第21話 秘密 ―それぞれの“想い”―
第21話
秘密 ―それぞれの“想い”―
――モディアス王国・格納ドック――
轟音が、ゆっくりと静寂へと溶けていく。
戦闘を終えた二機――リンクスとシルヴィ。
その巨体は光に包まれ、まるで命を閉じるように収縮し、やがて球体ポッドへと形を変えた。
無機質な音声が響き、ハッチが開く。
蒸気が白く立ち上る中、
先に降り立ったのはアンジュ。
続いて、匠――
その一歩が、床に触れた瞬間。
――ガクッ。
「……っ」
膝が崩れた。
ドサッ、と鈍い音。
片膝をついたまま、匠は荒く息を吐く。
肺が焼けるように熱い。視界が、波打つ。
アンジュ
「匠‼」
即座に駆け寄る。
「大丈夫⁉」
その声に、匠は無理やり笑みを作った。
「……う、うん……」
だが、声に力がない。
「……だ、大丈夫……」
手を振るが、指先は微かに震えている。
(……重い……)
(身体じゃない……“内側”が……)
リンクスとの完全同期。
それは、機体と“精神”を直結させる行為。
“人間”が扱うには――まだ、早すぎる領域。
「……先に……行ってて……」
アンジュ
「でも――」
匠
「平気……だから……」
そう言いながら、立ち上がるまでに数秒を要した。
その様子を、少し離れた場所から見つめる影。
ココルだった。
腕を組み、静かに目を細める。
(リンクスと完全同期出来たは良いが……)
(代償がデカすぎるのう)
(体力も……精神力も……まだ追いついとらん)
小さく、息を吐いた。
――遥か宙域。
深淵の闇の中、二つの影が滑るように進んでいた。
クライガスト戦艦〈黒帝〉へ。
その帰還航路。
重低音の駆動音だけが、操縦席に響く。
静寂。
その均衡を、乱暴に破ったのは――
ギギ
「兄貴ィ‼」
身を乗り出し、怒声を叩きつける。
「なんだよ、その機体はよ‼」
拳を叩きつける。
「それにだ……」
歯を鳴らす。
「“魔導器”って何だ⁉」
「そんな話、出動命令にあったかよ‼」
――沈黙。
次の瞬間。
通信は、無言のまま遮断された。
ギギ
「……っ、テメ――」
怒声が途切れる。
数秒後。
別回線が、静かに開いた。
ガガ
『……ギギ』
低い。
底の見えない声。
『その回線は、聞かれている』
一拍。
『今から話すのは――“裏”だ』
ギギ
「……チッ」
舌打ちしながらも、口を閉じる。
ガガ
『大王は、“魔導器”を探している』
『それはな……』
――間。
空気が、重く沈む。
『“器”を持つ者が――』
『世界そのものを、思いのままにできる』
――静寂。
次の瞬間。
ギギ
「ヒャヒャ……‼」
狂気が弾ける。
「最高じゃねぇかよ……‼」
ガガ
『俺は――』
声がさらに低く沈む。
『それを、奪う』
『“俺達のもの”としてな』
ギギ
「ははっ‼」
笑いが止まらない。
「大王を出し抜くって訳か‼」
「いいじゃねぇか……‼」
「乗ったぜぇ‼」
一拍。
ガガ
『……そうだ』
『兄弟で、だ』
2機は、何事もなかったかのように、闇の中を進み続けた。
――モディアス王国・円卓の間――
石造りの広間。
重い沈黙が、空間を支配している。
円卓に集うのは――
匠。
アンジュ。
老神官ノブロコフ。
ココル。
重臣ジャワディー。
誰も、口を開かない。
やがて――
ジャワディー
「……皆に集まってもらった理由は」
静かに口を開く。
「他でもない」
一拍。
「“魔導器”についてだ」
その言葉に――
匠の胸に、小さな違和感が走る。
匠
「……待ってください」
視線を巡らせる。
「王女が……いません」
沈黙。
そして――
ジャワディー
「王女には――」
「この件を、伏せている」
匠
「……⁉」
空気が変わる。
ジャワディー
「敵が口にした“魔導器”」
「正式には――」
「“トキノウスの聖杯”」
匠
「……聖杯……」
その響きが、妙に重い。
ジャワディー
「それは――」
「“プラーバの大神木”の傍の祠に」
「封印されて……いた」
匠
「……“いた”? 」
その一言で、空気が凍る。
ジャワディー
「ある“出来事”がきっかけに」
「封印は解かれ――」
「聖杯は……王女の中に封じられた」
匠
「……なぜ……そんな……」
その時。
アンジュ
「……それは」
震える声。
「……私の、せいなの……」
全員の視線が集まる。
アンジュは俯いたまま、絞り出す。
「……子供の頃……」
「ジュリアと……大神木の傍で遊んでいて……」
「私が……過って祠の封印を……」
喉が詰まる。
「……解いてしまい……」
「…聖杯を壊してしまったの…」
沈黙。
ノブロコフ
「ここからは、わしが話そう」
ゆっくりと語り出す。
「聖杯とは――この国の生命力を担う“器”そのものじゃ」
「“想い”を糧とする器は、この国の根幹」
「それを失えば……全てが崩れる」
匠
「……」
言葉が出ない。
ノブロコフ
「元に戻すには――」
「純真無垢なる王家の血が必要じゃった」
ジャワディー
「そして選ばれたのが――」
「幼きジュリア」
「ジンクスは、猛反発したがな…。」
ノブロコフ
「だが、割れた聖杯は光となり……」
「王女の体へと宿った」
匠
「……それじゃ……」
震える声。
「敵に奪われたら……」
ジャワディー
「……滅びる」
短く、断言する。
「国も……王女もな」
匠の拳が、強く握られる。
(……だから、ジンクスは……)
(“何がなんでも守れ”って言ったのか……)
ココル
「未知の敵機の出現…そして、」
「敵が“聖杯”の存在に気付いた以上、」
低く告げる。
匠とアンジュを見据える。
「こちらも戦力を“底上げ”せねばならん」
「匠、リンクスは完成したとはいえ――」
「精神力も、体力も、まだまだアンジュに及ば ん」
匠「……」
ココル
「アンジュ 、お前さんは戦闘面では申し分ないが……」
「一人で突っ走る癖が、抜け切れん」
「互いを信じ背中を預けられるようにせねばならん」
匠は黙る。
アンジュは歯を食いしばる。
ココル
「……そこでじゃ」
ニヤリと笑う。
「助っ人を呼んでおる」
パチン――
指を鳴らす。
重厚な扉が、ゆっくり開く。
現れたのは――
翠色の髪。
洗練された立ち姿。
気品と威圧を併せ持つ男。
アンジュ
「……っげ‼」
露骨に顔を歪める。
「なんでアンタが来るのよ‼」
男は微笑んだ。
余裕すら感じる視線で、アンジュを見る。
そして――
「久しぶりだね」
一歩、前へ。
「――我が、将来の妃」
――静止。
空気が、凍りつく。
匠の視線が揺れる。
アンジュの瞳が、見開かれる。
そして――
物語は、さらに深い“因縁”へと踏み込む。
――つづく――




