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第60話 獅子覚醒 ― 王都侵食と、蒼の咆哮 ―

第60話

獅子覚醒 ― 王都侵食と、蒼の咆哮 ―

――モディアス王国・中央整備ドック―― 

激しい警報音が、ドック全体へ鳴り響いていた。

その中でココルと匠は、新型二機を完成させるべく、奔走していた。

「よし! 《メテオール・リンクス》とD.L.Sの同期接続、完了じゃ!!」

巨大端末を操作しながら、ココルが汗を拭う。

だが次の瞬間。

「……ん?」

ふと、外を見た。

「何やら“外”が騒がしいのぉ……」

その声音に違和感を感じ、匠もドック外へ視線を向ける。

そして――絶句した。

「……なんなんだよ…これ……」

王都中で、人々が争っていた。

怒号。

悲鳴。

殴り合い。

剣を振るう兵士。

泣き叫ぶ子供。

老人同士ですら、掴み合いを始めている。

まるで、

王国全体が狂気に呑まれ始めていた。

「どうしたっていうんだ……!」

匠の顔が険しくなる。

その時だった。

「う……うぅぅぅ……」

「……ココル?」

異変に気付く。

ココルの表情が歪んでいた。

瞳が黒く濁り始めている。

次の瞬間――

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

ココルが巨大スパナを振り上げ、匠へ襲い掛かった。

「うわっ!?」

匠が咄嗟に回避する。

轟音。

床が砕ける。

「ココル!! どうしたんだよ!?」

だが、ココルは苦しそうに頭を押さえながら唸るだけだった。

その時、

匠の脳内へ、幼い声が響く。

《タクミ……》

「ユグ!?」

《マチジュウノ ミンナカラ……“クロイネイロ”ガキコエル……》

匠の表情が変わる。

「黒い……音色……?」

その瞬間。

通信機へノイズ混じりの声が飛び込んできた。

『だ、誰かいるか!?』

ジャワディーだった。

『応答してくれ!!

こ、こら!

じいさん!!何をする⁉️

や、止めるんだ!』

背後で破壊音が響く。

匠は即座に通信へ叫んだ。

「匠です!!こっちもココルの様子が……うわっ!!」

再びスパナが振り下ろされる。

「危なっ……!!」

『そっちもか!?』

ジャワディーの声が焦る。

『こちらもノブロコフのじいさんが突然暴れ出した!!』

「たぶん敵の……広域精神操作だと思います!」

『なんだと⁉️』

さらに外から悲鳴が響く。

『王都中の人間が暴れている!!』

ジャワディーが叫ぶ。

『このままでは王国は内側から崩壊してしまうぞ!!』

そして。

一瞬、声色が変わった。

『……ジュリアとイリアも心配だ…』

その言葉に、匠の瞳が鋭くなる。

「俺が助けに行きます!」

『何か方法があるのか!?』

匠は静かに頷いた。

「……はい」

ルイスへ行った“浄化”。

あれなら。

助けられる。

『……分かった』

ジャワディーが息を飲む。

『頼んだぞ、匠君!!』

「はい!!」

通信が切れる。

匠は、暴れるココルを後ろから腕ごと抱き締めた。

「ぐっ……!!」

凄まじい力。

だが離さない。

(ユグ……頼む!!)

《ウン!!》

その瞬間。

匠とココルの身体が、仄かに蒼く発光した。

優しい光。

温かな波動。

すると、

ココルの身体から、黒い靄がゆっくり浮かび上がる。

ドロドロとした、禍々しい気配。

それが蒼い光へ触れた瞬間――

 ジュゥゥゥ……!!

黒霧が、消滅した。

挿絵(By みてみん)

「……っ!」

ココルの瞳から漆黒が消える。

そして、

「な、なんじゃ……?」

困惑したように周囲を見回した。

「ワシは……一体……」

匠が、安堵の息を吐く。

「よかった……」

《ココルハ モウダイジョウブ》

ユグの声が響く。

《アバレタリ シナイヨ!》

ココルが、息を呑む。

「今のは……」

「敵の精神操作だと思う」

匠は即座に振り返る。

「俺、王女達を助けに行く」

ココルが目を見開く。

「お、お前さん一人で行く気か!?」

「ココルはここにいて」

匠が真っ直ぐ言う。

「誰も、このドックへ近付けないで」

ここには。

 《メテオール》。

そして“最後の切り札”がある。

絶対に守らなければならない。

ココルは、強く頷いた。

「……分かった。あと、これを付けとけ。」

ココルは、匠にインカムを渡した。

そして、スパナを握り直す。

「気を付けるのだぞ!!」

「ああ!!」

匠は勢いよく整備ドックを飛び出した。

狂乱に染まる王都へ――

――モディアス王国・上空――

その頃。

 《マデュエリ》上空。

ババジャが、障壁の上で不気味に笑っていた。

「ヒィッヒッヒッ……」

王都を見下ろす。

「よぉ暴れておるわ……」

紫色の波紋が、王都内部へ侵食していく。

「あとは障壁の解除を待つのみ……」

「そこから離れなさいよッ!!」

紅い閃光。

 《シルヴィアンジュ》が突撃する。

だが、

マデュエリは滑るように回避した。

「ヒィッヒッ」

ババジャが笑う。

「これでようやく……ゆっくりお前さんの相手が出来るわい」

「くっ……!」

アンジュが歯を食い縛る。

――

一方。

別空域。

 《ヴァルテリオン》は苦戦を強いられていた。

無数の触手。

死角からの連撃。

 《ゲネル》の攻撃が、ヴァルテリオンを追い詰めていく。

「ヒャァッヒャッ!!」

ギギが狂ったように笑う。

「さっきの威勢はどうしたァ!? この俺を砕くんじゃなかったのかよォ!!」

「くっ……!!」

ルイスが操縦桿を握り締める。

ガギィィィィン!!

激突。

その衝撃で、

レオンハンマーが弾き飛ばされた。

「しまった!!」

次の瞬間。

大量の触手がヴァルテリオンへ絡み付く。

首。

腕。

脚。

完全拘束。

「ヒャハハハハ!!」

ギギが歓喜する。

「これで終わりだァ!!」

一本の触手が、真っ直ぐヴァルテリオンの胸部に迫る。

「コックピットごと貫いてやるよォ!!」

一直線に射貫かれる死。

ルイスが歯を食い縛る。

「くそぉ……!」

その時だった。

脳裏に、ココルの声が蘇る。

『よいか、ルイス』

優しい声。

『本当にピンチになった時は、“上のレバー”を思い切り手前に押すんじゃ』

「……上?」

ルイスが視線を上げる。

そこには、

蒼銀色のレバーがあった。

「これか……!!」

ルイスは、力強くでレバーを手前に押し込む。

その瞬間。

 ガオォォォォォォォンッ!!

背後の白獅子エンブレムが、咆哮を上げ蒼い瞳が、眩く発光した。

ギギが笑う。

「ヒャァッヒャ!! 何したって無駄なんだよ――!」

その瞬間だった。

地上へ落下していたレオンハンマーが、突如蒼白い雷を放ち飛んできた。

 バチバチバチバチッ!!

次の瞬間。

絡み付いていた触手が、次々と断ち切られる。

「なっ!?」

さらに、

ヴァルテリオンの全身が、分離を始めた。

ガシャァァァン!!

各部パーツが高速変形。

蒼銀の光を放ちながら、レオンハンマーを中心に再構築されていく。

ルイスの目が見開かれる。

「こ、これは……!!」

変形。

再構築。

融合。

そして――

岩山の頂へ、一頭の巨大な蒼銀の獅子が姿を現した。

鋭い牙。

黄金の爪。

蒼銀の鬣。

全身を走る蒼雷。

神獣のような威圧感。

「な、何なんだよォ……アレ……!?」

ギギの顔から笑みが消える。

その時。

蒼銀の獅子が。

天へ向かって、雄叫びを上げた。

 ガオォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

その咆哮は、

まるで王国へ告げる希望の産声のように、戦場全域へ響き渡った――

挿絵(By みてみん)

――つづく――


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