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第32話 軌跡 ― 紡がれる胎動 ―

第32話

「軌跡 ― 紡がれる胎動 ―」

――モディアス王国・書庫――

王城最奥。

そこは、時間そのものが沈殿した場所だった。

幾重にも連なる書架。

天井へと届くほどの高さで並び立つそれらは、まるで歴史という名の“壁”のように空間を囲い込んでいる。

差し込む光は、細い。

高窓からわずかに入り込む光は、埃を帯びながら揺れ、空気そのものが“古い”ことを物語っていた。

静寂。

音はない。

いや――音を許さない。

その中心で。

ココルは、一冊の古書を静かに開いていた。

革表紙はひび割れ、角は摩耗し、無数の手に触れられてきた歳月を刻んでいる。

それは単なる書物ではない――“記憶”そのものだった。

刻まれた表題。

《モディアス王国千年史》

ココルは、ゆっくりと息を整える。

そして、読み上げた。

挿絵(By みてみん)

「今から――三百年前……」

声は低く、重い。

「当時の国王ジューダ・ハーティスは、外敵の侵攻に備え――無人型機動兵器の開発を推し進めていた」

ページをめくる。

――パリ……。

乾いた音が、異様なほど大きく響いた。

「だが、すべては失敗に終わる」

「起動せず、動かず、応答もない」

「計画は……崩壊寸前にまで追い込まれた」

ココルの指が、止まる。

次の記述へ。

「同年――外部星国家ドラグカガンダ国軍、来訪」

わずかに目を細める。

「“友好の証”として贈呈されたもの――」

「プラーバの苗」

「そして、特殊樹液を混合した土で作られた“小型人形”」

沈黙。

ココルの唇が、わずかに動く。

「……始まりは……粘土の人形、か」

ページは続く。

「その人形は、所有者の意思に応じて動作する」

「知能玩具――あるいは、“意思応答体”」

「王子たちはそれを深く愛玩し、日常の中で共に過ごしたと記録される」

「プラーバの苗は、聖域へと植えられた」

「トキノウスの聖杯を祀る泉の傍へ――」

ココルの瞳が、わずかに揺れる。

「……聖杯と、聖樹」

静かに、思考を紡ぐ。

「“想いを糧とする器”と――」

「“想いを具現化する媒介”」

「……噛み合いすぎておる」

ページをめくる。

空気が、わずかに重くなる。

「聖樹は異常成長を遂げた」

「泉の影響を受け――通常の植物とは比較にならぬ速度で進化」

「そして――“反応”を示すようになった」

ココルの眉が、わずかに動く。

歴史が、ゆっくりと――“転換”していく。

「後に、王子ジャスパ・ハーティスと、ドラグカガンダ国王女ジュネイ・ロスティーが婚姻」

「両国は同盟を結び――文化と技術を共有」

次の行。

「二子誕生」

「長子――ジェイド」

「次子――ジゼル」

沈黙。

「ジェイドは武勇に優れ、統率力を持つ王位継承者」

一拍。

「だが――」

指が、止まる。

「ジゼル王女は」

「幼少より、“人形”との異常な共鳴を示した」

ココルの呼吸が、わずかに浅くなる。

「他者では反応しない個体が――」

「王女の手に渡った時のみ、“未知の挙動”を示した」

「……ここから…か…。」

かすれた声。

記録には、少女の言葉が残されていた。

『この子たちは、眠っているだけ』

『心を重ねれば――』

『大きくなれる』

ココルの瞳が見開かれる。

「……“拡張”…?」

「…いや…“覚醒”させたのか……?」

ページが進む。

「研究はジゼルを中心に再設計された。」

指先が文字をなぞる。

「“意思と共鳴する器”」

「……ネンドール理論の原型」

さらに。

「プラーバ樹液混合土は、精神波長を記録・増幅する特性を持つ」

「創造体は、ジゼルの“想い”に応じて変質・拡張」

「やがて――巨大機動体へと変異」

ページの端。

挿絵。

小さな人形。

そして――

空を覆う巨人。

ココルの喉が鳴る。

「最初の……ネンドール」

記録番号。

《第一創造体》

《コードネーム:ユグドラシル》

――その瞬間。

空気が、変わった。

次のページ。

インクは乱れ、文字は滲み、記録は崩壊していた。

「完成後――ユグドラシル暴走」

「王国は、壊滅状態」

「王女ジゼル――失踪」

「同時刻――聖樹、異常発光」

「王都上空――未知エネルギー反応」

「ユグドラシル、消失…」

沈黙。

ココルは、呟く。

「……消えた……?」

その先は――ない。

ページの大半は、焼け落ちていた。

まるで。

“消された”かのように。

残された、たった一行。

『心を持つ器は、やがて主を選ぶ』

――静寂。

遠くで、鐘の音が鳴る。

ゴォン……

ココルは、ゆっくりと本を閉じた。

脳裏に浮かぶ。

銀髪に変化した匠。

異常な精神波形。

重なる“2つの存在”。

「……リンクスとの同調……」

「それが“引き金”となったのか……?」

ココルの声が震える。

「匠よ……」

「おぬしは……」

言葉が、重く落ちる。

「誰に…“選ばれた”んじゃ…?」

その時。

遠く――

プラーバの大神木より。

リーン……

リーン……

澄んだ音。

だが、どこか深い。

それはまるで――

“鼓動”。

新たな命が、世界の奥底で脈打つような音だった。


――クライガスト戦艦〈黒帝〉・玉座の間――

闇。

光は最低限。

そこにあるのは、“支配”の気配だけ。

ガガは一人、タブレットを操作していた。

表示されるのは――禁忌に近い情報。

「……魔導器…器…その他、世界に眠る秘宝の数々……」

低く呟く。

「大王より先に……見つけなければ…」

画面をスクロール。

次の瞬間。

指が、止まった。

「……っ❗」

沈黙。

そして――

口元が、ゆっくりと歪む。

「……これだぁ……」

狂気にも似た確信。

挿絵(By みてみん)

その瞳は、すでに“次”を見ていた。

世界は、静かに動いている。

見えない場所で。

誰にも知られずに。

だが確実に――

“何か”が目覚め始めていた。


――つづく


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