第58話 蒼銀の獅子 ― 砕けぬ誇りと、静観する赤い爪 ―
第58話
蒼銀の獅子 ― 砕けぬ誇りと、静観する赤い爪 ―
――モディアス王国・上空――
轟音が、空を埋め尽くしていた。
爆炎。
黒煙。
交錯する光弾。
王国上空では、既に全面戦争が始まっている。
量産型ネンドール部隊が必死に防衛線を維持する中、無数のデクノイドが黒い津波のように王都へ押し寄せていた。
その最前線。
コックピットの内部で、ギギが狂気じみた笑みを浮かべる。
「ヒャハッ!!」
両腕を広げる。
「さぁて――いっちょ遊んでやるかァ!!」
次の瞬間。
大量のデクノイド群が、一斉に王都へ向かって加速した。
黒い群れ。
空を覆い尽くす圧倒的物量。
だが――
「行かせない」
その前へ、蒼銀の閃光が割って入る。
蒼銀の装甲。
重厚なシルエット。
巨大な大鎚を構えた、新たなるネンドール。
《ヴァルテリオン》。
そのコックピット内で、ルイスが真っ直ぐ前を見据えていた。
「お前の相手は……私だ」
静かな声音。
だが、その奥には燃え上がる怒りがあった。
ギギが、愉快そうに目を細める。
「へぇ~? 俺と遊んでくれんのかよ、クソガキィ!!」
ヴァルテリオンが、大鎚レオンハンマーを構える。
ルイスの瞳が鋭く細まった。
「――《獅子大鎚剛打術》」
力強く、言い放つ。
「お前に叩き込んでやる!!」
その瞬間。
ギギが爆笑した。
「バァーカ!!」
周囲を埋め尽くすデクノイド群を指差す。
「こんだけ囲まれて、そんなデカいトンカチでどう戦うっつうんだよっ!!」
指を鳴らす。
「やれ!! デクノイドォ!!」
無数の異形兵器が、一斉にヴァルテリオンへ襲い掛かった。
四方八方から迫る爪。
砲撃。
普通なら回避不能。
だが。
ルイスは、一切動じなかった。
「バカは、お前だ」
ヴァルテリオンが、《レオンハンマー》の柄の末端を握る。
そして――回した。
ゴォォォォォォッ!!
巨大な大鎚が、常識外れの速度で高速回転を始める。
ヴァルテリオンは、周囲から迫る攻撃を弾き返す。
蒼銀の残光が空間を裂いた。
ギギが眉をひそめる。
「……は?」
次の瞬間だった。
ヴァルテリオンを中心に、蒼い衝撃波が解き放たれる。
ドォォォォォンッ!!
「なっ――!?!?」
ギギの目が見開かれた。
超高速回転によって生み出された念導エネルギー波。
それは周囲一帯を巻き込む破壊の奔流となり、突撃してきたデクノイド群を一瞬で粉砕した。
装甲が砕け散る。
異形の体躯が潰れる。
黒い破片が、空中へ爆散していく。
「ま、マジかよぉっ!!?」
ギギの声が響く。
ヴァルテリオンが、一歩前へ出た。
蒼銀の双眸が、ギギを射抜く。
「今度は――お前が砕かれる番だ」
その姿はまるで。
怒れる白獅子そのものだった。
――
一方。
少し離れた空域では。
《シルヴィアンジュ》が、紅い軌跡を描きながら戦場を駆け抜けていた。
アンジュは、双剣を縦横無尽に振るいながら、デクノイドを次々と斬り裂いていく。
爆発。
閃光。
敵機の残骸が、燃えながら地上へ落下していった。
その最中。
アンジュは、遠くで戦うヴァルテリオンを見ていた。
「へぇ……」
口元が、僅かに緩む。
「やるじゃない、ルイス」
以前の怒りと悲しみに満ちていた王子ではない。
今のルイスには、確かな“戦士”としての覚悟があった。
だが、その瞬間。
「よそ見しおってぇ!!」
不気味な怒声。
妖艶な女性型ネンドール《マデュエリ》が、黒い杖を振るう。
アンジュは即座に双剣で受け流した。
ギギギギィィィンッ!!
火花が散る。
通信モニターの向こうで、ババジャが不気味に笑っていた。
「余裕のつもりかえ、小娘ぇ?」
アンジュは、ため息混じりに肩をすくめる。
「お年寄りには優しくしなさいって教わってるのよねぇ」
ニヤリと笑う。
「アンタは別だけど」
「ほぉぉぉんに憎たらしい娘じゃ……!」
ババジャの顔が歪む。
だが次の瞬間。
老婆は、不意に目を細めた。
「……ほんに、“あの”小娘がよう大きくなったわい」
アンジュの動きが止まる。
「……え?」
眉をひそめる。
「何、それ」
ババジャは、意味深に笑っていた。
「あの戦争でよく生き残れたのぉ…。」
アンジュの胸がざわつく。
「……私の何を知ってるの?」
声が低くなる。
「教えなさいよ!!」
だが。
ババジャは、ヒヒヒと不気味に笑うだけだった。
「さぁのぉ……」
その笑みはまるで。
過去の全てを知っている者の顔だった。
――
さらに上空。
漆黒の巨兵の前では。
《エンプレス》が、圧倒的な武技を見せていた。
龍節棍が唸る。
高速連撃。
円舞のような棍術。
周囲のデクノイドが、次々と破壊されていく。
爆炎が空を染める中、アイザックは軽く息を吐いた。
「……三十体は倒したかな」
そして。
目の前を見据える。
そこには。
腕を組んだまま、一歩も動かない《ヴァジェラ》がいた。
黒き巨兵。
不気味なほど静かな佇まい。
アイザックの瞳が細くなる。
(大軍勢を率いて来たにも関わらず……)
違和感。
(“大将”が動かない……?)
余裕なのか。
それとも――やはり“スコープ”が狙いなのか。
直感が、警鐘を鳴らしていた。
その時だった。
近くにいた量産型ネンドールのパイロットが、震えた声を漏らす。
『な、なんだ……この圧力……』
『息が……苦しい……』
空気が重い。
まるで、
そこだけ世界が沈み込んでいるかのようだった。
だが、
アイザックだけは、笑っていた。
「なるほど……」
静かに呟く。
「ようやく、本気を出してくれるのかな?」
エンプレスが、ゆっくり構えを取る。
「なら――こちらも」
その瞬間。
ヴァジェラが。
ゆっくりと腕組みを解いた。
ゾクリ――。
戦場全体へ、悪寒が走る。
災厄が…。
今まさに、目を覚まそうとしていた。
しかし、
アイザックは、一歩も引かない。
むしろ、楽しげに微笑む。
「では、こちらもちょこっと本気を出してみよう……!」
アンジュが、敵の攻撃を捌きながら叫ぶ。
「はぁ!? いきなり奥義!?」
アイザックは静かに目を閉じた。
「――奥義」
エンプレスの全身から、翠色の念導光が噴き上がる。
空間が震える。
次の瞬間――
「《龍昇虎巌》」
ブゥゥゥゥゥゥンッ――!!
エンプレスの背後に、巨大な龍と虎の形をしたオーラが浮かび上がった。
さらに、
エンプレス本体から分離するように、翠色のエネルギー分身体が形成される。
『龍虎の型』
龍と虎。
本体と幻身。
空全体が、巨大な武の気配に包まれた。
アイザックが、静かに笑う。
「さあ――いくよ」
その瞬間、
エンプレスが、消えた。
――つづく――




