第61話 蒼銀の獣王 ― 雷鳴の一撃と聖杯の在りか ―
第61話
蒼銀の獣王 ― 雷鳴の一撃と聖杯の在りか ―
――モディアス王国・上空――
轟音が響く戦場。
黒煙に覆われた空域の中。
一頭の“蒼銀の獅子”が、岩山の頂へ降り立っていた。
全身を走る蒼白い雷光。
蒼銀の鬣。
鋭利な牙と爪。
神獣の如き威圧感を放ちながら、生まれ変わった巨大な獅子は、上空の《ゲネル》を睨み据える。
「ライオンに変形しやがった……」
“コックピット”内部。
ギギが歪んだ笑みを浮かべる。
だがその額には、明確な焦りが滲んでいた。
一方。
蒼銀の獅子の内部で、ルイスは目を見開いていた。
「……すごい……」
周囲へ広がる感覚。
獣のように鋭くなった知覚。
空気の流れすら理解できる。
「これが……匠達の言っていた機能……!」
遠方では。
《エンプレス》が戦闘を続けながら笑っていた。
「ははっ、まったく」
アイザックが肩をすくめる。
「“創造主様”には、本当に驚かされるよ」
その隣空域。
《シルヴィアンジュ》を操るアンジュも、口元を緩めていた。
「蒼銀の獅子かぁ……」
感嘆混じりに呟く。
「カッコいいじゃない!」
その時。
ルイスのコックピットへ通信が入った。
『ルイス、聞こえるかの?』
「ココルさん!」
ノイズ混じりの通信。
だが、その声はどこか嬉しそうだった。
『《ヴァルガレオン》――それが、その形態の名じゃ』
「ヴァルガ……レオン……」
ルイスが静かに呟く。
『うむ!』
ココルが誇らしげに続ける。
『通常形態のヴァルテリオンは、《レオンハンマー》による重打撃特化型』
だが、と声色が変わる。
『ヴァルガレオン形態は違う』
グァルルルゥーーーゥッ
蒼銀の獅子が低く唸る。
『獣の俊敏性を極限まで高めた、高速近接殲滅形態じゃ!!』
ギギの目が細まる。
『その牙と爪には、“プラーバ超鋼”を使用しておる!』
「プラーバ……超鋼……?」
『通常のプラーバ鋼を幾重にも積層圧縮した超高密度鋼じゃ!』
ココルが叫ぶ。
『《ヴァジェラ》の赤い爪にすら対抗可能な硬度を持っとる!!』
ルイスの瞳が見開かれた。
さらに。
『そして――』
ココルの声が低くなる。
『ヴァルガレオンの牙と爪で受けた箇所は、“分子レベルで分解”される』
「……っ!」
『つまり、“能力そのもの”を無効化する』
ギギの顔色が変わる。
『“スキルキャンセル”機能付きじゃ』
その言葉に、アイザックすら息を呑んだ。
再生能力。
特殊能力。
異能。
その全てを、封じる。
まさに。
“怪物殺し”の力。
だが。
『ただし』
ココルが静かに告げる。
『その効果は“一分”が限界じゃ』
「……一分」
ルイスが呟く。
『その一分に』
ココルの声が、優しくなる。
『お前さんの誇りを懸けろ』
そして、
『国と、父上の仇を――討ってこい!!』
その瞬間、
ルイスの瞳から、涙が零れ落ちた。
「……ありがとうございます」
静かに涙を拭う。
そして、
真正面から《ゲネル》を見据えた。
「行こう――《ヴァルガレオン》!!」
蒼銀の獅子が咆哮する。
対するギギも狂ったように笑った。
「おもしれぇぇぇ!!」
《ゲネル》が無数の触手を解き放つ。
空を埋め尽くす触手攻撃による暴風の槍。
しかし、
ヴァルガレオンは、消えた。
「なっ!?」
超高速機動。
獣のような跳躍。
触手の隙間を縫うように駆け抜け、《ゲネル》の背後へ回り込む。
そして――
ガブゥゥゥッ!!
首元へ牙が突き刺さった。
「なにぃっ!?」
さらに、
黄金の爪が、触手を次々切断していく。
斬られた断面は、蒼白いエネルギーの膜に覆われていた。
再生が、始まらない。
「くそぉっ!再生しねぇっ!!」
ギギが絶叫する。
触手の動きが鈍る。
再生能力停止。
スキルキャンセル発動。
その瞬間だった。
「―今だ」
ヴァルガレオンが、再び変形を開始する。
蒼銀の光。
高速分離。
再構築。
そして、
《ヴァルテリオン》が、《レオンハンマー》を振り上げていた。
ギギの目が見開かれる。
「……っ!!」
ルイスが叫ぶ。
「父上と!!」
蒼白い雷光が迸る。
「祖国の民達の無念――!!」
《レオンハンマー》が雷を纏う。
「ここで晴らさせてもらうッ!!」
振り下ろされる。
超重量打撃。
蒼雷。
そして獅子の咆哮を宿した一撃。
ガゴォォォォォォォンッ!!!!
空間をも歪ませる雷鳴如き一撃が《ゲネル》の胸部に炸裂した。
漆黒の巨体が、内側から爆ぜた。
装甲が裂ける。
触手が吹き飛ぶ。
黒煙を撒き散らしながら、《ゲネル》は地上へ墜落していった。
「ギャァァァァァァッ!!?」
ギギの絶叫が、空へ消える。
ババジャ「ギギがやられおった…」
「ギギよ、聞こえるか?」
地上へ落ちた《ゲネル》に、応答はなかった。
静寂。
そして。
アイザックが、静かに笑った。
「うん」
《エンプレス》が構え直す。
「まずは、一機……かな」
その瞬間だった。
シュゥゥゥゥゥン……
王都を覆っていた巨大障壁が、消滅を始めた。
「なにっ!?」
ココルが叫ぶ。
「誰じゃ!! 障壁を解いたのは!!」
――モディアス王国・中央制御区――
「くっ……!!」
ジャワディーが必死にノブロコフを押さえ込んでいた。
だが、
洗脳されたノブロコフの手が、障壁制御スイッチを押してしまう。
「おい!!じいさん!大人しくせんか!!」
その時。
戦場上空で。
ガガの瞳が細められた。
「……今だ」
次の瞬間。
《ヴァジェラ》が動いた。
超高速。
赤い閃光。
一直線に《ヴァルテリオン》へ襲い掛かる。
「ルイス君ッ!!」
アイザックが叫ぶ。
だが、
一機の量産型ネンドールが、咄嗟に割り込んだ。
ズガァァァァンッ!!
赤い爪が、量産機を貫く。
「……っ!!」
ルイスが息を呑む。
破壊された量産機が、そのまま王都へ落下していく。
争い続ける民衆の真上へ。
「まずい!!」
ルイスが叫ぶ。
「このままじゃ、民達が……!!」
ヴァルテリオンが急降下。
落下する量産機を抱き抱える。
だが、
勢いは止まらない。
そのまま森の中へ消えていった。
轟音。
土煙。
そして、
量産機から投げ出された兵士へ、ヴァルテリオンから降りルイスが駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
肩を貸す。
「怪我は――」
「ああ……ありがとう」
「…くくくくぅ…」
兵士が笑った。
「この時を……待っていたよ」
「……え?」
その瞬間。
ビリィィィィィィッ!!
「がぁぁぁっ!!?」
強烈な電撃。
ルイスの身体が痙攣する。
目の前の兵士。
それは、
モディアス王国兵へ変装したガガだった。
ルイスが崩れ落ちる。
「お、…お前は…?」
「捕縛した量産機を利用させてもらったよ。」
ガガが冷たく呟く。
そして、
気絶したルイスの袖を捲り上げる。
露出した“スコープ”。
そこへ、手を当てた。
《モディアス王国の秘宝――“聖杯”は、どこに在る?》
その瞬間。
ガガの脳裏へ、映像が流れ込む。
戦艦。
その艦内。
イリアと共にいる、ジュリアの姿。
ジュリアの胸が淡く光る。
ガガの目が見開かれた。
「……そうか」
口元が歪む。
「そういう事だったのか……」
そして、
低く笑った。
「はは……はははは……!!」
歓喜。
確信。
「“聖杯”は――」
ガガが呟く。
「モディアス王国の王女……!!」
次の瞬間。
ガガは、戦艦停泊区域へ向かって駆け出した。
世界を“書き換える”ために――
――つづく――




