第48話 侵食 ― 器に流れ込む“全て” ―
第48話
侵食 ― 器に流れ込む“全て” ―
――匠の意識の中/白と黒がせめぎ合う領域――
光が、弾けた。
眩い蒼光が、空間に“骨組み”を描き出す。
線が走り、面が生まれ、輪郭が組み上がる。
――未完成の“何か”。
フレームだけの存在。
だが、それは確かに“形”を持ち始めていた。
「へへっ!いいじゃねぇかぁ…」
ジンクスが笑う。
匠は、その中心に立っていた。
「これが……」
胸の奥で、鼓動が強く鳴る。
「俺たちの“創造”……!」
蒼い光が、匠の左目から流れ込む。
同時に、ジンクスが背後で重なる。
二つの意思が、重なり――
“器”が起動する。
ゴォォォォッ――!!
光のフレームが一気に展開し、
半透明の装甲が、次々と接続されていく。
未完成。
だが、だからこそ――無限に変化する。
『……ナンダ……ソレハ……』
黒い意識が、わずかに退いた。
ユグドラシルの巨体が、反応する。
光と闇が、同時にうねる。
『……キケン……』
『……ソレハ……』
「――創ったんだよ!」
匠が踏み込む。
「お前を止める“形”を!!」
――衝突。
蒼い光が、一直線に走る。
ユグドラシルの腕が振り下ろされる。
激突。
衝撃が、世界を歪める。
ドォォォンッ!!
だが――
止まらない。
匠は、そのまま押し込んだ。
「うおぉぉぉぉッ!!」
ジンクスの声が重なる。
『そのまま行けッ!!』
光のフレームが軋む。
未完成ゆえの不安定さ。
だがそれ以上に――
ユグの“重さ”。
『……コワス……』
闇が、噴き出す。
黒い意識が、侵食してくる。
『……ゼンブ……コワス……!!』
黒い意識が、触れた。
その瞬間。
――ズルリ、と。
匠の腕が、黒く染まる。
「……っ!?」
感覚が、奪われる。
熱い。
重い。
沈む。
頭の奥に、声が流れ込む。
――裏切り
――憎しみ
――絶望
「……ぐっ……!」
膝が、折れかける。
ジンクスが叫ぶ。
『下がるな!!』
『飲まれるぞ!!』
だが――
匠は、止まらなかった。
「……逃げない!……」
黒い意識に、手を突っ込む。
「これも……“お前”だろ……!!」
その言葉に。
ユグドラシルの瞳が、揺れた。
『……ナゼ……』
『……フレル……』
匠の腕が、さらに黒く侵食される。
皮膚が軋む。
意識が削られる。
それでも。
「……痛いのは……分かる……」
一歩、近づく。
「苦しいのも……分かる……」
もう一歩。
「でも……それだけじゃないだろ……!」
――ドクン。
黒い意識の奥で、何かが震えた。
『……イタ……イ……』
微かな声。
光側が、震える。
『……タスケテ……』
だが同時に。
『……コワセ……』
闇が、飲み込む。
均衡が崩れる。
黒い意識が、一気に匠へ流れ込む。
「――ぐぁぁぁぁぁッ!!」
視界が、黒に染まる。
音が消える。
感覚が、消える。
――沈む。
深く、深く。
『……ソウダ……』
黒い意識が囁く。
『……ウケイレロ……』
『……ソレガ……ラクダ……』
意識が、溶けていく。
その時。
――バチンッ!!
『寝てんじゃねぇよ』
頬に、衝撃。
匠の意識が、引き戻される。
ジンクスだった。
『お前、何やってんだ』
睨みつける。
『“背負う”って言ったよな?』
匠の呼吸が荒い。
「……でも……これは……」
「重すぎる……!」
ジンクスは、鼻で笑う。
『当たり前だろ』
肩をすくめる。
『軽いもん背負って“器”とか言ってたのか?』
一歩近づく。
『勘違いすんな』
指で胸を突く。
『一人でやる必要ねぇだろ』
――その言葉。
匠の目が、見開かれる。
ジンクスは笑う。
『俺がいるだろ』
『半分持ってやる』
沈黙。
そして――
匠が、笑った。
「……ああ」
「そうだった……」
再び、前を見る。
黒い意識は、まだ渦巻いている。
だが。
「二人なら――」
拳を握る。
「いける」
ジンクスが並ぶ。
『当然だ』
二人同時に踏み込む。
『「行くぞ!!」』
蒼い光が、再び爆ぜる。
今度は――
黒い意識を“押し返す”のではなく。
包み込む。
『……ナンダ……』
黒い意識が、揺れる。
『……ナゼ……』
光が、闇を覆う。
拒絶ではない。
受容。
ジンクス『逃げねぇ』
『否定しねぇ』
「でも――」
声が、重なる。
『「お前のまま、終わらせる!!」』
――ドクン。
ユグドラシルの中心で、鼓動が鳴る。
光と闇が、激しく衝突する。
そして――
亀裂。
魔方陣が、割れた。
バキンッ――!!
封印が、崩れ始める。
『……マテ……』
黒い意識が叫ぶ。
だが止まらない。
『……ソレイジョウ……』
『……クルナ……!!』
光が、核心に届く。
そこにあったのは――
小さな“光”。
震えている。
泣いている。
『……ジゼル……』
ユグドラシルの、本当の声。
匠が、手を伸ばす。
「……迎えに来た」
あと、少し。
だがその瞬間――
黒い意識が、最後の抵抗を見せた。
『……ナラバ……』
空間が、崩壊する。
『……スベテヲ……トリコム……!!』
暴走。
全てが、崩れ始める。
匠の身体が、さらに侵食される。
半身が、黒に染まる。
「……っ……!」
ジンクスが歯を食いしばる。
『時間ねぇぞ!!』
匠が、前を見る。
光と闇。
どちらも、今にも砕ける。
「……だったら……」
静かに、呟く。
「こっちだって全部――」
一歩、踏み出す。
「丸ごと包み込む!」
手を伸ばす。
光へも。
闇へも。
同時に。
世界が、軋む。
――その選択が、何をもたらすのか。
まだ、誰にも分からない。
だが確実に。
終わりは、すぐそこまで来ていた。
――つづく――




