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第56話 『開戦 ― 白獅子、蒼空へ舞う ―』

第56話

『開戦 ― 白獅子、蒼空へ舞う ―』

――モディアス王国・中央整備ドック――

甲高い警報音が、王国全域へ響き渡った。

ブォォォォォン――!…ブォォォォォン――!

赤い警告灯が激しく明滅する。

整備兵たちが一斉に走り出し、ドック内の空気が張り詰める。

そして――

王国中へ響くジャワディーの声。

『全戦力へ通達!』

『ネンドール型三体、デクノイド多数を確認!』

『敵軍はモディアス王国上空へ接近中!』

『直ちに迎撃体制を取れ!!』

『繰り返す――』

その放送を聞きながら、ココルは額を押さえた。

「分かっておったが、なんともまあ悪いタイミングじゃのう……」

目の前には新型機2体の設計図。

匠も険しい表情でモニターを見つめる。

敵襲。

予想より早い。

しかし――

予感は当たった。

「やっぱり来た……」

匠が呟く。

ルイスは静かにモニターを見つめたままだった。

そして、

完成したばかりの白銀のネンドールを持つ。

「匠」

「ココルさん」

二人が振り返る。

ルイスの瞳には、もう迷いは無かった。

「私が時間を稼ぎます」

「だから――」

ヴァルテリオンを胸に抱く。

「残りの二体を完成させてください」

ココルが眉を上げる。

「王子よ」

「無茶をするなよ」

だがルイスは微笑んだ。

「大丈夫です」

「もう私は一人ではありませんから」

その言葉に匠も小さく笑った。

「分かった」

「でも約束して」

「絶対に無茶はしないこと」

ルイスは力強く頷く。

「はい!」

そして駆け出した。

白銀の相棒を抱いて。

決戦の空へ向かうために。

――旗艦アラベスク・マウザー・煌武館道場――

静かな道場。

その空気を破るように扉が開いた。

アイザックだった。

「イリア!」

声を掛ける。

イリアは即座に立ち上がった。

「敵?」

「ああ、来たよ。」

アイザックは頷く。

そして隣に座るジュリアを見る。

「ジュリア王女を頼んだ」

イリアは迷わなかった。

「任せて」

強く拳を握る。

「絶対に守るから…」

その言葉には、一切の迷いが無い。

アイザックは微笑んだ。

「頼んだよ…。」

そして踵を返す。

去り際。

ジュリアへ視線を向けた。

「大丈夫」

「僕達がいる」

短い言葉。

だが、それだけで十分だった。

ジュリアは静かに頷く。

アイザックはそのまま走り出した。

王国最強の武漢。

エンプレスの待つ格納ドックへ。

――モディアス王国・格納ドック――

出撃準備が進む中。

一人の青年が姿を現した。

真新しいパイロットスーツ。

ルイスだった。

「お待たせしました!」

アンジュが振り返る。

「おっ」

「意外と似合うじゃない」

アンジュが辺りを見回す。

「あれ?」

「匠は?」

ルイスが答える。

「匠は、ココルさんと残ります」

「新型を二機創るそうです」

アンジュは目を丸くした。

「まだ創るの?」

「私達四機で充分じゃない?」

ルイスは少しだけ考える。

そして答えた。

「匠は……何かを感じたんだと思います」

アンジュは黙った。

ルイスの眼差しを見て、アンジュは、理解した。

軽視は出来ない。

「そう」

小さく呟く。

そしてルイスを見る。

「行ける?王子!」

ルイスは迷わず答えた。

「私はもう王子ではありません」

拳を握り自らの胸に当てた。

「今は一人の戦士」

「ルイス・ハーゼン…」

真っ直ぐ前を見る。

「誰にも」

「私と同じ想いをさせたくありません!」

アンジュは口元を緩めた。

「上出来!」

そして親指を立てる。

「それじゃ行くよ」

「ルイス!」

「了解!」

二人はポッドへ乗り込んだ。

ルイスはコックピットへ座った瞬間、驚きに目を見開いた。

「これは……!」

懐かしい。

ジョルドブルンクス王国の操縦席と酷似していた。

その時、

通信回線が開く。

『どうじゃ?』

ココルだった。

『操縦席は慣れた方がええと思っての』

『完全ではないが近い形にしておいた』

ルイスの胸が熱くなる。

「ありがとうございます……!」

震える声で礼を言う。

そして頭の包帯を外した。

操縦桿中央。

そこへ模型サイズのヴァルテリオンをセットする。

カチリ――

嵌まる。

瞬間。

蒼銀の光が溢れ、白獅子の模様が浮かび上がった。

挿絵(By みてみん)

「行こう!」

ルイスは静かに呟く。

「ヴァルテリオン」

轟音。

ポッドが浮上する。

蒼銀の粒子を撒き散らしながら。

ヴァルテリオンは空へ舞い上がった。

「私達も行くよ!」

アンジュも続く。

「シルヴィ!」

赤い光が弾ける。

二機は並び立ち。

蒼空へ飛び立った。

――モディアス王国上空――

高空。

雲海の上。

既にネンドール達が待機していた。

陽を受け輝く翠の女帝。

《エンプレス》。

そして王国量産機部隊。

アンジュが通信を開く。

「ごめん!」

「待った?」

アイザックが苦笑する。

「少しだけね」

そして視線を白銀の機体へ向けた。

「それがルイス君のネンドールか」

「はい」

「ヴァルテリオンです」

アイザックは静かに頷いた。

そして周囲を見回す。

「匠君は?」

アンジュが答える。

「嫌な予感がするんだって」

「追加で二機創るらしいわ」

アイザックの表情が僅かに曇った。

(やはり……)

同じだった。

彼自身も感じている。

この戦い。

何かがおかしい。

その時だった。

ルイスが叫ぶ。

「来ます!!」

全員が空を見上げる。

太陽。

その眩い光を背負うように。

無数の黒点が現れた。

一つ。

二つ。

十。

百。

数え切れない。

黒い群れ。

デクノイド軍団。

そして。

その先頭に立つ三つの巨大な影。

圧倒的威圧感。

絶望を運ぶ漆黒の軍勢。

ジャカランダ軍。

挿絵(By みてみん)

遂に。

モディアス王国へ到達した。

陽光が隠れる。

世界が暗くなる。

静寂。

そして――

戦争の幕が上がる。

モディアス王国の命運を懸けた決戦が。

今、始まろうとしていた。

――つづく――

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