第46話 降臨― 覚醒する“もう一人の創造主” ―
第46話
交差 ― 覚醒する“もう一人の創造主” ―
――現代日本・模型屋びるどん前/早朝――
澄み切った朝の空気の中、小鳥たちのさえずりが静かに響いていた。
夜と朝の境界線が、ゆっくりと溶けていく時間。
シャッターの開いた「びるどん」の前に――二人の男が立っていた。
匠とびるどん店長・崎森
「……っふぁーぁ!ねっむぅー」
あくびをして空を見上げる匠が、ぽつりと呟く。
向かいの店のシャッターが、ガラガラと音を立てて開いた。
「あっ、会長!おはようございます!」
「おぉ、おはよう!」
軽く手を上げて応じる崎森。
そして、ちらりと隣の匠を見る。
「すっかり夜が明けちまったなぁ……会社、大丈夫か?」
「始発に乗れば間に合うだろ…」
さらりと答えながら、匠は借りたYシャツとネクタイに目を落とす。
少し大きめのサイズ。 そして――正直、センスは微妙だ。
「……朝飯と“コレ”、ありがとな」
苦笑しながらも、その声には確かな温度があった。
「俺のオサガリだからな。少し大きいが……我慢しろ」
「いや、これはこれで味があるってことで…。」
軽口を交わす。
だが、その空気の奥にあるものは――戦場に向かう前の静かな覚悟のようだった。
匠は一歩踏み出す。
「それじゃあ――行ってきます。“店長”」
わざとらしくニヤリと笑う。
崎森も負けじと口角を上げた。
「ああ、いってらっしゃい――“匠くん”」
「へへっ……じゃあな!」
駆け出す。
朝焼けの中へ。
匠とジンクスが重なる、その背中を見送りながら、崎森は小さく呟いた。
「……頑張れよ。二人とも…」
店に戻る。
そして視線の先にあるのは――大型ケースに飾られたジオラマ。
【ジンクス】
【第三十五回 大賞】
【――勝利を信じて。】
「…絶対、…負けんじゃねぇぞ…お前達…。」
崎森は、祈るように呟いた。
――モディアス王国・地下深層封印空洞――
重圧。
空間そのものが、押し潰してくる。
《匠!!》
ジゼルの声が響く。
だが――返事はない。
匠は、魔方陣の前で膝をつき、動かない。
その左目は、蒼く光りながら――時折、黒く濁る。
《……取り込まれる……!》
焦りが、ジゼルの胸を締め付ける。
封印の亀裂は、さらに広がっていた。
ゴゴゴゴゴ……!!
地上へと伝わる振動。
限界は、近い。
――匠の意識の中――
闇。
底のない黒。
その中で、匠は必死に抗っていた。
「……くそっ……!」
身体が、沈む。
意識が、削られていく。
それでも叫ぶ。
「ユグドラシル!!」
声は、闇に飲まれながらも――確かに届いた。
「負けるな……!」
「ジゼルの想いを……無駄にするな!!」
沈黙。
そして――
『……タクミ……』
響く声。
だが、それは“優しさ”ではなかった。
『……オマエハ……イッタナ……』
黒い意識が、形を持ち始める。
『……スベテデハナイ……ト……』
匠は歯を食いしばる。
「そうだ……違うのかよ!」
『……フフ……』
低い笑い。
『……ワタシハ……ミテキタ……』
『……サンビャクネン……』
空間に、映像が浮かぶ。
争い。 裏切り。 奪い合い。 殺し合い。
『……ニンゲンハ……』
『……ナニモ……カワラナイ……』
圧倒的な“事実”の積み重ね。
匠の呼吸が乱れる。
(……くそ……!)
心が削られる。
信念が揺らぐ。
『……オマエノセカイモ……オナジダ……』
『……ナゼ……アラソウ……?』
答えられない。
否定しきれない。
その“現実”が、重くのしかかる。
(……このままじゃ……)
意識が、飲まれる。
『……ソロソロダ……』
黒い意識が、迫る。
『……オマエハ……ココデ……』
その時――
――リーン……
微かな音。
鈴のような、澄んだ響き。
――現代日本・オフィス近くの公園――
「ちっと、早く来すぎたか……」
ベンチに腰掛けた匠が、ぼやく。
視線の先には――一本の大樹。
なぜか、目が離せない。
「あの映像…そ…うだ…たく…みに、あとで連絡…し…」
言葉は途切れ、そのまま横になる。
疲労が、一気に押し寄せた。
そして――眠りに落ちる。
その瞬間。
リーン……リーン……
大樹が、淡く光を帯びる。
鈴の音が、響く。
(……お願い……)
誰かの声。
(……助けて……)
匠の眉が、ぴくりと動く。
「……うるせぇな……」
ぼそりと呟く。
「こっちは……一睡もしてねぇんだぞ……」
だが。
鞄の中。
ヴレイヴァーが、強く光り始めた。
――モディアス王国・地下深層封印空洞――
《……お願いだ……》
ジゼルの声が震える。
《誰でもいい……》
祈る。
《助けてくれ……》
その時。
匠のポケット。
マナストーンが――
眩い光を放った。
《……これは……!?》
――匠の意識の中――
黒い意識が、全てを覆おうとした瞬間。
光が――割り込む。
バチィッ!!
闇が弾ける。
「……っ!?」
一瞬の静寂…。
匠の身体が、引き戻され光に包まれた。
そして――
声が、響いた。
「ったく…うるせぇんだよ!」
低く。
荒く。
だが、力強い声。
黒い意識が、揺らぐ。
『……ナンダ……?コドウノネイロガ フタツ キコエル…。』
光の中から現れる影。
それは――
匠。
だが、違う。
鋭い眼光。 不敵な笑み。
「さっきからよぉ……」
肩を鳴らしながら、一歩踏み出す。
「ガタガタ文句ばっか言いやがって……」
黒い意識を睨みつける。
「でけぇ図体してる割にゃあ――」
ニヤリと笑う。
「“器”がちっせぇなぁ?」
淀んだ空気が、弾けた。
『……ナニ……?』
「そんな小せぇ器に収まるほどよぉ――」
拳を握る。
「俺のダチは、安くねぇんだよ!」
その姿は――
ジンクス・ハーティス。
完全に、覚醒していた。
「悪ぃな」
跪いている匠の肩を軽く手を当て隣に並ぶ。
「ここからは――」
拳を鳴らす。
「“俺のターン”だ」
匠が、息を呑む。
「えっ⁉️……ジンクス……?」
「よう、匠ぃ!」
軽く笑う。
そして、前を向く。
「さあ――」
黒い意識を睨み据える。
「選手交代だ」
――闇と光。
――絶望と意志。
二つの“創造主”が、今ここに揃った。
物語は、最終局面へと突入する。
――つづく――




