振るい、兵士を吹き飛ばす。

蹴りで薙ぎ払う。

だが数が多い。

次第に二人は道場の隅へ追い込まれていった。

その時だった。

――バタッ。

――ドサッ。

次々と兵士達が倒れていく。

「……え?」

 呻きながら崩れ落ちる群衆。

その向こうから、一人の男性が現れた。

「王女!!」

匠だった。

「匠様!!」

ジュリアの顔が一気に明るくなる。

イリアも目を見開いた。

「創造主…?」

匠は二人の前へ立つ。

「大丈夫ですか⁉️君も…。」

「頭がズキズキするのよ……」

イリアが苦しそうに額を押さえる。

「あなたは平気なの?」

「俺は……何ともない」

 匠は周囲を見回した。

「多分、広域精神操作だ」

 そして静かに言う。

「でも、アイザックさんが…お兄さんが何とかしてくれる」

その言葉に、イリアの表情が少しだけ和らぐ。

匠は、ジュリアを見て確信していた。

(王女も……ジャワディーさんも……そして俺も…)

(精神操作を受けてない)

つまり。

(“ハーティス”の血筋だからか……?)

その時。

再び兵士達が迫ってくる。

イリアが拳を構えた。

「……で?」

匠を見る。

「なんか頼り無さそうだけど、いけるの? 創造主」

匠が苦笑する。

「はは……何とかね」

イリアがニヤッと笑った。

「そんじゃ――頼りにさせてもらうわよ!!」

「ああ!!」

次の瞬間。

二人は同時に飛び出した。

匠の拳が唸る。

イリアの蹴撃が炸裂する。

完璧な連携。

初めてとは思えない呼吸。

兵士達が次々と倒れていった。

 バタッ!!

 ドサッ!!

「はぁ……はぁ……」

イリアが息を吐く。

「結構やるじゃない……」

匠も構えを解かない。

「アイザックさんの修行のお陰かな」

その横顔を見て、イリアは僅かに目を細めた。

(何なの……この人)

あれだけ動いて。

あれだけ戦って。

息一つ乱れていない。

(本当に……ただの創造主なの?)

その時、

『タクミ!!』

ユグの声が響く。

『マダマダクルヨ!!』

倒れた兵士達を踏み越え。

さらに大量の群衆が、道場へ押し寄せてきていた。

まるで終わりのない悪夢のように――。

挿絵(By みてみん)

――つづく――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ