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第37話 灯火 -甦る記憶と不敵な笑み-

第37話

灯火 -甦る記憶と不敵な笑み-


モディアス王国・整備ドック―

巨大な整備ドックに、金属音が乾いて響いていた。

だが今は――その音すら、ない。

静寂。

その中心で、匠は一人、腕を組み座っていた。

目の前には――リンクス。

“手入れ”を終えた機体は、まるで呼吸を潜めているかのように静まり返っている。

匠は腕を組み、リンクスを見ていた。

「ん〜……」

匠は、アイザックとの修行の日々を思い返していた。

モップ掛け。

単純だが、徹底的に叩き込まれた“体の使い方”。

アンジュとの組手。

一瞬の隙が命取りになる“実戦感覚”。

背中合わせの《龍虎の型》。

呼吸を重ね、意識を合わせる――同調の極致。

エンプレスの奥義。

シルヴィとの連携。

匠は小さく笑った。

「あの合わせ技……」

視線が細まる。

「咄嗟だったけど……カッコよかったよなぁ……」

ぽつり。

「まるでロボットアニメの必殺技みたいでさ……」

だが、その笑みはすぐに引き締まる。

「でも――」

拳を軽く握る。

「“通用した”だけじゃダメだ」

「次は“通す”」

静かに、言葉を置く。

「確実に決める技にしないと……」

一歩、前へ。

リンクスの装甲に手を当てる。

「……今度、アンジュに頼んで模擬戦やるか」

一瞬の間。

「“模擬戦”やるか”…かぁ、その模擬戦で大変な思いをしたのに…」

匠は、一人ニヤけていた。

だが――

その目は、確実に“前”を見ていた。

そして。

ふと、意識が内側へ向く。

(…それと……)

胸の奥。

“何か”が変わり始めている。

(体そのものが……)

(違う方向に進んでるのか……?)

「ジンクスに話してみるか…」

静かに目を閉じ集中する。

(ジンクス…起きてる?)

一瞬の間。

そして――

『お、おう!匠か!』

軽い声。

だが、どこか余裕がない。

『わりぃ!俺も話したいことあるんだが――』

一拍。

『後でいいか!』

――プツッ。

通信が切れる。

匠は目を開けた。

「……切られた」

少しだけ苦笑する。

「まあ、プレゼンも決まったし……忙しいよな」

だが。

ほんの僅かに――

胸に“引っかかり”が残った。


――モディアス王国・円卓の間――

重厚な扉の向こう、世界は荒れていた。

激しい雨が石壁を叩き、稲妻が夜空を切り裂くたび、円卓の間に白い閃光が走る。

――轟音。

――沈黙。

その繰り返しの中、広大な空間にはただ一人の影だけがあった。

ジャワディー。

彼は、腕を組んだまま微動だにしない。

しかし、その視線は一点に固定されていた。

挿絵(By みてみん)

壁面の最奥――

黄金の縁に収められた一枚の写真。

そこに写るのは、兄ジョーンズであった。

雷光が走る。

一瞬だけ、その表情が浮かび上がる。

誇り高く、そしてどこか無鉄砲な笑み。

ジャワディーの目が、わずかに細められた。

ジャワディー

「敵機のあの能力……」

低く、押し殺した声が静寂に落ちる。

「狙われた秘宝……聖杯……」

言葉を紡ぐごとに、状況の重さが空気を軋ませる。

「ジンクス無き今……」

その一言で、空間の温度が一段階下がったように感じられた。

彼は一歩、前に出る。

迷いを押し殺すように。

ジャワディー

「私は……彼らを、どう導けばいい……」

雷鳴が轟く。

まるで答えを拒むかのように。

沈黙。

そして――

彼の視線が再び、写真へと戻る。

ジャワディー

「……ジョーンズ」

その名は、かすかに震えていた。

「お前なら……どうする?」

問いかけ。

しかし、それに応える者はいない。

ただ――

次の瞬間。

雷光が、これまでで最も強く閃いた。

その光の中で――

写真の中のジョーンズの笑みが、

まるで「迷うな」と言っているかのように見えた。

ジャワディーの瞳が、わずかに見開かれる。

――静寂。

やがて彼は、ゆっくりと目を閉じた。

そして、開く。

そこにあったのは――

迷いではない。

決意だった。

ジャワディー

「……そうか」

短く、しかし確かな声。

彼は踵を返す。

外ではなお、嵐が荒れ狂っている。

だがその背中は、もはや揺らがない。

重厚な扉へ向かいながら、彼は静かに呟いた。

「ならば――導こう」

雷鳴が、それに応えるかのように轟いた。

扉が開く。

白い光が差し込み、彼の姿を飲み込んでいく。

そして――

円卓の間には、再び静寂だけが残された。

壁に掛けられた一枚の写真だけが、

変わらぬ笑みで、その背を見送っていた。

挿絵(By みてみん)



――現代日本・咲希森商店街通り。

終電を吐き出した駅のホームには、もう人影はまばらだった。

シャッターの降りた店々。

途切れ途切れに灯る街灯。

その中を――

ジンクスは、足早に駆けていた。

「やべぇ……」

小さく舌打ちする。

「プレゼンの打ち合わせに時間かかり過ぎた!」

ネクタイを緩める。

呼吸は少し荒い。

「……もう閉まってるよな……」

そう呟きながら、角を曲がる。

――その瞬間。

視界に、違和感が走った。

びるどん。

シャッターが、半分だけ開いている。

そして――

中から、灯りが漏れていた。

(……おっ!開いている?)

足が、止まる。

一歩。

また一歩。

慎重に近づき、しゃがみ込む。

半開きの隙間から、中を覗く。

――いた。

店長・崎森。

静かに、そこに立っている。

まるで――

“待っていた”かのように。

(ジンクス)

「……すみません、遅くなりました」

声をかける。

一拍。

崎森はゆっくりと振り返った。

崎森

「いらっしゃい」

微笑む。

「待っていたよ」

その一言。

妙に――重い。

(ジンクス)はシャッターをくぐり、店内へ入る。

昼間とは違う空気。

照明は最低限。

静まり返った空間。

(ジンクス)

「……あんたに、聞きたいことがある」

間を置かず切り出す。

だが崎森は、軽く手を上げて制した。

崎森

「その前に――」

視線を奥へ向ける。

「見せたいものがある」

振り返ることなく、歩き出す。

(ジンクス)は無言で後を追った。

店の奥。

普段は閉ざされている扉が開く。

その先にあったのは――

直通エレベーター。

(ジンクス)の視線が揺れる。

(奥にそんなものが…。)

崎森

「年を取るとね」

乗り込みながら言う。

「階段がきつくなるんだ」

――チーン。

無機質な音。

扉が閉まる。

静寂。

上昇する感覚だけが、やけに強く残る。

(ジンクス)は、崎森の背中を見ていた。

(……なんだ、この感じ)

言葉にできない違和感。

“知っている”ような。

“思い出せない”ような。

――チーン。

扉が開く。

崎森

「さあ、どうぞ」

一歩、踏み出す。

(ジンクス)も続く。

そこは――

倉庫だった。

だが、ただの倉庫ではない。

壁際に積まれた段ボール。

その中央。

空間を切り取るように並ぶ、ガラスケース。

中に収められているのは――

ジオラマ作品。

複数。

しかも――どれも、異様な完成度。

崎森

「ここにある作品はね」

静かに言う。

「全部――“君”の作品だ」

(ジンクス)

「……」

(ジンクス)は、無言のまま聞いていた。

崎森

「自分の作品だから分かるだろう?」

沈黙。

(ジンクス)は、無意識に一つへ歩み寄る。

覗き込む。

――息が止まる。

(ジンクス)

「……これ……」

震える声。

「第三十回大賞……」

「『光に包まれ消失する“伝説”』……」

次。

「第三十一回……

 『十字に切り裂き銀河を舞う白亜の女騎士』……」

次。

「第三十二回……

 『天に弓を引く生まれ変わった“皇帝”』……」

指先が、わずかに震える。

「第三十三回……

 『女帝と対峙する背中合わせの“皇帝”と“女騎士”』……」

(ジンクス)

(これって匠と共有した情報が“モデル”になっている…?)

そして――

最後。

(ジンクス)

「……第三十四回……」

視線が、止まる。

「『ユグドラシル降臨』……」

――違う。

これだけは…。

明らかに。

他と。

空気が。

色が。

“温度”が。

視界が歪む。

(……なんだ、これ……)

(息が……詰まる……)

胸の奥が、締め付けられる。

破滅。

崩壊。

終わり。

――そんなイメージが、流れ込んでくる。

(ジンクス)

(……知らない……)

(…俺の知らない情報…?)

その瞬間。

一つの確信が、頭をよぎる。

(……違う)

(これは――)

(“未来”の出来事か?)

振り向く。

(ジンクス)

「……あんた」

声が低くなる。

「なんで俺の“通り名”を知ってる」

「何者なんだ?」

沈黙。

数秒。

崎森は、小さく笑った。

崎森

「ふッ……まさか」

「お互い違う姿で再会とはな」

天井を見上げる。

「神の悪戯か……」

「それとも――何者かに仕組まれたか…」

(ジンクス)

「……は?」

理解できない。

崎森は、ゆっくりと眼鏡に手をかけた。

外す。

そして――

真正面から、(ジンクス)を見る。

その目。

その光。

その“温度”。

そして、その不敵な笑み。

崎森

「まぁだ分かんねぇのか?」

口元が歪む。

「くそボウズ!!」

――その瞬間。

時間が、止まった。

視界が、揺れる。

重なる。

“記憶”と“現実”が。

作業台。

ニッパーの切断音。

不器用な手。

そして――

後ろから覗き込む、大きな背中。

(ジンクス)

「……う、嘘だろ…」

声にならない。

目の前の男と――

“あの男”が、重なる。

(ジンクス)

「……まさか……」

喉が震える。

「……親父なのか……?」

挿絵(By みてみん)

沈黙。

だが――

その沈黙こそが、答えだった。

灯りが、静かに揺れる。

それはまるで――

消えかけていた“記憶”に、再び火が灯るように。

――つづく――

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