表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/43

第38話 再臨-再会と喪失の狭間で-

第38話

再臨-再会と喪失の狭間で-


――現代日本・びるどん3階倉庫。

備品の詰まった段ボールが壁のように積み上げられ、その中央に、幾つものジオラマ作品が整然と並べられている。

そこは、外界から切り離された“箱庭”のような空間だった。

天井の蛍光灯が、小さく唸りながら白い光を落とす。

静かすぎる。

まるで――音そのものが、ここでは許可されていないかのように。

その中心で。

ジンクスは、目の前の男から視線を外せずにいた。

崎森。

びるどん店長。

だが――違う。

“中身”が、違う。

崎森は腰に手を当て、外した眼鏡を指先でくるりと回す。

その仕草すら、どこか記憶をなぞるようだった。

そして、悪戯っぽく笑う。

ジンクス 「本当に親父なのか!」

抑えきれない声だった。

胸の奥に押し込めていた何かが、一気に噴き出す。

脳裏に焼き付いている記憶。

前創造主――先代王ジョーンズ・ハーティス。

そして母、ジェシカ・ハーティス。

二人は、確かに死んだ。

あの戦いで。

そう、思っていた。

だが。

目の前の男は、あまりにも自然に言う。

崎森 「まさか、お前が匠くんの姿で“ここ”に転生されちまうとはなぁ…。」

その声音。

その“間”。

そして――

「くそボウズ」

その呼び方が、すべてを肯定していた。

ジンクス 「……っ」

否定できない。

理屈ではない。

“記憶”よりも深いところで、理解してしまっている。

ジンクス 「お袋は⁉️お袋も一緒なのか!」

一歩、踏み込む。

だが――

崎森は、わずかに視線を落とした。

ほんの一瞬。

それだけで、答えの半分は伝わる。

崎森 「…まあ、お互い積もる話が山程あるからな…、とりあえず上へ行くか…」

背を向ける。

語らない。

今は、語らない。

それが――何より重かった。

ジンクスは、その背を追うと、空気の温度が徐々に変わっていく気がした。

――4階・居住フロア。

扉が開いた瞬間。

空気が、変わった。

生活の匂いはある。

だがそれ以上に、“残り続けている何か”があった。

静かすぎる。

広すぎる。

一人で住むには、あまりにも余白が多い空間。

ジンクスの視線は、自然と引き寄せられる。

部屋の角。

そこに――

小さな仏壇。

そして、一枚の遺影。

見知らぬ女性の写真。

だが。

心が、先に理解していた。

ジンクス 「この人は…まさか…」

声が、かすれる。

崎森は何も言わず、線香に火を灯す。

ゆらり、と煙が立ち上る。

静かに一本、立てる。

そして、手を合わせた。

崎森 「ああ、ジェシカ…お前の母さんだ…」

ジンクス 「……!」

視界が、わずかに歪む。

現実が、遅れて追いついてくる。

崎森 「もともとジェシカは、体が弱かったからな…前の大戦でも無理させちまった…」

煙の向こうで、表情が滲む。

「“ここ”へ転生した時からも気丈には振る舞ってはいたが、二年前に先に逝っちまったよ…」

言葉が、空気に沈む。

重く。

逃げ場なく。

ジンクス 「そうか…」

それしか、出なかった。

ゆっくりと歩み寄る。

線香を取り、火をつける。

手を合わせる。

(……折角会えたのになぁ…)

(こんな形で…お袋…)

合わせた手が、わずかに震えた。

リビングへ戻る。

ソファーに腰を下ろす崎森。

ジンクスも、上着を脱ぎネクタイを緩め、向かいに座る。

近い距離。

挿絵(By みてみん)

だが、埋まらない時間がそこにある。

崎森 「匠くんとは、ここを改装する前からの付き合いでな…俺達を本当の親のように慕ってくれていたよ。」

ジンクス 「…」

言葉が出ない。

だが、聞いている。

崎森 「ジェシカが亡くなった時も毎日のように様子を見に来てくれては…こうして線香をあげては、泣いてばかりいてな…」

視線が、仏壇へ向く。

「彼は、本当に心の優しい良いヤツだよ…」

ジンクス 「ああ、本当にあいつは、良いヤツだよ…」

一拍。

視線を上げる。

「親父…その“匠”について聞きたいことがある。」

空気が、切り替わる。

ジンクス 「あいつは、いま俺達の世界で“創造主”としてアンジュ達と一緒に戦っている。」

崎森 「入れ替わったって事か…」

ジンクス 「ただ、匠は、そのままの姿で“召喚”された事になっている。」

崎森 「……」

沈黙。

思考の時間。

ジンクスはカバンに手を入れる。

取り出す。

小さな機体――模型サイズのヴレイヴァー。

その存在だけが、この空間で異質に浮いていた。

崎森 「おお!ヴレイヴァーじゃねえか!これは、もともと俺の“専用機”だったからな…」

懐かしむように、目を細める。

ジンクス 「俺と匠は、ヴレイヴァーとカイザーを介して情報を共有している。」

一拍。

空気が張り詰める。

「だが、カイザーは、俺が親父に前の大戦で帰ってきてくれと約束して渡したはずが、何故か匠がカイザーを持って現れた。一体、何故なんだ?」

静寂。

崎森は腕を組み、天井を見上げる。

遠く。

過去のどこかを見るように。

そして――

崎森 「確かにあの時、お前から“カイザー”を受け取った。」

ゆっくりと、言葉を置く。

「しかし、“この世界”へ崎森として転生した時、倒れていた俺の手元には、何故かカイザーは、真新しくパーツもランナーに繋がれた状態でパッケージしてあった。」

ジンクス 「……何?」

理解が、追いつかない。

崎森 「元の世界へと戻る術を探してはいたが、創造する力を失ったことに気付き、覚悟を決めて2人でこの世界で生きようと決めた。」

淡々と。

だが確かに重い。

「元の世界を忘れないようにとカイザーを“箱”のまま店に飾っておいた――」

一瞬、言葉が止まる。

「何度か組み立てようと手を伸ばしたんだが、拒まれているような気がしてな…」

「それからプロモデラー…お前と同じ名の“ジンクス”としての匠くんの技術とセンスに惚れてな、息子の代わりにと匠くんになら譲っても良いと思ってあげたのさ。」

ジンクス 「創造力は、ハーティス王家唯一の“力”。」

静かに、しかし確信を込めて。

「匠は、王家の血縁でもないのにあっちの世界では創造する力が使える…どうしてだ?」

崎森 「…匠くんがどうして創造出来るかは、俺にも分からん…。」

だが。

その先の言葉は――重かった。

「ただ大賞を獲ったあの作品『ユグドラシル降臨』…ユグドラシルという単語を見た時は、ゾッとしたよ…」

――その瞬間。

空気が、変わった。

温度が、わずかに下がる。

音が、遠のく。

ジンクス 「ユグドラシル…」

無意識に、口にする。

記憶が、引きずり出される。

「ご先祖様が創造した最初のネンドール…」

喉が乾く。

「ユグドラシルの暴走で王国は、滅びかけた…ユグドラシルを創造した王女ジゼル・ハーティスは、突如失踪。それと同時に聖樹が輝きユグドラシルは、光と共に消失した。…と昔話のように聞かされた事あったな…」

沈黙。

重い。

深い。

沈黙。

崎森が、ゆっくりと顔を上げる。

その目は――もう“店長”のものではない。

崎森 「お前の言うように、あの作品達があっちの世界で実際に起きた出来事だとしたら、再びユグドラシルは、目覚める!」

――ジ、ジッ。

照明が、一瞬だけ揺れた。

それはまるで――

二人の会話に“応答”するかのように。

リーン……リーン……

どこからともなく、微かな鈴の音が響く。

その音は、どこか懐かしく――同時に、ひどく不吉だった。

ジンクスは、無意識に倉庫の方へ意識を向ける。


展示されたジオラマの中。

その中の一つ。

“ユグドラシル”。

その周りが。

蒼く――

静かに、輝いていた。

まるで。

こちらを、監視しているかのように…。

挿絵(By みてみん)

――つづく――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ