表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
52/64

第52話 契約 ― 奈落へ堕ちた“兄弟” ―

第52話

契約 ― 奈落へ堕ちた“兄弟” ―


――遥か宙域・巨大戦艦《黒帝》整備ドック――

赤黒い照明が、無機質な鋼鉄の壁を不気味に照らしていた。

空気は熱い。

だが、その熱は“生命”のものではない。

魔道の光。

蒸気。

駆動音。

まるで巨大な怪物の臓腑の中にいるようだった。

その中心に――

三体のネンドールが並び立っている。

《ヴァジェラ》

《ゲネル》

《マデュエリ》

どれも常識外れの威圧感を放つ異形。

その機体の最終調整を行っている男がいた。

ガガ。

無数のモニターを睨みながら、淡々と調整を続ける。

その背後から、足音が近づいた。

「……兄貴」

低い声。

振り返らずとも分かる。

ギギ――

ガガは、手を止めなかった。

静かな声。

(ぎん)、次の戦闘で、俺達の状況は一変する」

整備アームが火花を散らす。

「モディアス王国……そして“創造主”」

低く呟く。

「あれが最後の壁になるだろう」

ギギは、黙って聞いていた。

ガガは、ようやく振り返る。

その目には、かつての“兄”の面影がまだ残っていた。

「お前はプロゲーマーだ…」

ギギの目が僅かに揺れる。

「チーム戦は得意だろ」

「……」

「次の戦い、陣頭指揮はお前が取れ」

静かな命令。

だが、その声には確かな信頼があった。

「頼むぞ」

短い沈黙。

そして――

ギギは、小さく笑った。

「ああ……分かったよ」

かつての呼び名を、口にする。

(がく)兄ぃ」

その言葉に、ガガはほんの僅かだけ目を細めた。

ガガは、巨大な《ヴァジェラ》を見上げる。

「そして――」

目の奥に、黒い執念が灯る。

「“聖杯”を手に入れて……」

拳を握る。

「世界を書き換える」

――その言葉を境に。

意識は、過去へ沈んでいく。

◇ ◇ ◇

――現代日本・半年前――

夜の山道を、一台の黒い高級スポーツカーが滑るように走っていた。

街灯は少ない。

挿絵(By みてみん)

あるのは、ヘッドライトが切り裂く細い道路と、深い闇だけ。

車内には、低く流れるエンジン音。

そして――

(ぎん)、もうすぐ卒業だったな」

運転席の男が、前を見たまま口を開いた。

「進路は決めてるのか?」

助手席。

そこには、足を投げ出すように座り、小型ゲーム機を操作する少年がいた。

金髪の無造作な髪。

鋭い目付き。

落ち着きのない指。

石動 いするぎ・ぎん

挿絵(By みてみん)

高校三年生。

だが、その名は既にゲーム業界では知られていた。

国内大会優勝。

世界ランカー。

天才プロゲーマー。

――ただし。

「はぁ?」

画面から目も離さず、犾は鼻を鳴らす。

「卒業してからもプロでやるに決まってんじゃん」

カチカチと高速でボタンを叩く。

「つーか、“(がく)兄ぃ”の会社がスポンサーになってくれりゃ一番助かるんだけどなぁ」

次の瞬間。

「……あ゛ーーッ!!」

ゲーム機を叩きそうな勢いで叫んだ。

「クソッ!なんだコイツ!っんと使えねぇ!!」

舌打ち。

「こんなんだから負けんだよ……マジでチームから外してぇ……」

運転席の男――石動 いするぎ・がくは、小さく息を吐いた。

「先の見えないものに投資する趣味はない」

低く、冷たい声。

犾が不満げに眉を吊り上げる。

「はぁ!? 今度の世界大会で優勝したら手のひら返すなよっ!」

「……言ってろ」

咢は、僅かに笑った。

だが、その笑みはどこか疲れていた。

石動 嶽。

挿絵(By みてみん)

父親から引き継いだ倒産寸前の企業を、たった数年で立て直した男。

強引な買収。

冷酷な人事。

利益最優先。

その苛烈さから、“氷血の帝王”とも呼ばれていた。

だが。

その裏には――

常人では耐えられないほどの重圧と責任があった。

プルルルル……

その時。

車内に、スマートフォンの着信音が響く。

嶽の眉が動いた。

「……誰だ」

ディスプレイを見る。

会社からだった。

舌打ちしながら通話ボタンを押す。

「どうした。今日は誰とも繋ぐなと言ったはずだが」

『も、申し訳ありません社長……!』

電話越しの声は、明らかに動揺していた。

『緊急事案でして……』

「……話せ」

『ITS社買収の件ですが……白紙になりました』

――沈黙。

空気が凍る。

「……は?」

嶽の声が低くなる。

「何を言っている」

『そ、それが――』

電話の向こうがざわつく。

そして。

別の声が割って入った。

『……私だよ、石動社長』

嶽の目が見開かれる。

「……副社長?」

『買収は、こちらで止めた』

淡々とした声。

感情がない。

『それと――次回株主総会で、君の社長解任案が可決される予定だ』

犾の指が止まる。

車内の空気が、一瞬で変わった。

「……ふざけるな」

嶽の声が震える。

「誰のおかげで会社がここまで立ち直ったと思っている……!」

『君はやり過ぎたんだよ』

冷たい返答。

『無慈悲な“やり方”では、人はついて来ない』

「……っ!」

『もう君の居場所は無いと思ってくれ。』

ブツッ――

通話が切れる。

車内に、沈黙だけが残った。

「…………」

嶽は、何も言わなかった。

だが。

握り締めたハンドルが、ギシリと音を立てる。

血が滲むほど強く。

「……ふざけるな……!」

低く漏れる声。

「ここまで……どれだけ犠牲にして来たと思ってる……!

呼吸が荒い。

「俺が全部背負ったんだぞ……!」

犾が、初めて兄を見る。

そこにいたのは。

いつもの冷徹な兄ではなかった。

追い詰められた、一人の男。

その時だった。

前方。

闇の中に――

突如、巨大な“光”が現れた。

「――っ!?」

パァァァァァァァァッン!!

耳をつんざくクラクションの音。

視界を焼く閃光。

犾が叫ぶ。

「兄貴ッ!! 前ぇ!!」

嶽は反射的にハンドルを切った。

だが。

切りすぎた。

ガシャァァァァン!!

ガードレールを突き破る。

浮遊感。

そして――

車体が、崖下へ落ちていく。

世界が回転する。

犾の叫び。

金属の軋み。

砕けるガラス。

そして。

闇。

――――――

冷たい。

最初に感じたのは、それだった。

嶽は、ゆっくり目を開ける。

「……ここは……」

知らない場所だった。

赤黒い鋼鉄の巨大空間。

異様に冷えた空気。

鼻を刺す鉄と血の匂い。

身体を起こそうとした瞬間、激痛が走る。

「……ッ!」

だが。

動く。

「犾……!」

隣を見る。

そこには、倒れた弟の姿。

「おい!! 起きろ!!」

肩を掴む。

すると。

「……ん……」

犾が、ゆっくり目を開けた。

「……痛ってぇ……」

生きている。

嶽が安堵しかけた、その時だった。

――ゾクリ。

背後から、異様な気配。

咢は振り向く。

そこにいたのは。

杖を持つ、フード姿の老婆。

その奥。

巨大な玉座。

そして――

そこに座る、一人の男。

漆黒の外套。

鋭すぎる眼光。

王のように。

いや。

“支配者”のように。

男は、二人を見下ろしていた。

圧倒的な威圧感。

呼吸すら重い。

犾が、息を呑む。

「……なんだよ……こいつ……」

男が、ゆっくり口を開いた。

「――よく来た」

低く響く声。

空間そのものが震える。

「お前達の力を借りたい」

嶽が睨み返す。

「……誰だ」

男は、僅かに笑った。

「我が名は――ジャカランダ…」

その瞬間。

空気が、黒く染まった。

「我に忠誠を誓え」

玉座の奥。

無数の赤い光が灯る。

まるで、怪物達の眼。

「さすれば――」

ジャカランダの瞳が、妖しく輝く。

「お前達の“望み”を叶えてやろう」

挿絵(By みてみん)

沈黙。

その言葉が。

まるで悪魔の囁きのように、兄弟の胸へ染み込んでいく。

嶽の脳裏に浮かぶ。

裏切った会社。

奪われた地位。

積み上げた全て。

犾の脳裏に浮かぶ。

見下した連中。

認めない世界。

誰も理解しない才能。

そして。

ジャカランダは、静かに笑った。

まるで――

最初から全てを見透かしていたかのように。

――つづく――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ