第36話 千里眼 ― 狙われた王国の秘宝 ―
第36話
千里眼 ― 狙われた王国の秘宝 ―
――クライガスト戦艦・黒帝ブリッジ――
巨大戦艦クライガストの最深部。
黒鉄の装甲に囲まれた玉座の間は、
わずかな灯りだけが揺らめき、深い闇に沈んでいた。
静寂。
重々しい足音だけが響く。
ヴァジェラから降りたガガは、ゆっくりと歩み寄り――
玉座の前で片膝をつき、
頭を垂れる。
「敵の隊長機は仕留め損ないましたが……」
低い声。
「もはや反撃されることはないでしょう」
玉座に座る男――
ジャカランダ大王。
巨体を背もたれに預け、肘掛けに肘をつき、
顎に手を当てながらガガを見下ろしている。
その瞳は――
まるで獲物を観察する猛獣のようだった。
沈黙。
やがて大王は、ぽつりと呟く。
「……剥ぎ取って、吸収…」
わずかに口角が上がる。
「なかなか面白い…。」
その声には、
わずかな愉悦が混じっていた。
ガガは顔を伏せたまま、奥歯を噛みしめる。
(……ギリッ)
(だが――)
(大王は、秘宝の存在は知らない…)
ほんの一瞬だけ、視線が揺れる。
しかし表情には一切出さない。
「では」
ガガは静かに言った。
「ババジャ専用機の製造に取り掛かります」
その時だった。
背後から、か細い声がした。
「あ、兄貴……」
ガガの肩がわずかに動く。
振り返らない。
「……話しかけるな」
冷たい一言。
弟――ギギは言葉を失った。
ガガはタブレット端末を操作する。
空中モニターが展開される。
そこに浮かび上がるのは――
新たなネンドールの設計図。
骨格。
装甲。
武装。
そして――
妖艶なシルエット。
設計データが、静かに起動していった。
闇の中で。
まるで“魔物”が目覚めるかのように。
――モディアス王国・円卓の間――
巨大スクリーンに、戦闘記録が映し出されていた。
そこに映るのは――
ジョルドブルンクス王国の最期。
燃え上がる都市。
崩れ落ちる城。
炎。
剥ぎ取られる機体。
破壊。
爆発。
絶望。
王国は――
完全に壊滅していた。
ノブロコフが重く息を吐く。
「なんと……惨いことを……」
白髭が震える。
「これでは……誰一人生き残っとらんのう……」
アンジュは腕を組み、画面を睨んでいた。
「あのヴァジェラの“爪”」
低く言う。
「かなり厄介よね」
スクリーンには、
敵機体の鋭い爪が映っている。
機体を抉り、そして剥ぎ取る――
そのまま吸収する異形の兵器。
「迂闊に近づいたら終わりよ」
ココルが頷いた。
「匠によると……」
「リンクスが、あの機体を“危険視”していたらしい」
ジャワディーが低く呟く。
「それほどの脅威か……」
その時だった。
スクリーンの向こうで、
アイザックが通信を続けていた。
『……とまあ、こういった状況なのだが――』
しかし。
突然。
画面が揺れる。
別の人物が割り込んできた。
『おっ、おい!』
傷を負った金髪の青年だった。
息を切らしながら、まっすぐこちらを見る。
『お願いがあります!』
深く頭を下げる。
『私はジョルドブルンクス王国――』
『ルイス・ハーゼンと申します!』
声が震える。
『どうか――』
『創造主様に会わせてください!』
アンジュが目を細めた。
「……で?」
冷たい声。
「創造主に会って、どうするの?」
ルイスは顔を上げる。
その目には、迷いがなかった。
『私に――』
『ネンドールを創造していただきたいのです!』
ココルが困ったように頭をかく。
「創造してくれと言われてものぅ……」
アンジュが思い出したように言う。
「そういえば」
「“あいつ”は何してるの?」
ココルは肩をすくめた。
「整備ドックに籠りきりじゃ」
「しかも――」
少し笑う。
「髪の色が、何故か元に戻っとる」
そして言った。
「今の匠に頼めば」
「喜んで創造するじゃろうがな」
アンジュはスクリーンを見つめながら呟く。
「でも……」
視線が鋭くなる。
「なんの目的で」
「あんたの王国は壊滅されたのかしら?」
ルイスはゆっくりと答えた。
『それは――』
一瞬の沈黙。
そして。
『**“千里眼”**が狙いだと思います』
一同が顔を上げた。
「千里眼?」
ルイスが説明する。
『我が王国に眠る秘宝』
『**“スコープ”**です』
拳を握る。
『それを持ち、念じれば――』
『遠く離れていても望んだものの“所在”が分かる』
その瞬間。
王宮の空気が凍りついた。
「……っ!」
ジャワディーが呟く。
「まさか……」
ノブロコフが低く言う。
「聖杯が狙いか……」
アンジュの表情が変わった。
ノブロコフが尋ねる。
「その秘宝は今、どこに…?」
ルイスは静かに袖をめくった。
手首には――
黄金のバングル。
そこには、瑠璃色に輝く宝石が埋め込まれている。
『いまは……』
『私の元にあります』
ノブロコフが目を細めた。
「ほう……」
ルイスは震える声で続ける。
『遠征に出ていたお陰で……』
『奪われずに済みました』
拳を握る。
震えている。
『ですが――』
『王国が……』
『父上が……』
声が詰まる。
涙がこぼれた。
その時。
アイザックが割って入った。
『とりあえず』
『ルイス王子は私が預かる』
静かな声。
『ネンドールに関して言えば』
『復讐目的で乗るのは危険だ』
『意思ごと取り込まれる可能性がある』
そして続けた。
『……とはいえ』
『敵機体が脅威なのは事実』
『私たちが到着するまでに』
『匠君に伝え、検討してほしい』
通信はそこで途切れた。
王宮に静寂が落ちる。
――現代日本・匠のアパート――
匠は部屋に戻り、椅子に腰を下ろした。
ふう、と息を吐く。
その時。
ピピッ
スマートフォンが震えた。
「おっ」
画面を見る。
「雪乃からだ」
メッセージが表示された。
【今日はありがとうございました。
とても楽しかったです!
また“びるどん”に連れて行ってくださいね。
ごちそうさまでした。
それでは、また会社で】
匠は小さく笑った。
「無事に帰れたみたいだな」
しかし。
次の瞬間。
表情が曇る。
頭に浮かぶのは――
赤い風船の少女。
そして。
模型屋びるどんの店長。
「……崎森」
腕を組む。
「あんた、何者なんだ……?」
静かな声。
「今度、暇を見て店に行くか」
その時だった。
ピピッ
再びスマートフォンが震える。
「……っ!?」
画面を見て、匠の目が見開かれた。
「店長からだ……!」
メッセージは短い。
【明日、会社が終わったら店に来てほしい。
ゆっくり話をしよう。
――崎森】
沈黙。
匠はスマートフォンを握りしめた。
そして――
ゆっくり立ち上がる。
「……いいだろう」
目が鋭くなる。
「あんたの正体――」
静かな決意。
「突き止めてやる」
夜のアパート。
静寂の中に、運命が動き始めた。
――つづく――




