第34話 邂逅 ―巡り合う“想い”―
第34話
邂逅 ―巡り合う“想い”―
――現代日本・咲希森商店街――
休日の午後。
雪乃が目を輝かせた。
「わぁ……!」
「すごい……!」
匠は少し照れたように肩をすくめる。
「そんなに驚くほどでもないだろ」
雪乃は振り返った。
「久しぶりなんです。こうやって商店街をゆっくり歩くの」
少しだけ、柔らかい笑顔。
匠は頬をかいた。
(俺も初めて来たんだけどな……)
「でも悪くない通りだな」
「活気がある」
賑わうこの通りには、焼きたてのパンの香りと、揚げ物の匂いが混ざり合い、通りを歩く人々の笑い声が絶えない。
老夫婦。
買い物袋を抱えた主婦。
食べ歩きしながら楽しそうに会話をしている若者たち。
活気に満ちた商店街の一角に、目的の店はあった。
雪乃は前を指差した。
「あっ!」
「あそこですね!」
《模型屋びるどん》
四階建ての鉄筋コンクリートの建物。
入口のガラス越しに、無数の模型が並んでいる。
二人は店の扉を開け店内に入った。
店内は圧巻だった。
壁一面に並ぶ模型。
工具。
塗料。
改造パーツ。
そして店中央には巨大なショーケースがあった。
そこには――
完成作品が並んでいた。
雪乃は思わず足を止める。
「うわぁ……」
「すごい……」
ケースの上段を指差した。
「見てください!」
「このモデラーさん、大賞連覇ですよ!」
匠の視線もそこへ向く。
そこに飾られていたのは――
巨大な機械の龍を前にボロボロになりながらも立ち向かうロボット。
倒れていく仲間の機体を背に、ただ一機だけが剣を構えていた。
装甲は砕け、片腕は失われている。
それでも前へ出る。
まるで――
守るべき何かがあるかのように。
今にも動き出しそうな躍動感。
そして胸を締め付けるような悲壮感。
見ているだけで、息を飲んでしまう作品だった。
匠は思わず呟いた。
「……ん?」
作品プレート。
作者名。
《ジンクス》
匠の目が見開かれる。
(…匠の作品じゃねえか!)
(そういやぁ、俺様と同じ名前だったな…)
(《ジンクス》……偶然なのか……)
(それとも――)
「積村さん?」
雪乃が顔を覗き込んでいた。
「聞いてます?」
匠は慌てて笑った。
「お、おう!」
「悪い悪い!」
「この作品に吸い込まれそうだったわ!」
雪乃は頷いた。
「分かります」
「なんだか……魂が宿っているみたいで」
「見ていると引き込まれますよね」
その時だった。
棚の奥から声が響いた。
「匠くん!」
振り向くと、恰幅のいい男性が笑って立っていた。
「久しぶりじゃないか!」
「今日は“彼女”とデートかい?」
雪乃、
本日二度目の完全停止。
匠は慌てて手を振った。
「いやいや!」
「会社の後輩です!」
男は朗らかに笑った。
模型屋びるどん店長。
崎森譲次朗。
この商店街の生まれで、現在は商店街会長も務めている人物だ。
雪乃が慌てて頭を下げた。
「は、初めまして!」
「仙道雪乃と申します!」
「よろしくお願いします!」
崎森は優しく頷いた。
「こちらこそ」
「よろしくね、雪乃ちゃん」
その時だった。
崎森の視線が――
匠に止まった。
「……?」
匠が首を傾げる。
「店長?」
「俺の顔に何か付いてます?」
崎森は匠をじっと見つめていた。
懐かしいものを見るような。
それでいて――
信じられないものを見るような目で。
「……匠くん」
「しばらく見ない間に」
「雰囲気……変わったね」
匠は慌てて笑う。
「そ、そうですか⁉️気のせいですよ!」
「気のせい!」
「ハハハ!」
崎森は少しだけ考え込み――
すぐ笑顔に戻った。
「はは、気のせいか。」
「まぁ、今日はゆっくりしていきなさい」
「二階はカフェだから」
「お茶でも飲んでいきなよ」
そして。
匠の耳元で小さく囁いた。
「安心しなさい。」
『君が“ジンクス”だってことは黙っておくよ』
匠の体が固まる。
「……!」
崎森が笑った。
『…この作品の作者のことね』
匠は小さく頭を下げた。
「あっ!……すみません」
「お願いします…」
匠がプロモデラー《ジンクス》であることを知っているのは、
この男だけだった。
二階のカフェ。
そこはモデラー達の交流の場だった。
コーヒーの香り。
模型談義。
そして。
1室毎に区切られた制作スペースまで備わっている。
二人は向かい合って席に座った。
雪乃がメニューを見て目を輝かせる。
「すごい……」
「カフェメニューも豊富なんですね」
「迷っちゃいます」
匠は笑った。
「好きなだけ頼め」
「今日は俺のおごりだ」
雪乃の顔が一気に明るくなる。
「やったぁ♡」
――モディアス王国・整備ドック――
匠は作業台を前に座っていた。
目の前には――
《リンクス》
匠は装甲を外しながら呟く。
「出撃続きだったからな…」
「でも、何故か“お前”とは、前から知っているような気がするよ…」
匠は、“リンクス”と会話するように手入れをしていた。
戦闘で傷付いた箇所を補強して、
バリを削る。
ヤスリを当てる。
スジ彫りし、塗装をする。
丁寧に。
几帳面に。
その時。
整備ドックの扉が開いた。
ココルだった。
「なんじゃ!」
「ここにおったのか!」
そして驚いた。
「ってか!」
「髪が元に戻っておるではないか!」
匠は苦笑した。
「それがさ」
「夜中、急に頭痛がして」
「気を失って……」
「朝起きたら元通り」
ココルの表情が曇る。
「……頭痛?」
「もう一度精密検査を受けた方がいいのう」
匠は笑った。
「でもさ」
「なんか調子いいんだよ」
「体も軽いし」
「頭も冴えてる」
「創造意欲が止まらないんだ」
「ねぇ、何か“創造”するものある?」
ココルは腕を組んだ。
「いまは無いが、まあ……」
「お前さんがそう言うなら大丈夫じゃろう…」
「…じゃが、念のためじゃ」
匠は頷いた。
「…ああ……。」
その時。
匠の左目が――
微かに蒼く光っていた。
――現代日本・模型屋びるどん――
夕刻。
雪乃が深く頭を下げた。
「ごちそうさまでした!」
「ケーキもコーヒーもすごく美味しかったです!」
崎森が笑う。
「それはよかった」
「また来てね」
「はい!」
匠も軽く手を上げた。
「店長、また来ます」
崎森は静かに頷いた。
「そうだね」
そして。
崎森は匠の耳元で小さく囁いた。
「今度は――」
一拍。
「ゆっくり二人きりで話そうか…」
匠が振り向く。
その瞬間。
崎森の声が落ちた。
「サウザンドブレイカー…」
匠の瞳が見開かれる。
「……!」
崎森は静かに微笑んでいた。
だがその目は――
すべてを知っている者の目だった。
-つづく-




