表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
93/114

第10話「ただいまと、おかえりの意味」


 夜19時。


 玄関のドアが、静かに開いた。


「……ただいま」


 その一言は、いつもと同じはずなのに。


 どこか、少しだけ重みがあった。



「おかえりー!」


 リビングから、結翔の声が飛んでくる。


 ぱたぱたと駆け寄る足音。


 そのまま、ぎゅっと抱きつかれる。


「……うん、ただいま」


 真希は少しだけしゃがんで、その頭を撫でた。


 柔らかい髪の感触。


 小さな体温。


 それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。



 キッチンからは、いい匂いがしていた。


 ふと見ると——


 悠真がフライパンを持っている。


「……今日は俺が作ってる」


 少し照れたように言う。


「……珍しい」


「たまにはな」


 軽く笑う。


 そのやり取りが、どこか懐かしい。



 双子はリビングで遊んでいる。


 おもちゃの音。


 小さな笑い声。


 結翔がその横で何か説明している。


 少し前までの“静かすぎる夜”とは、まるで違う。



「手、洗ってくるね」


「うん」


 それだけの会話。


 でも、ちゃんと“繋がっている”感じがした。



 洗面所で、水を流す。


 手を洗いながら、ふと鏡を見る。


 少し疲れた顔。


 でも、前よりも柔らかい。


「……戻ってきたな」


 小さく呟く。


 何が、とは言わない。


 でも、自分でも分かっていた。



 食卓。


「いただきます!」


 5人の声が重なる。


 少しだけタイミングがずれて、笑いが起きる。


「結翔、ちゃんと座って」


「はーい!」


「それ、こぼれるよ」


「うわっ!」


 バタバタしたやり取り。


 でも、その全部が愛おしい。



「これ、おいしい」


 真希がぽつりと言う。


「……ほんと?」


「うん」


 悠真が少しだけ嬉しそうにする。


 その表情を見て、真希は自然と続けた。


「……ありがとう」



 一瞬、空気が止まる。


 ほんの一瞬。


 でも——


 その一言は、確かにそこにあった。



「……どういたしまして」


 悠真が、少しだけ照れながら返す。


 そのやり取りに、結翔が不思議そうな顔をする。


「なんでわらってるの?」


「なんでもないよ」


 真希が笑う。


 本当に、なんでもない。


 ただ、それが嬉しかっただけ。



 食事が終わり。


 片付けをしながら、自然と役割が分かれる。


「それ、こっち置いて」


「うん」


「これ洗うね」


「お願い」


 短い会話。


 でも、ちゃんと噛み合っている。



 子どもたちを寝かしつける。


「おやすみ」


「おやすみなさい!」


 結翔が元気に答える。


 双子はすでに夢の中。



 寝室の灯りを消す。


 静かな時間が、戻ってくる。



 リビング。


 二人だけの空間。


 でも、あの頃のような“冷たい沈黙”じゃない。


 ただ、落ち着いた静けさ。



「……今日さ」


 真希が口を開く。


「うん?」


「“ただいま”って言ったとき……なんか、違った」


 少し照れながら。


「……分かる気がする」


 悠真も頷く。



「前はさ、ただの“帰宅”だったけど」


「……うん」


「今は、ちゃんと“戻ってきた”感じがする」



 その言葉に、悠真は少しだけ考えてから言う。


「“おかえり”も、同じだな」


「……どういうこと?」


「前は、なんとなく言ってたけど」


「……うん」


「今は、“ここに戻ってきてくれてよかった”って意味になってる」



 静かなやり取り。


 でも、その一つ一つが、確かだった。



 ふと、目が合う。


 少しだけ、距離が近づく。


 自然に。


 無理なく。



 そっと、触れる。


 軽く、優しく。


 短いキス。


 それだけで、十分だった。



「……明日も、頑張ろうか」


 真希が言う。


「……だな」


 悠真が笑う。



 特別なことは、何もない。


 劇的な変化もない。



 でも——


 “ただいま”と“おかえり”が、


 ちゃんと意味を持つようになった。



 それだけで、この日常は、


 きっと、これからも続いていく。



 騒がしくて、不器用で、余裕のない毎日。


 それでも。


 その中で、何度でも向き合いながら。



 5人で、生きていく。



 ——終わり。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ