第33話 搾取 ― 剥ぎ取られる“想い”―
第33話
搾取 ― 剥ぎ取られる“想い”―
――遥か宙域・黒帝艦内 玉座の間――
黒帝。
それは戦艦というより――
侵略そのものを具現化した要塞だった。
巨大船体の内部では、重力制御機構が低く唸り続けている。
床を通して伝わる振動が、金属の冷たい響きを生んでいた。
ガガは無表情のままタブレット端末を操作している。
画面に表示されているのは――
《魔導器関連資料》
指先が静かにスクロールする。
ガガ(……器に関する記述。)
表示された古い記録。
――モディアス王国
――聖樹大樹の祠へ封印
さらに次の行。
――ある事件を境に消失
ガガの指が止まった。
「……ある事件?」
僅かな沈黙。
「消失……した、だと……?」
思考が巡る。
(ならば――なぜ大王は、モディアスを狙う?)
視線は動かさない。
だが、脳内では確信が組み上がる。
(……“消えた”のではない)
(“隠された”か……あるいは――)
その時。
闇に沈む玉座から、静かな視線が落ちている。
ジャカランダ大王だった。
深淵のような瞳が、ガガを見下ろしている。
「ガガよ。」
低く響く声。
「ババジャ専用機の進捗はどうだ。」
ガガは振り返らない。
「先の侵攻国家より鹵獲した機体データを基に調整中です。」
一拍。
「完成度は八割。」
横から、ギギが笑い声を上げた。
「はっ! あの国王しぶとかったよなぁ!」
肩を鳴らす。
「バルガスとかいうオッサン!」
歯を剥く。
「まぁゲネルの敵じゃなかったけどな!」
ババジャが低く唸る。
「モディアス王国の動向が気になります故――」
「早々に進めてもらいたいものじゃ。」
ギギが即座に噛みついた。
「兄貴は色々と忙しいんだよ!」
「急かすんじゃねぇ! クソババア!」
ババジャの顔が歪む。
「何をぬかすか! 若造め!」
玉座から静かな声が落ちた。
ジャカランダ大王。
「ギギよ……」
「ガガはそんなに“色々と”忙しいのか?」
ギギは一瞬だけ黙った。
ガガ(……馬鹿がっ…)
その時だった。
ドガァァン!!
黒帝全体を揺るがす衝撃。
デッキが激震する。
警報が咆哮した。
「敵影接近!」
モニターに複数の機体が映る。
ギギが目を見開いた。
「……あれは!」
通信回線が強制接続された。
画面に映ったのは――
金髪の青年。
王族の軍装。
だがその瞳は、涙で歪んでいた。
「よくも……」
震える声。
「よくも我が国を滅ぼしたな……!」
拳を握り締める。
「父――バルガス王の仇!!」
ギギが楽しそうに笑った。
「ガキまで来やがったか!」
出撃しようとした瞬間。
ガガの腕が横に伸びる。
制止。
「お前も十分ガキだ。」
冷たい声。愚弟を見下す冷徹な瞳。
「ゲネルは前戦闘で損耗している。」
一歩前へ。
「――私が出る。」
ジャカランダ大王の口角が僅かに上がった。
「よかろう。」
――宙域。
黒帝の巨大ハッチが展開する。
内部からせり上がる漆黒の機体。
《ヴァジェラ・ジャネス》
武装はない。
盾もない。
ただ――
異様な爪。
機械とは思えないほど鋭く、長い。
ガガの瞳が淡く光る。
「標的……八。」
ロック完了。
王子が困惑する。
「武器を持たない……?」
ガガは静かに告げた。
「武器など不要だ。」
一拍。
「一瞬で――狩り取る。」
ヴァジェラが消えた。
次の瞬間。
敵機の装甲が裂けた。
「なっ――!?」
爪が装甲を抉る。
剥ぎ取られた装甲は粒子へ分解され――
ヴァジェラの背後に輝く紫の環へと吸収される。
兵士が叫ぶ。
「機体が……!」
「喰われている!?」
ガガ(大王の前では、使いたくなかったが……)
爪が赤い軌跡を残しながら素早く走る。
腕。
脚。
装甲。
推進器。
そして――
敵に挑む強い“想い”までも…。
すべてが剥ぎ取られていく。
残されたのは。
コックピットだけ。
ガガが呟く。
「……搾取。」
握り潰す。
閃光。
爆音。
沈黙。
残存機体は恐怖で退避した。
だが。
王子機だけが突進する。
「終わらせてたまるかぁぁ!!」
一閃。
爪が機体を貫いた。
「く……くそぅ……!」
推進光が消える。
機体は宇宙へ漂流した。
ガガは淡々と呟いた。
「感情は――資源効率が悪い。」
戦闘終了。
――現代日本・休日 駅前――
人混みの中。
匠は雪乃との待ち合わせ場所に立っていた。
匠
(あの“映像”…)
頭から離れない。
匠と大樹。
あの光景。
匠
(なんか意味があんのか……?)
頭をかく。
「やっぱ……」
「匠に聞きゃよかったか…」
その時。
「遅くなってすみません!」
雪乃が駆け寄ってきた。
匠は思わず目を見張る。
柔らかな私服。
後ろに纏め上げた髪。
いつもの職場姿とは違う、少しだけ大人びた雰囲気。
「お、おう……」
雪乃が不安そうに聞く。
「やっぱり変ですか?」
匠は慌てて首を振る。
「い、いや…」
「可愛いぜ…!」
その瞬間。
雪乃の顔が一気に赤くなった。
完全停止。
「おーい雪乃?」
「行くぞぉ。」
「……あっ!」
「は、はい!」
二人は並んで歩き出した。
目的地は――
模型屋 びるどん。
――宙域・アラベスク=マウザー艦内――
「SOS信号を受信!」
士官が叫ぶ。
アイザックが振り向く。
モニター拡大。
漂流する機体。
識別コード表示。
アイザックの表情がわずかに変わった。
「……バルガス王の、ご子息か。」
短い沈黙。
そして。
「回収する。」
戦艦が進路を変えた。
暗黒宙域へ向かう。
遠く。
黒帝が静かに離脱していく。
まるで――
何も起きなかったかのように。
――モディアス王国・匠の部屋 真夜中――
リーン……リーン……
静かな部屋に鈴の音が響く。
「うっ……!うぅわぁーっ!」
ベッドの上。
匠が頭を押さえ苦しんでいた。
〈ドクン――!!〉
心臓が強く脈打つ。
匠が目を見開いた。
その左目が――
蒼く光っていた。
――つづく――




