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第35話 困惑―揺れる“想い”―

第35話

困惑 ―揺れる“想い”―

――現代日本・模型屋びるどん前――

夕暮れの商店街。

オレンジ色の光が通りや建物を照らしていた。

店の前で立ち止まった(ジンクス)は、ゆっくりと振り返った。

「……あんた」

低い声で言う。

「なんで、その“通り名”を知ってる?」

びるどん店長――崎森譲次朗。

先ほど、確かに言ったのだ。

ジンクス・ハーティスの通り名…

“サウザンドブレイカー”と

(ジンクス)の胸の奥がざわつく。

崎森は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべたままだった。

「まあまあ」

「その話は、また今度にしよう」

そして、顎で通りの先を示した。

「ほら」

「“雪乃ちゃん”が待ってるよ」

一拍置き、少しだけ意味ありげに続けた。

「――“匠”くん」

(ジンクス)は言葉を失った。

しかし雪乃がこちらを振り返るのが見え、慌てて歩き出す。

雪乃は匠が来るのを確認すると、店の方へ向き直り、丁寧に頭を下げた。

崎森は遠くから笑顔で手を振っている。

雪乃は小さく笑った。

「本当に、いい店長さんですよね」

「私、あのお店すごく好きになりました」

(ジンクス)は曖昧に頷いた。

「ああ……そうだな…」

(匠のあの映像といい……)

(あの店長といい……)

(頭がパニックだ……)

考えがまとまらない。

その時だった。

「――あっ!」

雪乃が声を上げた。

「危ない!」

横道から勢いよく自転車が飛び出してきた。

匠は完全に気づいていない。

雪乃は咄嗟に腕を引いた。

「きゃっ――!」

しかし、その勢いで雪乃の体勢が崩れる。

(ジンクス)が反射的に腕を伸ばした。

「危ねっ!」

ぐっと引き寄せる。

そのまま――

抱き止めた。

二人の距離が一気に近づく。

挿絵(By みてみん)

その瞬間。

(ジンクス)の脳裏に、突然――

赤い風船を持った小さな女の子の姿が浮かんだ。

夕焼けの中で揺れる赤い風船。

振り返る少女。

だが、顔は見えない。

「……っ?」

(ジンクス)は瞬きをした。

映像は消えていた。

雪乃の顔が、すぐ目の前にある。

(ジンクス)は慌てて体を離した。

「ご、ごめん!」

「大丈夫か?」

雪乃は固まっていた。

――本日、三回目の完全停止。

顔が真っ赤になっている。

(ジンクス)が心配そうに覗き込む。

「雪乃?」

「怪我してないか?」

雪乃は慌てて首を振った。

「い、いえ……!」

「大丈夫です……!」

少しだけ俯き、続ける。

「でも……よかったです」

「積村さんが怪我しなくて」

(ジンクス)は頭をかいた。

「悪いな……」

「俺がぼーっとしてたせいだ」

少し苦笑する。

「企画も決まったし」

「なんか、いろいろ考えすぎてたのかもな」

そして、真面目な顔で言った。

「ありがとう」

「雪乃には、ほんと助けられてばっかりだ」

雪乃は小さく首を振った。

「そんなこと……」

少しだけ躊躇う。

「私は、積村さんの力になれたらと思って…それに…」

一瞬、沈黙。

(ジンクス)が首を傾げる。

「それに?」

雪乃は顔を上げた。

そして、少し照れながら言った。

「積村さんは――」

「私のヒーローなんです」

(ジンクス)が目を丸くする。

「ヒーロー?」

雪乃は少し笑った。

「はい」

「だから、私も一緒に頑張りたいんです」

夕方の風が、二人の間を通り過ぎた。

やがて雪乃は腕時計を見た。

「あ……」

「私、この辺で失礼します」

軽く頭を下げる。

「また今度」

「びるどん、連れて行ってくださいね」

「それじゃ」

「明日、会社で」

匠は慌てて手を振った。

「お、おう!」

「またな!」

雪乃は笑顔で手を振り、商店街の人混みの中へ消えていった。

匠はしばらくその背中を見ていた。

そして、ふと呟く。

(……さっきの)

(赤い風船の女の子……)

(なんだったんだ……?)

夕焼けの空を見上げる。

胸の奥が、わずかにざわついていた。


――アラベスク・マウザー艦 医務室――

白い医療ポッドの中で、金髪の青年が治療を受けていた。

その傍らで、腕を組んで立っている男。

アイザック・ルークスター。

彼はモニターに表示された戦闘記録を、何度も見返していた。

挿絵(By みてみん)

画面に映るのは――

漆黒のネンドール。

鋭い爪。

そして。

味方機体の装甲が――

剥ぎ取られる。

削がれた装甲は粒子となり、紫の環へ吸収されていく。

まるで。

喰われているかのように。

アイザックは低く呟いた。

「……なんという兵器だ…。あの“爪”…相当厄介だねぇ…」

残酷。

無慈悲。

一切の躊躇がない。

武漢である彼ですら、背筋が寒くなる戦闘だった。

その時。

医療ポッドが音を立てた。

ピ―――ッ

アイザックが顔を上げる。

「目が覚めたか」

ポッドがゆっくり開いた。

中の青年が、荒い息をつきながら目を開く。

アイザックは思い出すように言った。

「確か……」

「バルガス王のご子息の…」

青年はゆっくりと体を起こした。

そして、まっすぐアイザックを見た。

「私は――」

「ジョルドブルンクス王国」

「ルイス・ハーゼン」

拳を強く握りしめる。

「お願いがあります」

アイザックが静かに問う。

「何だい?」

ルイスは迷いなく言った。

「私を」

「モディアス王国の――」

「創造主様に会わせてください。」

アイザックの眉がわずかに動く。

「……会って、どうする?」

ルイスの瞳が燃え上がった。

「王国の」

「父上の――」

歯を食いしばる。

「仇を討ちたい」

医務室の空気が静まり返った。

-つづく-

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